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小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第二章 深淵 22

2024.11.17 02:00

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第二章 深淵 22

「ということでもう一度中国に行くことになったのだが」

 その日の夜、菊池綾子の店で荒川は今田陽子と菊池と三人で話をしていた。

「中国旅行いいなあ」

「旅行なんていいもんじゃないよ」

 菊池綾子がふざけて言った言葉に、荒川はまじめに帰した。

「で、何が問題なのよ」

「ハリフだ」

 荒川はずばりといった。

「どういうこと」

 今田は荒川のいった意味がわかっていないようである。

「殿下の前では言わなかったが、ハリフの言う通り、向こうでウイグルの戦士という人と会うことにした。その代表は日本語を話すマララという女性だったよ。」

「あら、ウイグルの人と会ったならば、殿下に言えばよかったじゃない」

「いや、そのままらと会った後、胡英華の車に乗せられたんだ」

「どういうこと」

「そのマララなのか、そのマララが連れてきたハミティという男なのか、または、そこから向こう側なのかはわからないが、要するに私が彼らウイグルの人と会うということが、共産党の幹部に漏れているということだし、また、そのことが大きなリスクになると思う」

「なるほどね。要するにウイグルの戦士という中には、共産党のスパイがいるということで、もしかしたらそれがハリフかもしれないということ」

「ああ。そうでなければ沖田という偽名もわかるはずがないだろ」

「そうね」

 今田は腕を組んで考え込む感じになった。

「そこでだ、ハリフに違う情報を流してもらいたいんだ」

「違う情報とは」

「要するに、偽情報を相手に掴ませるということだ。それを私がやるのではなく、今田さんからやってくれないかな」

「いいけど」

 今田は、それくらいでよいのかというような表情である。何か問題になるとか、証拠をつかめとか言われるのではないかとひやひやしていたところであったので、それくらいならば、と、受けた。

「荒川が、いや、沖田進が実は新種の病原菌に犯されて中国から戻れなくなったと」

「中国から戻ってきてるじゃない」

「だから、その情報が異なるということにしてほしいんだ」

 荒川は言った。

「要するに、向こうの人々は、沖田進のパスポートを持った人が北京空港から日本に戻ったということは認識しているが、その沖田進のパスポートを持った人が荒川であるというような話は必ずしも一致しないはずだ。」

「まあ、確かに」

「今回、私は荒川のパスポートで入国する。走すれば、胡英華が前回会ったのは荒川ではなくなるし、また、沖田進という人物が誰かはわからないはずになる。つまり、マララやハミティと会った人も、誰だかわからない人物になるということにある。当然にその謎の人物が、新種の病原菌に感染しているといううことになれば、中国政府は必至になってその人物を負うことになるよね」

「そうでしょうね。まあ、それは中国でなくてもそうなると思うけど。日本だって、病原菌保持者は隔離措置が取られることになる。」

「しかし、その時には沖田進はいなくて荒川がいる」

「確かに」

「そのうえ、今の状況では、『新しい病原菌』は、当然に、『死の双子』ということになりかねない。その危険性を熟知している中国政府は大混乱をすることになるし、沖田進が出入りした場所やあった人物がすべて隔離されることになる」

「なるほど」

 今田はすぐに納得した。

「ええ、でもよくわからない。どうしてそんなことしなきゃならないの」

 菊池はまだわからないという感じである。

「あのね、要するに、その誰だかわからない人が、中国から出国できずに新しい病原菌に感染して中国にいるということは、中国に危険があるということになるんだよね。そのうえ、中国政府も人民解放軍も『死の双子』のことは、民衆に発表していないから、その危険性を認知しているのは、政府の一部、それも今回の日本に『死の双子』をバラまいたことを知っている人またはその内容に完治した人ということになるんだ。そして、そのことがそのまま中国政府につながれば、中国政府はその人物を隔離して、治療するか、殺すか、またはその周辺にワクチンを与えるかしかない。」

「ああ、要するに、中国政府が治療法や予防法を知っていればそれができるようになるということ」

「そう、御明察」

 荒川は笑った。

「それを、荒川さんは、自分が犠牲になってやるということなの」

「犠牲になるというのではなく、相手をだますんだよ。いや、正確に言えば、この世にいない沖田進さんという人が犠牲になるんだけど」

 もう一度荒川は笑った。そしてそのあとを続けた。

「そのワクチンとか治療法がわかるだけではなく、ハリフというウイグル人からどの様の情報が流れ、そしてどのように情報に対して共産党政府が動くのかということが見えてくるんだ。要するに、極秘情報となる内容を、逆に日本発で出せば、その極秘情報が中国国内で極秘情報が処理されるかがわかるし、そのウイグル人の人脈からどのようにつながっているのかもわかるはずなんだ。」

「なるほど、荒川さん頭いいですね」

「確かに、そんなことを考えるのは荒川さんだけね」

「そのあと寅正さんとかと、中国を少し荒らしてみても、面白いかもしれない」

「旦那にはそう言っておくわ。それにマサ君も行くみたいだし」

「ほう、綾子さんの仲間だよね」

「その中に混ざって葛城さんも行くことになっています。」

 今田が付け加えた。

「葛城さん」

「もちろん極秘です」

「まあ、普通に言ったら入れないですよね」

「自衛隊とか警察官は、中国は暗黙の了解で入国を拒否されますからね。だから第二の沖田進さんが出現することになるんですよ」

「日本国も・・・・・・まあ、仕方がないですね」

 数日後、今田はバーにハリフを呼び出した。

「ハリフさん、実は、荒川さんが帰国していないんですよ」

「そんなはずはないでしょう。私は帰国したと聞いていますよ」

 ハリフは、意外そうな顔をしていった。

「ハリフさんは、どこから荒川さんが帰国した時位いたのですか」

「いや、それは、マララという向こうの担当の女性が、あった翌日に出国する予定だといっていたと」

 マララから聞いたという事か。今田はそう思った。

「いや、それがその時に何か体調が悪くなって、そのまま向こうにいるみたいなんですよ」

「それならば、向こうに安斎さんという人がいて、一緒にいたみたいですから、その人に聞いてみては……」

「いや、その安斎さんもよくわからないという事なんです。何でも、その日の夜に急に熱が出て、今までの風邪とか、インフルエンザとかそういったものではなく、目や耳から血が出て、嘔吐してしまうというような、何か新しい症状だと」

 ハリフは、急に顔が曇った。

「安斎が言うには、何か新しいウイルスか何か、今まで日本では見たことがないような症状だと」

「新しいウイルス。そんな…。」

「そのホテルは予算とか予約の都合で出なきゃならなくて、なにかほかのほてるにうつったみたいなのですが、その後行方が分からないみたいなんです」

「それは心配ですね」

 ハリフは、明らかに落ち着きがなくなった。

「ハリフさん、落ち着いて、ここにそのウイルスがあるわけじゃないですから。でも、荒川さんは心配で」

「わかりました、今田さんのために、我々が探してみましょう」

「お願いします。安斎さんも探してくれているみたいなのですが」

 ハリフはバーを出て行った。その後ろを藤田伸二が気づかれないようについていった。