山へ
先日のこと、兵庫県の市川上流に育つ木を見に実際の山へ登ってまいりました。自分たちの住まいをカタチ造る構造材(土台・柱・梁)や仕上材・下地材(フローリングや壁・天井)に使用される杉・桧たち。住まいの主役である木そのものが、どこで育ちどのような方々が生産、管理されているか。施主さまやご興味ある方達と共にいざ。
土場に車を停めて少し歩くと一台のお迎えが...ここからはトラックの荷台むき出しのようなキャタピラで走行する乗り物へ皆で乗り込み、大きく揺られながら作業路を進んで行きます。(作業路も狭く急斜面のため皆ドキドキ無言笑)
作業路の造りかたから杉や桧の木が植わる場所性の違い、他の植物との関係性を考慮した間伐や主伐のバランス。人の手が入ることと、山の生態系や雨水の道について。作業の安全性と山自体の価値などなど。多岐にわたるお話を聞かせて頂き、まだまだ消化できていませんが、若い方も木こり(職人)として従事されており頼もしくもあり、同時に日本の山が誇らしく感じる機会となりました。
実際に間伐の瞬間を見せて頂けました。(この日は定性間伐:一本一本の樹形や注文状況、山の状況を測りながら切る木を決めていく間伐方法)※その他定量間伐(列状間伐)がある
協力:山田林業さま
住まいを建てる時、プランや仕上材、大きさ形を決めて後は工務店へお任せする事が多く、なかなか本来の主役である木のこと知らずに建物が完成する事が多いような気がします。選択肢の一つとして、私達の生活する近隣で育った近隣材(同じ空気や水で育つ)の木を選ぶ。出来ればその木がどんなところで育って、どのような方々が生産管理されているか、素材についての正しい知識も知ることが出来れば。
自分たちの住まいへの誇りや愛着へと繋がり、生活を始めてからの維持管理にも役立つような経験となれば素敵なことだ。そう感じております。
そして、自分たちの住まいへ使用する木の産地を自ら選択する事は可能だ!ということを知って頂きたいのです。
協力:しそうの森の木さま
その後は製材所へ向かい、山から運び出された木がどのように管理、製材されているかを見学させて頂きました。木材は建材へと製材される中で様々な工程を経て一番重要な乾燥の工程へと移ります。乾燥は大きく2つに分かれており、人工乾燥と自然乾燥という方法が存在します。どちらもメリット・デメリットがありますがここではとても特殊な真空乾燥(人工乾燥に分類)という手法が取られており、人工乾燥のデメリットと自然乾燥のデメリットを取り除いた、言わば理想的な乾燥方法を採用されております。(乾燥時の沸点が低くなるため木材の割れや捻れ、変色を抑え、大切な木の油分を保持したまま乾燥可能で、木材の自然な美しさや香りが維持できます)
乾燥・製材された材は次に含水率を測ります。木材の含水率は建築基準法でも規定されており、強度に関わる重要な数値の一つ(構造上主要な柱梁では15%以下)です※含水率:木材の中の水分の割合
測定方法は通常木材の三箇所程度を部分的に計測することが一般的ですが森の木さんではミリ単位で材全体の含水率を計測するという徹底ぶりです。
含水率を測り終えると木材強度を測る工程へ進んでいきます。一般的には木の強度(等級)を決定付ける方法として目視等級と機械等級という二種類の等級付け方法に分けることが出来ます。目視等級は木の節など構造上の欠点が存在しないか等を目利きできる方(人間の目)が等級を付けます、対して機械等級は特殊な機械を使用し打撃など非破壊検査にてヤング係数(ものの硬さ)の測定結果から等級が決定付けられます。
通常、無垢材では目視等級による等級付けが一般的ですが、森の木さんでは無垢材の一本一本全てを機械を使用して強度測定、等級付けをされています。素晴らしい管理状況であると同時に大切な木への愛情すら感じます。なぜここまで拘るかの理由は後ほど。
全ての工程を経て建材となり出荷されていく流れです。
ここでご協力頂いているしそうの森の木、山村さんの(我々が感銘を受けた)言葉を再度紹介しようと思います。※メールでのやり取りの一文。
【お金と時間をかければどんなクオリティーのものでも用意できますが、
我々の望むところは、名も無き平凡な林産地から(最上級ではないにしても)良質な木材を
コンスタントに供給することにあります】
↑この目標を達成するための拘り抜いた管理なのだと理解できます。
※無垢材・真空乾燥で日本農林規格(JAS規格)を取得するという日本初の目標も間もなくクリアするとのこと
ちなみに山村さんの言う名も無き平凡な産地とは、北山杉(京都)や吉野杉(奈良)・紀州材などの有名産地以外、その他全ての産地のことを表していますので日本に存在する杉や桧のほとんどはこの名も無き平凡な産地の材であります。日本には本当に沢山の山があり杉や桧といった宝物のような資源がすぐそこに存在しています。話せば長くなるので割愛しますが、この宝物をしっかりと使用し、後世へ良質な山を残すこと、林業を衰退させないことも大切であることがわかります。
価格や流通の問題などで外材(海外から運ばれてくる木)や集成材が建材の大半を占めている現実に問題意識を持っているのは我々だけでは無いでしょう。
自分たちの住まいに使用される木材の産地へ意識を広げてみるとどのような住まいになるのか、住まいづくりがもう一歩豊かになるのではないでしょうか?
私達建築設計事務所に出来ることの一つとして、この名も無き平凡な産地の良材(近隣地域で育った材)で住まいを設計(提供)すること、情報を発信することだと考えています。同じ空気同じ水で育った素材達で自分たちのの住まいが出来ているという事実から享受できる、何ものにも代えがたい安心感や喜びは想像するだけでも心踊りませんか?
また少しづつ情報を発信していこうと思います。
また来年も山へお施主さんを連れて行けますように!
ご参加してくださった皆様、ご協力いただいた しそうの森の木さま、山田林業さま大変ありがとうございました。