ユニーク採用試験
島根県海士町(あまちょう)が受験者とのキャンプを通し、町職員としての適性を見極める「キャンプ採用枠試験」を実施するそうだ。
元公務員試験予備校講師として知っていることを書いておこう。教え子の中で、海士町を受験した者はいないが、受験相談に備えて情報収集をしていた。
海士町は、2011年において、若手職員2人を全国募集し、1次選考は、書類選考。履歴書と自己PR(様式自由)。
自己PRの方法は自由だが、①これまでご自身が壁にぶつかった際、どのようにして乗り越えたかを一つだけ、教えてください、②日本海に浮かぶ離島「海士町」をどのような島にしたいですか?教えてください、という2点を明確に表現しなければならない。
2次選考は、2泊3日の合宿形式で鍋を囲んで町の課題を議論する形式で実施した。志望者175人で、書類選考を通過した20人が合宿に参加した。5人程度まで絞り込む。海士町までの交通費は、受験生の自己負担だが、滞在費(宿泊、食事、移動)は、町が負担する。
1日目の午後は、町内案内(120分)が行われ、町内主要施設を見学したり、住宅環境が紹介された。夜は、飲食店で約2時間、鍋を囲んで面接官たる課長ら約15人と将来取り組みたい事業などについて議論した。
2日目の午前は、主にグループワークで、生徒減少が著しい県立隠岐島前高(海士町)に生徒を集めるにはどんな仕組みを作ればよいかという課題が与えられ、4人一組の5グループに分かれて深夜まで議論し、翌日課長たちに最終報告した。午後は、面接官たる課長たちと一緒に、地域交流イベント(映画上映会)の会場や出店ブースの準備から片付けまで実施。
第3次選考は、1泊2日で町長その他の特別職3名との最終面接。2次選考と同様に、滞在費は、町が負担する。
ちなみに、受験指導から遠ざかっているので、最近のものは知らないが、例えば、海士町は、平成12年度活力のあるまちづくり自治大臣表彰(産業経済部門)を受賞し、平成19年度地域づくり総務大臣表彰大賞を受賞している。
本気で合格したかったら、町の基本情報(人口、地理、財政、産業など)を把握するとともに、受賞対象の活動(施策)を読んで、分析し、このレベルの意見が言えれば、注目を集めるだろう。アイデア倒れにならぬよう、財政的裏付けも言えれば、なお良い。
しかし、受験生、特に新卒には、このような企画力よりも、むしろ多くの人を巻き込んで実行に移す行動力とコミュニケーション能力が求められているはずだ。実体験があれば、説得力が増す。
自分だけ目立とうとしたり、他人の発言を妨げたり貶したり、発言しない人を見捨てたりするのは、論外だ。
今年度は、キャンプなので、人が嫌がる仕事を率先して行う人柄も、当然見られているはずだ。
大切なことを2つ述べておく。
海士町は、島なので、古い村落共同体としての色彩が残っていると思われる。人間関係が希薄な都会とは異なるから、よそ者が島に馴染むには、「郷に入っては郷に従え」ができる人でなければならないだけでなく、島に骨を埋める覚悟が必要だ。中途半端な覚悟では務まらないし、面接官に見透かされる。
また、令和4年度の海士町の全職員数は、たった53人にすぎない。部長職はなく、14人の課長が取り仕切っている。町村と市の仕事にはほとんど違いがなく、やらなければならない業務は多岐にわたるから、職員は、一人でいくつもの業務をこなさなければならず、過酷だ。休みも取りにくいだろう。やりたくない仕事であっても、きちんとやり遂げるのが仕事だ。サークルのイベントのノリで政策施策の企画立案が職員の仕事だと甘い考えでいると、就職のミスマッチが生じる可能性が極めて高い。
ニコニコハキハキ元気よくキャンプ面接を楽しんでもらいたいものだ。