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坂本雅彦ホームページ

投票の義務化に関して法制局に聞いてみた

2024.11.13 08:35

問う費用。

選挙の投票の義務化に関して参議院法制局にかれこれ2か月前に相談していたのだがやっと返信があったのでここに報告する。投票の義務化については法制局の回答を待たず既に前編と後編をHPに公開している。

投票(選挙)行動に関する一考察/前編

https://masahikosakamoto.amebaownd.com/posts/55419176

選挙での投票の義務化について 後編

https://masahikosakamoto.amebaownd.com/posts/55621542

参議院法制局にした相談は下記の通りである。

選挙における投票率を向上させ、選挙制度の公平性を高め、選挙結果の正当性と

向上させるために、有権者が投票に行くことを任意に委ねることなく義務化する制

度の創設を可能とする立法を検討したい。


1.選挙で投票に行くことを義務付ける制度を設けることを可能とする立法案

法制局からの返信

国政選挙だけでなく、地方選挙についても投票を義務化するかどうか。また、選挙以外にも、憲法改正の国民投票や最高裁判事の国民審査等については、投票を義務化するかどうか。

2.憲法との兼ね合い

法制局の返信は過去の政府見解を1つと学説を4つ

・ 投票の義務化が憲法上認められるかについて、政府は、「現行憲法に規定されている選挙権の性格でございますが、これも権利であると同時に、公務員の選定という公務の性質をもあわせ持つという学説が多数説であると承知しています。罰金などのペナルティーを伴う投票の義務化ということなんですが、選挙権は、仮に公務としての性格を踏まえたとしても、ペナルティーを科すことによって国民を強制し得るような性質を有するものなのかどうかということ、それから、選挙権の行使というのは、選挙人御本人の自覚にまつべきであって、外部からの強制によるべきではないのではないかという考えもあります」としている。(第 190 回国会衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会第4号(平成 28 年3月 23 日)高市早苗総務大臣答弁)

私見→選挙人本人の自覚に任せてきた結果として投票率は徐々に下がり続けているのであって事態の悪化は予想できても回復は望めない。

・ 白票を投じる自由が保障されていること及び議会制度の下における選挙の意義に着目し合憲とする説(長尾一紘『日本国憲法(第3版)』(世界思想社・1997 年)175 頁)

私見→この見解が妥当と考える。選挙に行くことは国民全体の公務とし、投票行動に関しては個人の権利の行使であり干渉しないというのが妥当。

・ 棄権の自由が憲法上絶対的に保障されているとまではいいにくいが、その制限はよほどの理由があり目的と手段の均衡がとれている場合にのみ認められるとした上で、そのような立法事実が想定できないとする説(野中俊彦「選挙権の法的性格」佐藤幸治ほか『ファンダメンタル憲法』(有斐閣・1994 年)144

私見→棄権の自由が優先されると民主主義の根幹を揺るがしかねない。

・ 憲法第 15 条第4項(投票の秘密)及び第 19 条(思想・良心の自由)から、違憲とする説(奥平康弘「参政権論」『ジュリスト増刊 総合特集 選挙』(有斐閣・1985 年)9頁、『憲法Ⅲ 憲法が保障する権利』(有斐閣・1993 年)418、419 頁)

私見→投票に行く行為自体が投票の秘密を侵すことは無い。投票内容に干渉することはないので思想・良心の自由を侵すことも暴くこともありえない。

・ 選挙権(憲法第 15 条第1項)の本質を権利と解し、違憲とする説(辻村みよ子「選挙権論の「原点」と「争点」・再論」杉原泰雄、樋口陽一編『論争憲法学』(日本評論社・1994 年)247 頁

私見→選挙権の本質は我が国においては民主主義という土台の上で論が展開されるべきである。とすれば、民主主義の精度を上げる制度は憲法上の国民の権利を侵害することはなく違憲と解するには無理があると考える。

3.違反者に対する罰金等の罰則の規定を設ける
法制局からの返信

投票を棄権した選挙人に対し、制裁まで設けることの必要性・合理性をどのように考えるか。また、仮に必要性・合理性があると認められる場合、どのような制裁(御相談の「罰金等の罰則」のほか、行政上の秩序罰としての過料等がある。)を設けることが適切か検討する必要があるのではないか。

私見→投票を義務化することだけでは表面的な制度にすぎない。投票を棄権した場合の罰則を規定して初めて制度が有効なものとして機能すると考える。ただし、制裁の多少は罰則と過料のどちらでも構わない。

4.健康等の理由がある者に例外規定を設ける

法制局からの返信

選挙人が投票を棄権する原因は様々である(選挙への関心度、職務・業務、健康状態、選挙区外への滞在、国外への滞在、天候等)と思われるところ、どのような場合を例外として投票の義務化の対象外とするか。また、物理的・時間的な課題が指摘されている在外投票についてどのように考えるか。

私見→棄権する理由のあれやこれやを聞いてはいない。例えば、刑事裁判で被告が出頭できない正当な理由として認められるのは病気や災害による交通途絶などである。それ以外の理由は突発的ではなく、医学的でも物理的でもない。不在者投票、期日前投票等の既存の制度で補える事由であろう。

5.棄権する権利は白票を投じる権利で置換できないか

法制局からの返信

「棄権する権利は白票を投じる権利で置換」することに関しては、白票を投じる自由が保障されていること等から投票の義務化は許されるとする見解や、棄権という行為もそれ自体一つの政治意思の表明であり得るため、制約することは許されないとする見解がある。(長尾一紘『日本国憲法(第3版)』(世界思想社・1997 年)175 頁)(奥平康弘「参政権論」『ジュリスト増刊 総合特集 選挙』(有斐閣・1985 年)9頁)

私見→棄権という行為と白票を投じる行為はその結果と生じる効果に違いはない。結果が違わないにもかかわらず政治思想の表明を理由に棄権に拘ることは民主主義上効果を得られることのない政治意志の表明手段である。白票を投じる自由は棄権する自由に抱合するに十分な効力を持っており政治的表明を制約することはない。