川口市の悪質運転(中国籍)による死亡事故で危険運転致死傷に問うための法改正に関し法制局に問うた件
きたクラッシュ(-_-;)
参議院法制局への依頼内容
去る9月29日、埼玉県川口市の市道交差点で発生した乗用車同士の衝突事故では衝突を受けた車両の運転手が死亡しました。事故の原因としては、一方通行の逆走、飲酒をした上での運転、時速100キロを超えるスピード超過が報じられています。下記の件を検討頂けないでしょうか。
*極めて悪質だと言える交通事故案件であると承知しますが、事故現場の道路では政令の規定などから危険運転は適用できなかったということが報道されています。
*多くの国民から「この事故において自動車運転処罰法違反の危険運転致死の容疑を適用できないのであれば、それは法に不備があると言わざるを得ない」という声が上がっています。法および法の運用がどのようであれば今回の事故のケースにおいて危険運転致死が適用されるのかを検討したいと思います。
*現状の規定についてどの部分をどのように変えることでその意に応えることができるのか、当該法のそれ直接的に係る箇所と改正案をご教示賜れば幸いです。
(事故の詳細な調査記録を持ち合わせていないので、それを前提とせず、報道から読み取れる状況以外は想定でお願いします。)
参考
時速100km超の飲酒逆走死亡事故に「危険運転」不適用 専門家「法改正しかない」
KSB5ch
https://news.ksb.co.jp/ann/article/15473043
参議院法制局からの回答
現行の「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」を改正するには特にどの点に危険性・悪質性を見いだすかの政策判断をし、過失運転致死罪等と比べて重い処罰に見合う行為としてどのように類型化するかを考えることになります。
法務省の「自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会」において一定の議論がされていますので、これをご紹介させていただきます。
アルコール基準値について
自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会
橋爪委員「体内のアルコール濃度が一定の程度に達した場合には、およそ正常に運転する能力が失われているわけですので、一律に正常な運転が困難な状態に当たるとして、危険運転致死傷罪の成立を肯定すべきであると思われます。体内のアルコール濃度が上記の程度に達しない場合であっても、体調不良等それ以外の事情があいまって正常運転が困難な状態に陥る可能性があるように理解いたしました。」
宮村委員「個人差を凌駕するような数値基準を血中アルコール濃度でもって設定するのは困難であると考えます。」
波多野委員「呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上で死傷事犯を起こした場合は、危険運転致死傷罪を適用できるようにすべきであるという御意見を伺いました。一般感覚とすれば、私もそのように思うわけです。『その他交通に危険を及ぼす酩酊状態』という文言を付け加えるという案を出しましたが、これは現状の不安定さを軽減してほしいということで出した案です。」
小池委員「一定の血中アルコール濃度が出る状態であれば運転能力に一定の障害が生じるという限りでは、一律に考えることが許されるとの趣旨で受け止めることができるのではないかと考えております。数値基準を下回る場合でも体調不良等のほかの要素とあいまって運転能力がより低くなる場合があり得る。アルコールが影響していると認定できるのであれば、競合する原因もあるとしても、危険運転致死傷罪を適用すべきであって、それを可能とするため、実質要件は存置する必要があると考えます。したがって、『正常な運転が困難な状態』という現行法の文言を残しつつ、言わばその例示として数値基準を書き込む改正を目指すべきではないか。」
私見→正常な運転が困難な状態という規定で異常な運転行為を捉えることは法律家には無理だと思います。死傷事故を起こした運転者は運転の危険性を過少に評価したことが事態を招いているのだと思います。正常な運転が困難な状態は1要素によってのみ起きる現状とは限らないという論点が加味されるようになったことは実態に近づきつつあると思います。
【法第2条第1号】 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で
自動車を走行させる行為を行い、よって人を負傷・死亡させた者
【法第3条第1項】 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転
に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又
は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷・死亡させた者
城祐一郎氏は著書において「自動車運転死傷処罰法の第二条一項の危険運転致死傷罪と第3条一項の危険運転致死傷罪とは故意の内容が違う。第三条一項では「正常な運転が困難な状態」を認識する必要があるのに対して、第二条一項ではその認識が不要である」と説明している。
私見→状態の如何を問わず危険運転致死傷罪に問えると解釈できます。
「時速100キロを超えるスピード超過」について
【法第2条第2号】 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させ
る行為を行い、よって人を負傷・死亡させた者
自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会
波多野委員「具体的な改正の条文案ですけれども、まず、同条第2号の1として、『一般道で法定速度のおよそ2倍を超え、自動車専用道路又は高速道路で制限速度のおよそ1.5倍を超える高速度で自動車を走行させる行為』と、同条第2号の2として、『前号に該当しない場合でも、道路の形状、路面の状況、車両の構造・性能、他の車両の交通状況、他の歩行者等の交通状況、その他道路交通状況に照らし制御困難な高速度で自動車を走行させる行為』とする案です。福井地裁令和3年9月21日判決についてです。判決文によると、この事件は、呼気1リットルにつき0.15ミリグラムという数値で、酒気帯び運転であり、パトカーによる追尾からの逃走中に、住宅密集地の幅6.5メートルの路地を、時速105キロメートルで走行し、1名を死亡させ、1名を負傷させたというもので、過失運転致死傷罪で判決が確定しております。この福井の事件は、これほど悪質であっても、過失運転致死傷罪の認定にとどまっており、到底一般常識とは相容れないものだと思っております。」
