いまさら聞けない!世界の大麻最前線
平成が始まった30年前には想像もしなかったことが、この30年で数多く起こった。
そのひとつが、いま世界中で相次いで巻き起こっている「大麻の合法化」でしょう。
2016年、アメリカでは(非合法ながら)大麻の一大消費都市と言われていたカリフォルニア州で嗜好用大麻が解禁されたことが大きな話題となったが、大麻にまつわる出来事として、2018年の特筆すべき点は国単位での合法化でした。
イギリスや隣国である韓国の医療大麻解禁、さらにはカナダの大麻全面解禁と、目が回るような、とても自国では信じられないニュースが次々に飛び込んできた1年。
今回は、そんな2018年に起きた大麻にまつわる大きなトピックを振り返り、2019年はこの世界がどうなっていくのかを予想していきましょう。
ついにNYと連邦法が動く アメリカの合法化の動き
◆保守層が動いた中間選挙
2019年1月現在、アメリカではワシントンD.Cと10の州で嗜好用大麻が、33の州で医療用大麻が合法となっています。
これまで嗜好用大麻は、コロラド州(2012)、ワシントン州(2012)、ワシントンD.C(2014)、アラスカ州(2015)、オレゴン州(2014)、カリフォルニア州(2016)、メイン州(2016)、マサチューセッツ州(2016)、ネバダ州(2016)、メイン州(2016)で合法化されていました。
2018年に入ると、1月にバーモント州が嗜好用大麻を合法化。通例として、大麻の合法化法案は住民投票によって是非が問われるが、バーモント州は州議会によって可決された。これは前例のないこと。
11月に行われた中間選挙では、ミシガン州が米国中西部地域ではじめて嗜好用大麻を合法の州となった(一方ノースダコタ州での嗜好用大麻の合法化は否決)。またオハイオ州では、合法化には至らないものの、5つの都市で大麻吸引の「非犯罪化」が承認されました。
医療用大麻についても、6月にオクラホマ州、11月の中間選挙ではミズーリ州やユタ州が合法化。
あまり知られていませんが、2018年の中間選挙では、大麻合法化に向けてのハードルが高いと言われていた保守的な州が動きを見せ、2016年のカリフォルニア完全合法化以来の大きな変化を生み出した選挙でもあったのです。
大麻合法化反対派のなかで大きな影響力を持ち、11期連続で議員を務めたテキサス州の下院議員ピート・セッションズ(共和党)が落選。
◆ついに動いた真打、NY
2018年、アメリカの大麻合法化に関するもっとも大きなニュースは、やはりニューヨークでの嗜好用大麻が合法化される方針が固まったこと。
ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は、2019年に合法化する方針を明らかにしています。
ロイター通信によると、嗜好用大麻の合法化が来年の立法上の最優先課題の一つになるという考えを示しています。
ヨーロッパを含め、法律として大麻の使用は認めていないものの、「非刑罰」「非犯罪」として大麻を扱うことも珍しくはないのです。
多くの人が完全合法だと誤認しているオランダも実は非合法であり、大麻は実際には「非刑罰」の対象として取り扱われています。
このような背景もあって、ニューヨークでは大麻吸引はほぼ黙認状態であり、信じられないほどカジュアルに利用されています。
嗜好用大麻解禁の方針を打ち出したニューヨーク州の試算によると、大麻の合法化による市場規模は推定年間17億から35億ドル(約1910億から3940億円)、税収は約2億5000万から6億8000万ドル(280億から765億円)を見込んでいるといいます。
◆州を超えて、連邦法が改正
各州において合法化が進むアメリカだが、連邦レベルでは大麻を禁じているため、国有地などでの利用は認められていなかった。
しかし、昨年12月には連邦法において産業用大麻(ヘンプ)を麻薬指定から除外し他の農作物と同じ扱いとするという綱目を含む「US Farm Bill」(農業法案)が可決。同月20日にはドナルド・トランプ米大統領による署名がなされ成立。
これはアメリカで過去半世紀に渡って変わらなかった、ドラッグに関する法律が初めて変わった瞬間でした。
アメリカ連邦法では大麻草(カンナビス)は「THC」含有量が0.3%以下の「ヘンプ」と、それ以上の「マリファナ」に大別されているが、今回の法改正で規制植物から除外されたのはヘンプにあたります。
ヘンプの監督庁は麻薬取締局から農務省へ移され、栽培が農作物保険の対象になるほか、研究開発でも連邦政府の助成金を申請できるようになるとのことだ。
また、注目されているのが、ヘンプから抽出される「CBD」(カンナビジオール)という成分。
