ALLIANCE 人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用
会社における雇用制度は現在、パラダイムシフトにあります。「ライフシフト」「ロボットの脅威」のところでも少しメンションしましたが、これからの時代は、労働人口の減少、先進的機械/技術の導入、そして、外国人の雇用枠拡大など、、。そして、経済成長を前提とした時代につくられた雇用形態である「終身雇用制」は日本においても徐々に機能不全に陥っています。
このような時代の会社と従業員との雇用関係にヒントになる書籍が今回の「ALLIANCE」(アライアンス)です。著者はリンクトイン(LinkedIn) 創業者/リード・ホフマン氏 (他、ベン・カスノーカ氏、クリス・イェ氏)です。 (リードオフマン/ Lead-off man? 野球で言う一番打者のこと。いかにも起業家向けの時代の先を行く正確にぴったりの名前ですね。)
「アライアンス」という雇用形態は、一言でいうと、「会社で働く年数」優先ではなく、「会社と働く人の信頼関係」を最重視する考え方です。(そして、これからの日本社会において、雇用の一つの在り方を示唆していると思います。)もともと この「アライアンス」という概念はアメリカ発で、この信頼関係に基づく「雇用制度」を創り出した要素は3つあると思います。1つはアメリカ(や日本の)現在の経済状態、2つ目が「シリコンバレー」という場所柄。そして、3つめはそこから派生した、著者創業企業「リンクトイン」(LinkedIn)です。
まず、経済状態ですが、雇用関係に関してアメリカにおいても日本においても言えることは、経済成長が安定的であった時代に機能していた終身雇用制 (そして、年功序列制)という雇用形態は、成長停滞期の現在、「硬直的」になっています。 結果として、(アメリカにおいては)昔ながらの出世階段はほどんど見られなくなり、程度の差こそあれ、この伝統的な雇用モデルは世界中でなくなりつつあります。 そして、「今までのようなやり方をこの先続けていくこともまたできない。というのも、今のビジネス界に対する信頼度は史上最低に近いからだ。」(2012.06.13 Forbsより引用) 一方、日本も雇用状況は日本も同じようなものですが、むしろ将来的には日本の方が硬直化する材料は多いのはご存じのとおりです。 また、既存の企業においても、終身雇用を前提とした採用をしづらくなっていることから、社員に期待するのは、即戦力になる人材や「指示待ち」ではなく、「自ら動ける」適応力になります。
2つ目の「シリコンバレー」ですが、「シリコンバレー」という土地は 、スタンフォード大学出の技術者が大学の敷地をスタンフォード・インダストリアル・パークとして新技術の会社を誘致したのが始まりです。その後、ベル研究所から独立した、トランジスタ発明者の一人、ウィリアム・ショックレーが自らの会社を興して以来、インテルをはじめとする多くの 半導体企業が設立されたことからその名前がきています。(シリコンとは半導体の主原料・ケイ素の英語名〝Silicon")
過去、「ITバブル」とか伝えられて以来、現地を訪れる機会のない人間にとってシリコンバレーは、最先端の技術を追い求め、一獲千金を志向する 起業家が右往左往する場所、というイメージを持ってしまうんですが、 それは偏見で、雇用に関して実はものすごく進んでいるのです。どうしてかというと、ネット・IT関係ビジネスは現在、先端ビジネスで、技術革新が早く、 常に新商品、サービスが生まれ、それにより優秀な人材が集まります。(過去の例でも分かる通り)そいった花形産業の事例はいつもその他の産業に徐々に波及していきます。換言すると、シリコンバレーにおける(会社の)雇用関係はこれからの一般的な会社の先端事例をなりうるものなのです。 市場が拡大していく中で競争があり、技術革新が目覚ましいので、会社の盛隆・衰退も短期間のうちに起こりうる、そしてその地域に流入する人材が優秀つまり上昇志向型、そのため雇用 される方も、終身雇用とか、定年まで会社を勤め上げる、という考えの人は少数で、起業をめざすことが多いため、結果的に地域内における労働力の移動が激しいのです。
