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【新装版】パラダイムの魔力 成功を約束する創造的未来の発見法

2019.01.17 23:52

   最近、よくビジネス書等で「パラダイム」とか「パラダイム・シフト」とかいう言葉を見かけるかと思いますが、本書「パラダイムの魔力」はその「パラダイム」という概念(言葉)について考察した本です。著者は、1995年当時(アメリカ)ミネソタ科学博物館の「未来学研究部長」で、一方、企業コンサルタントとして企業の経営者・社員の意識改革に努めたジョエル・バーカー氏 です。彼は、本書の中で、「新しい時代に取り残されたくないなら三つのキーワードを肝に銘じておく必要がある。」として次の三つを挙げています。「卓越」「イノベーション」そして「先見性」です。「卓越」はこの三つキーワードの基盤となるもので、「イノベーション」と「先見性」は「パラダイム」(という概念)に関係しています。

   もともと「パラダイム」の語源はギリシャ語で、「モデル、パターン、範例」という意味ですが、科学史家のトーマス・S・クーンが1962年にパラダイムの概念を「科学革命の構造」という著書で科学の世界に持ち込みました。クーンは科学のパラダイムの定義を「実際に科学研究をおこなううえで、法則、理論、応用、装置にすべて関わる確立された範例であり、これをモデルにして、科学研究特有の伝統が生まれている。・・・共通のパラダイムにもとづいて研究を行う人は、同じルールと基準に従って仕事をしている。」と、説明しました。一方、本書の著者である バーカー氏はクーン(や他の歴史的著名人)のパラダイムの定義を参照しつつ、次のように定義しています。「パラダイムとは、ルールと規範であり(成文化されている必要はない)、(1)境界を明確にし、(2)成功するために、境界内でどう行動すればよいかを教えてくれるものである。」(実はこのようにパラダイムの定義は人によって微妙にちがいます。ちなみに今回の紹介のためネット辞書を検索すると「その時代や業界の考え方を拘束する枠組み、価値観」とあります。もちろんここで取り上げる「パラダイム」は、本書著者、バーカー氏の定義によるものです。)

   「ルールと規範」ですか、、、うーん、何か例があるとわかりやすいですね。。では、2つ例を挙げます。まず、突然ですが「テニス」というスポーツはパラダイムでしょうか? 。。。「テニス」はパラダイムです。なぜなら、テニスには境界(ライン)があり、問題を解決するために(勝つために)必要なことが極めて具体的になっている(ルールがある)からです。(ですから、テニスに限らず、すべてのスポーツはパラダイムです。)では、次に、我々の働く専門分野、さまざまな職業は?。。。「分野」は一般的に「境界」を表しています。例えば、何か問題が発生して、あなたのところへ、その問題を持ち込んできた人がいたとすれば、それはあなたの分野で問題を解決しようと考え、助けを求めに来たからです。ですから「専門分野」も、やはりパラダイムなのです。

   本書では、このように「パラダイムの定義」から始まり、どのように新しいパラダイムが起こるのか?パラダイムを起こすのは、どういったタイプの人間か?どうしたら次の時代のパラダイムをおこせるのか? 。。 などなど解説していきます。(私的には、「パラダイム」という概念(言葉)はまず、1960年代ごろ科学分野で取り入れられ、その後、1995年の本書発売あたりから、ビジネス・経済分野で使われ始め徐々に他の分野にも「汎用化」されていったのだと推測します。そういった意味では前述したネット辞書検索における(パラダイムの)定義が現在我々が意味して使うところの「パラダイム」に近いのかもしれません。)

  そして、著者は本書第九章で、「二十世紀のもっとも重要なパラダイム・シフト」を挙げています。(みなさん、それはなんだと思いますか??)

  そのパラダイム・シフトは実は「日本のモノづくり」に関係します。1950年代の初め、高品質の製品を大量生産する方法を教えにW・エドワード・デミングス博士が来日しました。博士は、日本人に「品質管理」と「継続的改善」を教授し、日本人はそれを改良・発展させQCサークルのパラダイムをつくり、その後、自国の文化・考え方を取り入れ、独自の経営と生産におけるイノベーションを起こしました。それは、のちに「総合的品質管理」とか「全社的品質管理」(TQC : total quality control)と呼ばれました。この「TQC」を著者は二十世紀における重要なパラダイム・シフトとして挙げているのです。

       では、最後にパラダイムに関する教訓話を。(236ページより)

  「ある男がポルシェを駆って山荘へ向かっていた。見通しのきかないカーブやガードレールのない絶壁など、途中には危険な箇所がいくつもあった。ポルシェは見通しのきかないカーブが近づくとスピードを落とした。そのとき、いきなりカーブの陰から車が一台、ハンドルを切り損ねたように飛び出してきた。『なんてことだ!』男は急ブレーキを踏んだ。車は蛇行しながら接近してくる。ぶつかると思った直前、対向車は左にそれ、すれちがいざま、きれいな女性が窓から顔を突出し、あらんかぎりの声で叫んだ。『ブタッ!!』 ふざけるな、男はカッとなって怒鳴り返した。『ブスッ!!・・めちゃくちゃな運転をしているのはどっちなんだ。』しかし、怒鳴り返して、少しは胸がすっとした。そして、アクセルを踏み、急カーブを曲がった途端、、、ブタに衝突した。」

   この男は女性に「ブタッ!!」と言われてののしられたと思いました。しかし、対向車の女性はハンドルのコントロールを失いながらも、カーブを曲がったところにブタがいることを、わざわざ知らせてくれたのです。あぶない運転を見て、『なんでことだ!』と思った時には、彼のパラダイムはまだ麻痺していませんでした。パラダイムが硬直していなければ、女性の叫び声を聞いて、「何かあった」と気づいたはずでした。そして、もっと注意してカーブを曲がり、少なくとも、ブタに衝突することはなかったはずです。「教訓。次の十年、見通しの良いカーブに差し掛かった時、大声を発してくれる人はいるかもしれない。しかし、わざわざ車を止めてカーブの向こうに何があるか、教えてくれる人はいないだろう。それを突き止められるかどうかは、あなた次第である。パラダイムが硬直していると、悪魔の声しか聞こえない。パラダイムがしなやかであれば、女神の声が聞こえてくる。くりかえして言うが、どちらの声が聞こえてくるかは、まったくあなた次第である。」