「全盛期」韓国が抱える「消滅」の危機 民主主義も外交も
「“韓国人がクール”といわれるぜいたくな時代」だって?
韓国の大手紙『朝鮮日報』が「韓国は今が全盛期だ」と題したコラム(11月10日付)を掲載した。世界史を見ると国家の「全盛期」が永遠に続くことはまれで、全盛期があれば当然「衰退期」もある。それでは、韓国はこれから衰退期に入ると予言する内容なのかと期待して?読んでみたが、そうではなかった。
コラムはLA駐在特派員のオ・ロラ記者が書いた。彼女が15年前に米国に留学していた当時、現地の人から必ず聞かれるのは「中国人か?ひょっとして日本人か?」という質問で、「韓国から来た」と答えると「北か?南か?」と聞かれ、嫌な思いをした、との回想で記事は始まる。当時、米国人にとって韓国といえば、思い浮かぶのは「朝鮮戦争と分断」というイメージが先だったというわけだ。
ところがそれから15年、ノーベル文学賞をはじめ、アカデミー賞、ショパン・コンクール、英グラモフォン賞と相次いで韓国人が受賞し、今、韓国から来たと言えば「あのアイドルグループが好き」、「あのドラマは面白かった」という返事が返ってくるのが当たり前の時代になったという。そして「おかげさまで、国籍だけで『クールな人』と思ってもらえるぜいたくな時代になった」とし、「私はこれ以上自分の国について説明する必要がなくなった。誰が何と言っても、韓国は今、全盛期を享受しているという確信を持った」と無邪気に喜んでいる。ただそれだけだった。
「国が消滅する」なかでの「全盛期」って何?
ところで最近、『韓国消滅』というタイトルの本(新潮新書2024年9月刊)を読んだ。著者は「韓国観察者」を自称する鈴置高史(すずおきたかふみ)氏で、日本経済新聞ソウル特派員などを歴任し、その精緻な韓国情報分析には定評がある。
「韓国消滅」という韓国人が聞いたらそれこそ怒りを爆発させそうな書名だが、書かれている内容は至極真っ当で、韓国がこれまで日本に対して仕掛けてきたさまざまな罠と、今後も過去の歴史を材料に日本に揺さぶりをかけるであろう罠には、十分に警戒が必要だと説く警告の書にもなっている。
実は「韓国が消滅する」と言っているのは鈴置氏だけではない。韓国統計庁が発表した「合計特殊出生率」(15歳から49歳までの女性が生む平均的な子供の数)が2023年は通年で0.72、同じ年の第4四半期に限っては0.65まで落ち込み、「史上最悪」「世界最低」を記録した。これを受け、米紙ニューヨーク・タイムスは「Is South Korea Disappearing?(韓国は消えつつある?)」という見出しの記事(12月2日)を載せ、CNNなど欧米の主要メディアでも同様の報道が相次いだ。
子供の出産数の減少は、産業経済を支える労働人口の急減をもたらし国力の衰退を意味する。韓国の15歳から64歳までの生産年齢人口は、すでに2019年にピークが過ぎて縮小に向かっている。高齢者介護の人員不足や医療費の拡大、それに徴兵制の韓国では少子化が直ちに兵力の減少に直結するなど、さまざまな問題を引き起こす。
人口危機は四半世紀前から それでも全くの無策
実は日韓の出生率が逆転したのは2001年で、その年の出生率は日本が1.33で、韓国が1.31だった。そして韓国がOECD加盟38か国の中で最低の出生率を記録したのが2004年(1.13)、出生率が1.0を割り込んだのが2018年(0.97)だった。
<世界の経済・統計 情報サイト「OECDの合計特殊出生率ランキング」>