3つ目の要素は「リンクトイン」。前述したように著者リード・ホフマン氏はリンクトインの創業者で、先に紹介したような、シリコンバレーにおける会社と従業員の 雇用関係を踏まえて、この「アライアンス」という雇用概念を提唱し、実際、リンクトインの雇用形態としてこの「アライアンス」という考え方を取り入れ、実践化・汎用化しています。(ちなみに、リンクトインは、「世界最大級のビジネス特化型SNS、および同サービスを提供するシリコンバレーの企業。2018年4月現在、登録メンバーは5億4千万人を超す。日本では200万人以上が登録している。 2016年12月、米国マイクロソフト社によって262億ドルで買収される。」Wikipediaより)
要するに、「現在の経済成長と今の最先端の産業にある業界の一つの会社で試行錯誤が重ねられた会社と個人が共に納得できる雇用形態(の一つ)が『アライアンス』である」とも言えるわけです。 ("alliance" というのは「「同盟」「提携」の意。そこから派生して業務提携や戦略的同盟といった意味にも使われる。)
「アライアンス」という雇用形態においては、社員(や元社員)と長期的で前向きな関係を築いていくことができます。つまり、会社と個人との間にパートナーシップの考え方が前提だからです。 それは、従来からの「主従関係」とは違う、より「対等の関係」と言えます。 「それは、自立したプレーヤー同士が互いにメリットを得ようと、期間を明確に定め結ぶ提携関係なのです。マネジャーと社員がお互いを信頼して相手に時間と労力を投入し、 結果的に強いビジネスと優れたキャリアを手に入れる、そのための必要な枠組みとなり得る雇用形態です。」 (個人側での継続的な、スキル・知識の習得の必要性は言うまでもありません。)
このアライアンスの基本となる考え方はお互いの「信頼」です。 この考え方の下で、雇用契約が結ばれると、会社と個人は(入社前に)目標とする仕事と期間を設定します(これを本書では「コミットメント期間」と呼んでいます)。もちろん最終期間までの 進捗状況は定期の面接などで確認しあい、最終年度でその達成状況により次のステップを話し合うことになります。会社と個人がお互いその進捗業況、社員の業務態度、会社の業務評価など納得すれば契約の延長も行います、もし個人が期間終了後、別の仕事先を希望するなら、会社も無理には引き止めません。そして、会社は(社員の退職後も)定期的に元社員たちに連絡を取り「元社員のネットワーク」をつくり 今後の製品のモニターになってもらったり、その社員が産後再勤務を希望する場合、優先的に雇用する、というようなお互いが有益となるような「緩い」関係を継続していきます。
アメリカ発のこの新しい雇用関係は、将来的な状況を考えると、日本でも適応できそうです。たとえば、「ライフシフト」にもありますが、「ジェーン世代」(2000年以降に生まれた世代)では、 勤労、学習、NPO、社会参加他自分のやりたいことなどを、人生で何回か繰り返していくようになるので、そういった「多様な生き方社会」に、このような「終身雇用を前提としない」雇用形態は親和性が高いと思います。
本書「ALLIANCE」の初めに「監訳者による『少し長めの」まえがき』」(篠田真貴子氏)が記載されていますが、篠田氏も、「会社と働く人の信頼関係を最重視する姿勢は、これからの社会において無視してはならないものです。つけ加えると、そういった姿勢は一時的なトレンドではないと私は考えます。会社と個人が、人間が古来からずっと追い求めている「信頼」に基づいた関係を築く。本書のコンセプトの「アライアンス」は本質的であり、普遍性があると私は思います。」と語っています。 最後になりましたが、実は、本書で一番、印象的(つまり心に残る)だったのはこの「まえがき」でした。時間のない方はせめてこの「まえがき」だけでも是非読んでみてください。