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小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第二章 深淵 21

2024.11.10 03:00

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第二章 深淵 21

「胡英華か。」

 ほんの数日しかたっていないにも関わらず、荒川にもそして嵯峨や今田にとってもかなり長い時間が経過しているような気がした。

 荒川が、日本を離れている間に、「死の双子」のウイルス事件が今度は福岡で発生していた。今田陽子は、内閣官房として、すぐに、福岡県警と福岡市役所に支持し、感染者の隔離を支持した。そして阿川首相の名義で自衛隊の出動を命じ、その観戦者の出た一体と、その感染者の住所地を監視した。さすがに日本は憲法9条の関係で、戒厳令のようなことはできない。実際に2020年の新型コロナウイルスCovid19ウイルスの時も、都市封鎖はできなかった。軍隊がない上に憲法上の人権として「移動の自由」が書かれていることから、よほどのことがない限りにおいて、風さはできないということになっているのである。

 ちなみに、この「国民の権利」に関して言えば、実は戦前の大日本国憲法の時も同じであった。戦時中に「軍事的な要衝」に住んでいる人を強制的に移住させることができなかったというのが、日本の長所でもあり弱点になった。太平洋の島々で戦争を行うにあたり、日本はその島に住み住民たちを強制的に移住させることができなかった。そのことから日本の軍隊は、住民の防衛をしながらアメリカ軍と戦わなければならないということになってしまったのである。そのことが、ある意味で、平時には軍隊に農作業などを指せない「屯田兵ではない」というようなことをしたのであるが、一方で、サイパンでの「バンザイクリフ」や沖縄戦での住民の大量の犠牲など、様々な意味で一般住民を犠牲にすることになり、また、戦後も中国国内に残留孤児が多く残ることになってしまったのである。その様に考えれば、何も平和憲法だけの問題ではないのが、「住民の権利」の問題であるといえる。

 今回の「死の双子」に関しても、政府は中国によって又は少なくとも人為的にばらまかれたウイルスであるということを発表していない。また、このウイル氏がそれほど大きく広がっていないことから、被害も少ないので、福岡の街はそれほど大きな混乱にはなっていない。当然に、長崎においても同じだ。しかし、これが表になることも想定して置かなければならない。

「はい、中国の常務委員会が一枚岩ではないということを言っているようでした。」

「本来ならば、ちゃんと調べてこいと言いたいところであるが、まあ、その状態では不可能であろう。実際にすべて監視されているという事であろうから、動きも制限されるであろう。まあ、その兆しを掴むことが大きなものであろう。」

「しかし、殿下、何故胡英華は接触してきたのでしょう。」

 今田陽子は、そのように疑問を挟んだ。

「どういうことだ」

「はい、私が政府の立場ならば、そもそも荒川さんのことは政府で共有しているはずです。少なくとも人民解放軍の情報部署ならば、その行動把握しているでしょう。つまり、周毅頼など、他の常務委員も荒川さんの行動はよくわかっているはずです。その中で胡英華が荒川さんに接触したということになれば、当然に、常務委員会の中で胡英華が狙われることになります。当然ンいそのことで、常務委員会の中での対立は浮き彫りになるでしょう。特に、これからのウイルスの問題などが日本が解決してしまえば、胡英華が中国の中で狙われることになると思います。そこまでのリスクを冒して、何故荒川さんに接触したのでしょうか」

「なるほど」

「そうですね」

 嵯峨と、荒川は頭をひねるしかなかった。

「同時に、荒川さんが『沖田』という偽名を使っていることもよくわかっていたということになります。つまり、こちらに中国に向けたスパイがいるということになります。もちろん我々の中身ではないにしても、政府の中には中国政府につながっていたり、買収されている人がいてもおかしくはありません。」

 今田はそのように言った。

「わかった。それで、どうする」

「二つ方法があるような気がします。」

 今田は息をついた。

「一つは、このまま放置して、粛々とウイルスの排除を行うということです。ある意味でワクチンの開発ができたということを明らかにしてしまえば、中国側は動くしかないということになります。常務委員会は、国家機密的なウイルスに関して、簡単にワクチンや治療方法が見つかったことを驚き、常務委員会の中に情報を出した犯人探しをするということになります。その様になれば、当然に、胡英華が疑われることになり、そして胡英華が負けることになるでしょう。しかし、常務委員会は半減することになりますし、胡英華につながる人民解放軍も共産党の役人たちもいなくなります。」

「なるほど、それは一つの手だな。胡英華も、ただやられるようなことはしないであろうから、それなりに内戦、少なくとも内部的な対立を行うことになる。その場合に、中国の弱体化が見込まれるという事だ」

 嵯峨は、相変わらず水割りを飲みながら答えた。

「もう一つは、胡英華に協力するということです」

「つまり」

「はい、つまりもう一度荒川さんに、今度は装備を整えて向こうに行っていただき、胡英華と連絡を取って、そのうえで・・・」

「しかし、装備などといっても、自衛隊が行くわけにはいかないし、場合によっては戦争になるわけだろ」

「何言ってんのよ。自衛隊より強い軍隊がいるでしょ」

 部屋の隅にいた菊池綾が声を上げた。

「向こうも九州の津島組と提携しているのよ。ある意味で、うちの旦那や、京都の虎徹が中国に行くぶんには、それなりに力になりますよ」

「まさか暴力団を・・・」

 荒川は躊躇した。

「荒川君、悪いがもう一度中国に行ってくれるかね。」

「殿下」

「この事務所は政府ではない。陛下の宸襟を案じ奉るには、そんな平時の職は関係ないのだよ」

「では、津島組は」

「それはこちらで手配しましょう」

 今田は自信を持って言った。

「安斎君が、向こうで頑張っている間に、何かしてきてくれるかね」

「はい」