小池委員「自動車運転死傷処罰法第2条第2号の意義を理解し、共有する必要があると思います。同号の解釈として、直線道路でも、速度が速過ぎて、ちょっとした操作ミスや路面の凹凸があっただけでコントロールを失って、進路を逸脱してしまうような危険があるという高速度の走行であれば、本類型の危険運転に該当し得ると考えられます。」
合間委員「高速度だからといって直ちに危険というわけではなく、カーブなどで転倒
するということは、危険運転の事案でよくある話ですし、また、立証の問題と絡みますけ
れども、例えば、最高速度の2倍以上という基準になったときに、2倍以下であっても危険なことはあるし、また、検察官は2倍以上と主張しても、裁判所の認定が2倍以下となるというのは、速度の場合、十分あり得る話なので、それについての手当てはきちんと持っておかなくてはいけないと思っています。」
安田委員「対向車等や歩行者等の状況にも対処することが困難な状態で」といった文言を加えないといけないように思われるわけです。」
小池委員「アルコールの場合は、たくさんお酒を飲んでいて、これだけ飲んでいて酒が回っているという事実は認識できますが、それを数値に置き換える感覚は、全くないという人
が多いと思うのです。それに対して、速度については、すごいスピードを出しているということは認識している人が、厳密に時速何キロメートルということまでは考えていないとしても、形式要件にあたる高速度についての未必の故意を取れることは十分あるのではないかという気もしています。」
私見→波多野委員の案どおり法第二条二号の「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に1として「一般道で法定速度のおよそ2倍を超え、自動車専用道路又は高速道路で制限速度のおよそ1.5倍を超える高速度で自動車を走行させる行為」を加えることに賛成します。川口市でのさいたま地検のケースとほぼ同様の事例として福井地裁の判決が過失致死傷罪とされたのも故意について具体的な判断基準が法に備わっていないことが招いた悲劇的判決だったと思います。基準には厳しく設定しても裁判所は独自にそのハードルと状況によっては上下して判断する事例もあることからまずは数値設定を急ぐべきだと思います。
「一方通行の逆走」について
【法第2条第8号】 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその
他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるもの(※)をいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為を行い、よって人を負傷・死亡させた者
平成25年11月12日参議院法務委員会
自民党若林健太議員の質疑の中で政府参考人が一方通行の逆走について触れている。
「ご指摘の通行禁止道路につきましては道路交通法で通行が禁止されている道路のうち、その道路を通行の禁止に反して走行することの危険性や悪質性が類型的に高いもの、すなわち、他の通行者から見ますと自動車が進行してくるということはないはずであるという前提で通行しているにも関わらず、禁止に反して自動車が通行してくるとそういう場合があるということに着目しているわけでございまして、そのような場合には他の通行者からすると回避するための措置をとることが通常困難であるという意味で、この通行禁止道路を通行する者が類型的に危険性・悪質性が高いと考えそれらを選定することとしているところでございます。具体的に現段階で考えておりますのは、車両通行止めの道路、自転車及び歩行者専用道路、一方通行の道路の逆走、高速道路の逆走などを対象とすることを想定してございます。」
上記の答弁からも危険運転致死傷罪に問えるように法整備する方針を政府参考人は回答している。ただし、本法ではなく政令で規定することを前提としている。あえて政令で規定するのは弾力的に見直すことができるようにするためとしている。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律に関するQ&A(法務)
Q3 危険運転致死傷罪に,新たに通行禁止道路の進行(第2条第6号)を追加したの
はなぜですか。また 「通行禁止道路」とはどのようなものですか。
「通行禁止道路」がどのようなものかは,政令で定められており,具体的には,
○ 車両通行止め道路
○ 自転車及び歩行者専用道路
○ 一方通行道路(の逆走)
○ 高速道路の反対車線
○ 安全地帯又は立入り禁止部分(路面電車の電停等)
が当たります。
私見→法制局へ依頼した内容は川口市の死亡交通事故についてどのように自動車運転処罰法を改正すれば危険運転致死傷に問えるようになるのか、ということであったが、通行禁止道路について施行令で逆走が該当することが明らかであることがわかった。該当する項目があるにも関わらずさいたま地検が危険運転致死傷での立件を見送ったのは当該法の条項の中で個別に優劣をつけているということであろう。たとえ、法規定に当てはまっていてもスピードや飲酒に関する項目に合致し、それが殊更に当てはまらない限り適用しないということだろう。法律をどのように変えるというよりも一番大きな問題は検察が過去の判例に引っ張られ過ぎていて条文の優劣を独自に設定し、勝手な判断基準を法律とは別物として構築していることが問題なのだと理解する。決して法の不備ではなく、検察が危険運転致死傷で立件するための基準を甚だ高く自分勝手に設定しているに過ぎないのだと思う。安全に確実に迷う余地のない完璧な状態での起訴であることが正義だと思い込んでいる検察の体質が世論との大きな乖離を招いている。
現在、法務省内でも「自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会」で有識者らの意見を取りまとめるなど法改正への準備が進められている。