ヘンプ・マリファナを含む大麻には、「THC」(テトラヒドロカンナビノール)、「CBD」などの成分(総称:カンナビノイド)が含まれており、俗に“ハイになる”成分といわれるのがTHC。精神作用性が強く、日本では法律で禁止されている成分です。
俗に言う「脱法ハーブ」や「危険ドラッグ」などは、このTHCを模して化学合成された成分が多く含まれている場合が多くなっています。
一方CBDは、医療大麻の分野において注目されている大麻の成分。精神・神経系への悪影響がなく、アルツハイマー病やパーキンソン病などの難病、関節の痛みや不安、鬱症状、癌細胞の成長抑制や統合失調症に対する抗精神病薬など、さまざまな症状への効果が研究によって明らかになっています。
つまり今回の法改正によって、産業用ヘンプから食品・医療用のCBDの抽出が可能になり、CBD製品の市場が拡大していくと期待されています。単に「大麻の連邦法による合法化」という話ではないのです。
経済メディア「BUSINESS INSIDER」によると、CBD関連の市場規模は現在おおよそ10億ドル(約1100億円)といわれており、大麻市場の調査を行う「the Brightfield Group」は2020年までに220億ドル(約2.4兆円)にまで達する見込みとのこと。
大統領就任当初は、大麻の合法化に関して否定的であったとされるトランプ大統領だが、「アメリカの大麻産業最大の壁(反対派)」と言われていた司法長官のジェフ・セッションズを、ロシア疑惑を巡って更迭していたのも話が進む要因になっていたのかも。
市場規模ではケタ違いの大きさを見込むアメリカ。
しかし連邦法、つまり国全体での大麻に関する法整備は、他国に比べ遅れをとっていると言及されることもありましたが、これによって世界各国と足並みを揃え出したともとれます。
ちなみに、11月にはアメリカ連邦政府が5000キロの大麻を栽培・管理できる農家を募集していることも話題となった。
世界各国の合法化の動き
大麻合法化に関してこれだけの動きが出ているが、それはアメリカに限ったことではありません。2018年は、世界各国、そしてアジアにおいても、激動する大麻産業の変化が現れた1年でした。
◆カナダ、衝撃の全面解禁
世界中で大きな注目を集めたのが、カナダの大麻全面解禁だ。カナダは2001年から医療用マリファナの使用が合法化されているが、10月に嗜好用の大麻使用が合法とされた。
嗜好用大麻を国全体で認めたのは、2013年に解禁したウルグアイに続き2番目となる。
実際のところはカナダではほぼ一般的に大麻が消費されており、合法化された当日も国内ではあまり騒ぎにならなかったそう。
衝撃なのが、カナダのマリファナデー(420、フォー・トゥエンティ)。
マリファナの隠語である「420」にちなんで毎年4月20日に開催される、大規模な“マリファナ祭り“だ。もともとは大麻の合法化を訴えるデモから始まっていることから「デモ運動」として取り扱われており、警備などの目的で警察も協力していた。
◆イギリス、医療大麻合法化
翌月の11月には、イギリスで医療大麻が合法化された。
深刻なてんかんの症状を持つ少年2人が、症状を劇的に改善したという大麻油の利用を禁止され、ヒースロー空港で没収されたことが発端。これにより医療大麻の規制への批判・抗議運動が巻き起こり、2人に対して医療大麻の使用を認める特別認可を出された。その後、医療大麻に関する法規制緩和が実現した。
これにより医師は、てんかん患者やがんの化学療法の副作用で吐き気をもよおしてしまう患者、多発性硬化症の患者などに対して、大麻を使用した医薬品の処方を認められたのです。
◆東アジア初となる韓国の合法化、そしてタイも
欧米だけにとどまらず、11月末にはなんと隣国の韓国でも医療大麻が合法化。
医療大麻の合法化は、アジアではイスラエルに次いで2番目。東アジアでは初となる。
さらに12月には、韓国に続いてタイでも医療大麻の使用・研究を認める法案が可決された。医療大麻の解禁は東南アジアでは初となる。
ちなみに、イスラエルは1963年からマリファナ研究に着手しており、「医療用大麻の最先端国」ともいわれる。世界ではじめて医療用大麻が合法化された国の一つであり、2017年には嗜好用利用も非犯罪化されている。
それぞれ規定が異なるものの、一部容認を含めて医療大麻を認めている国は以下になります。
アメリカ、オランダ、オーストラリア、スペイン、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、ジャマイカ、ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチン、チリ、デンマーク、ギリシャ、フィンランド、メキシコ、ペルー、韓国、タイ