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混乱の兵庫県政、告発文は本当に嘘八百か(前編)

2024.11.06 07:32

標語、検討。

混乱の中で斉藤元彦元兵庫県知事の出直し選挙が告示

元県民局長による告発文は嘘八百なのか、それとも真実なのか

兵庫県知事選挙が違った意味で熱い。何が違うのか。各候補者の政策論争から焦点が反れてしまっている。そもそもこの選挙が行われるのはパワハラなどの内部告発を巡り県議会で不信任決議を受けた斎藤元彦兵庫県知事が9月末で辞職して出直し選挙を行うことを決めたからだ。

 問題の発端は今年の3月12日に当時の西播磨県民局長が知事に対する7つの疑惑を明記した文書を県議会議員、マスコミ、警察に配布したことによる。記載された疑惑の内容は、

知事に関して

1. 職員を怒鳴りつけるなどのパワハラ

2. 企業から贈答品を受け取っていたこと

3. 産業労働部長らを連れて商工会などに出向き知事選での投票を依頼した

 副知事に対して

4. プロ野球優勝パレードに必要な寄付金集めで、補助金を増額しキックバックさせた

5. 公益財団法人の理事長に対し、副理事長2人の解任を通告し強いストレスをかけた

6. 知事の政治資金パーティー券の購入に関して商工会議所に対して圧力をかけた

7. 知事選で事前運動した

以上の7項目である。このような文書が配布されるに至ったのは兵庫県庁内で派閥による主導権争いが存在していたことによる。斎藤元彦知事に不平不満を募らせたグループが存在していた。斎藤知事は牛タン倶楽部と呼ばれている仙台勤務時代からの仲間を重要ポストに据えるなど優遇したり、議会に関しても議員定数の削減や報酬削減などを打ち出すなどしたことから抵抗勢力を生んでいたことは確かだ。そのような不満分子が影日向に暗躍していた状況にあった。

告発内容それぞれの真偽は

配布された書面に対し斎藤元彦知事は3月27日の記者会見で、「事実無根の内容がたくさん含まれている。嘘八百を含めて、文書を作って流す行為は公務員として失格」と強い言葉で批判した。元県民局長の公用パソコンは没収されパソコンに残されたデータが解析された。県は5月に内部調査で「文書は核心的な部分が事実ではなく、真実と考える合理的な根拠は何ら示されなかった」と結論を出して男性職員を停職3カ月の懲戒処分にした。

告発者が誰なのかを突き止める調査に利害関係者が含まれていたことから兵庫県議会は百条委員会を51年ぶりに設置して改めて究明することとなった。百条委員会は7月末に辞職した片山安孝前副知事をはじめ県職員らを証人尋問。告発した元県民局長にも出席を求めていたが7月に自殺しているのが見つかった。

1.について8月末には百条委員会で斎藤知事が出席しパワハラを認めることは無かったものの、20メートル手前で降ろされて歩かされたことを「強い言葉で厳しく叱責した」ことは認めている。しょうもない出来事にも関わらず強い言葉で厳しく叱責することは正しくパワハラそのものなのではないか。同時期には百条委員会に初めて知事によるパワハラ被害を訴える者が勇気を出して名乗り出ている。知事は「不快な思いをさせたのであれば謝りたい」と発言しているが、知事が主張するパワハラではなく正当な叱責であるのならば誤る必要などない。王様や貴族でもたかだか20メートル歩かされただけで強い言葉で厳しく叱責することはないであろう。当時の斎藤知事がいかに傲慢であったか察することはできよう。

2.について亡くなった県民局長が遺族に託した音声が百条委員会に提出されている。その音声データでは確かに知事がワインをおねだりする声が収録されてはいるが糾弾されるほどのものではないと思われる。その他に贈答品としてコーヒーメーカーを受け取るように産業労働部長に指示したとされるが、こちらは実際に受け取っていた。だが、告発文書が明るみにでると産業労働部長がこっそりと返却していた。この問題は刑事告発されて産業労働部長が警察の事情聴取を受けている。贈答品に関して県産品のPR名目で多数の物品が知事に送られているし、視察時に手土産も多数受け取っている。それらを贈賄だと決めつけることは聊か暴論にも思える。私利私欲を出さず公人であることを強く意識していれば多少の物品を受け取ることは何の問題もないことであろう。斎藤知事がとった中途半端な態度や発言が斎藤知事の隠れアンチに揚げ足をとられる結果を招いたと言える。

3.の知事選での投票の依頼は当事者によって発言が否定されていることから未来永劫真相は不明のままである。これを主張したところで水掛け論にしかならない。

4.この問題は刑事告発されているので警察の捜査の進展を待つべきではあるが、疑惑の状況だけ触れておく。プロ野球優勝パレードの開催が決定し4億円ほどの資金が必要となった。県は県下企業に寄付を依頼するとともにクラウドファンディングなどを使って寄付金を集めたが3億円ほどが不足した。パレード開催の前日となって片山副知事が県下の金融機関に改めて寄付金の増額を依頼する。前日の依頼であるから金融機関側にパレードでの宣伝広告などのPRメリットは間に合わず見込めない。それにも関わらず各金融機関からの寄付金は軒並み増額され一気に膨らむ。中心となって動いたのは但陽信用金庫である。片山副知事が前日に唯一訪問した金融機関だ。但陽信用金庫の寄付は50万円から300万円に増額された。片山知事からの依頼を受けた但陽信用金庫は尼崎信用金庫、姫路信用金庫など県下の金融機関に軒並み連絡をして、県に代わってパレードへの寄付金の大幅な増額を依頼する。表向きは何のメリットもない増額であるが何故かほとんどの金融機関が一気に寄付金を増額することとなった。亡くなった県民局長が書いているのは、寄付金の不足分を信用金庫への県補助金を増額し、それを寄付としてキックバックさせることでパレードの費用の不足を補ったということである。つまり、寄付金と補助金がセットであったという疑惑だ。ここに登場する補助金とは県の金融機関向けの中小企業経営改善・成長力強化支援事業による補助金のことである。2023年11月14日の財政課長査定の段階では補助金総額は1億円だったが、16日の産業労働部の事業計画では総額3億7500万円に増額され、21日に斎藤知事の判断で4億円が補正予算に組まれることになった。この補助金が増額されなければ金融機関の寄付の増額もなかったのではないかという疑惑について一部の金融機関の幹部が証言してしまっている。金融機関の内部のメールやLINEを証拠として一部メディアに公開し、金融機関内で寄付金と補助金がセットであることを説明するやりとりや、増額する金額や他の金融機関の動きなどがその証拠から読み取れる。公式には各金融機関は寄付と補助金の関係を否定している。しかし、金融機関が何のメリットもない寄付の大幅増額を足並みそろえて短時間で決定することは奇跡であってもPCが故障しても起こりえないのではないか。寄付金増額の背景には補助金の増額があったという金融機関幹部の証言は動機付けとして妥当と言えよう。この一件も市民団体によって刑事告発されており告発文にある密約の有無は捜査の結果を待つ他ない。

5.6.に関しては当事者の確認が取れていない。真偽は定かではない。

7.の前回の知事選挙での事前運動に関しては疑義が晴れていない。以前から斎藤知事は選挙運動員買収の容疑で既に刑事告発されていた。地元政治家29人に労務費報酬を支払いながら選挙運動にも参加させていた疑いである。29人の政治家のうち14人が斎藤知事の応援演説を行ったことが問題視されている。労務費を払う対象はウグイス嬢やパスター貼りの作業員に限られる。選挙運動に関わる人員に報酬を支払うことは禁じられている。問題視されている14名の中には自民党の盛山正仁衆議院議員も含まれていた。事前運動に関しては斎藤知事が大阪府財政課長として視察に兵庫県に行った際に短時間の演説を行い、その時に出席した者がアンケートに当事者として回答している。とはいえ、その時の音声が示されたわけではないことから違法性は問えないと察する。

県職員の42%が斎藤知事に否定的

以上が所謂7つの疑惑である。パワハラ、贈答品、キックバック、事前運動以外の事項は虚偽とは断定できないものの確証は得ることはできない。つまり、半信半疑もしくは事実無根のことだ。贈答品の授受、補助金のキックバックに関しては警察がいずれ判断することになる。告発者である元県民局長が必ずしも正義とは言い切れない。一方、知事はこれらを単なる言いがかりだと切り捨てることはできない。県職員(約9700名)に行われたアンケート調査の結果では42%が知事によるパワハラを見聞きしたと回答している。百条委員会でも知事からパワハラを受けたという被害者が証言している。アンケートの回答は伝聞が多いために事実とは異なる可能性が高いものの、少なくとも約4000名もの職員が知事に対して否定的な回答を行っている事実は見逃せない。一般企業の社長がこのような状態に陥ると忽ち倒産に至るか内部崩壊を招き事業の継続が困難な状況に陥るだろう。

以上のことから元県民局長が配布した告発文は頭ごなしに怪文書ないしはデマだと決めつけることはできない。パワハラに関しては12月に百条委員会が正式な見解を出すだろうし、事前運動に関しても然りである。

(前編はここまで、後編では選挙戦について触れる)


参考

【まとめ】兵庫県知事、「失職・出直し選」を選択◆パワハラ疑惑、これまでの経緯を振り返る 時事通信

https://www.jiji.com/jc/v8?id=202409saito-hyogo-team

公益通報とは? 兵庫県と斎藤元彦知事の対応はどこが問題なのか 読売新聞

https://www.yomiuri.co.jp/national/20240909-OYT1T50160/

独自】「斎藤知事からパワハラ受けた」兵庫県職員が初の直接証言 ”非公開”の証人尋問で証言…兵庫県の百条委員会 MBS

https://news.yahoo.co.jp/articles/3dbb76b3b1eed03d02fd72f22411c3da85330e54

「兵庫県職員アンケート調査」中間報告

https://web.pref.hyogo.lg.jp/gikai/gaiyo/koho/documents/060823_2.pdf