日本ではバブル崩壊とともに少子高齢化が大きな社会問題になって久しかったが、一方で、韓国では四半世紀前から問題が顕在化していたにも関わらず、不思議なことに、出生率が世界最低レベルに下がっても、結婚しない若い男女の割合が増えても、国会など政治の世界で真剣に議論する雰囲気はなく、何か有効な少子高齢化対策が採られたという話も聞いたことがない。
その間も韓国の政界やメディアの関心は、相変わらず過去の歴史に引きずられ、親日派に対する積弊清算だとか、慰安婦や徴用工の賠償をめぐる反日政策など関する議論が中心だった。今に至っても国会は、親北左派の野党と保守系与党の陣営対立で身動きがとれない状態であり、少子高齢化や労働人口の減少など国の将来に関する議論に真剣に向き合う雰囲気はまったくない。
冒頭に紹介した朝鮮日報の「韓国は今が全盛期だ」と題したコラムだが、「全盛期」を国民が享受しているというなら、なぜ毎週、野党や労働組合が大規模に大衆を集め、大統領弾劾と退陣を叫び、現政権批判に膨大なエネルギーを使っているのか。それも批判の対象は大統領夫人がブランドバックを貰った云々などと、韓国の将来をめぐる課題とは全く関係のない後ろ向きなことばかり。数の力を仰ぎ、どうでもいいことで騒いで、政権への鬱憤晴らしをしたいだけで、これが「全盛期」を喜び、謳歌する国民の姿とは、とても思えない。
韓国は本当に民主主義国、西側自由主義国なのか?
ところで「韓国消滅」は、決して人口の縮小だけを指して言っているわけではない。そもそも今の韓国が政治基盤とする「民主主義」がそもそも怪しい。1987年の大衆闘争で勝ち取った大統領直接選挙という「民主化」だったが、その実質は、ただ「民主主義」というブランド、先進国の証としての「民主化」ブランドが欲しかっただけに過ぎない、と鈴置氏は指摘する。
その証拠にロシアのウクライナ侵攻に対する韓国の態度の態度を見ればいい。韓国政界は当初、ウクライナを擁護せず、自国の貿易に影響が出ないようにロシアへの制裁にも消極的だった。朝鮮戦争では西側陣営の莫大な支援を受けたにもかかわらず、同じように侵略された民主主義国に対する韓国の冷淡な態度は国際社会の中で異様なほど目立った。
そのほかにも公正な選挙で選ばれたはずの大統領を、大衆の声の大きさだけで弾劾に持ち込み罷免し、はては犯罪者として投獄すること。三権分立と司法の独立は民主主義の基本のはずだが、韓国では政権が変わると最高裁長官や検察庁長官が与党寄りの人物に簡単に首がすげ変わり、前政権の大統領や中枢メンバーの不正追及に血道を上げること。不正を暴き、法律の守護者であるはずの「検察」が、権力を専横し、まるで悪の手先と見られ、まったく信用されていないだけでなく、その検察から捜査権を奪い、国会が決めた特別検察官に大きな実権を与えるという歪(いびつ)さ。どれをとっても韓国の民主主義の胡散臭さを感じることができる。
韓国が消滅するという理由のもう一つは、その外交政策の危うさにある。地政学的に「海洋国家」(=自由主義陣営)と「大陸国家」(=権威主義強権国家)という区分があるが、韓国は「半島国家」としてそのどちらでもなく、その両方の間で右往左往し、常に強い方になびく「事大主義」という宿命を負った地域でもあった。しかし今、厳しい米中対立という国際政治局面に向き合うなかで、韓国がどういう立ち位置をとるかに注目が集まっている。
韓国の歴代政権は親米か、親北親中かで揺れ動いてきた。左派政権でも保守政権でも共通の反日政策をめぐっては、米国からさまざまな圧力を受け、日本との協力関係に無理やり変更されてきた経緯もある。要するに半島国家として、米国に付くか中国に付くかの選択に戸惑い、未だに定まっていない。その選択次第では、世界から孤立、ないしは排斥され、貿易国家としての道を踏み外し、没落に転ずる可能性もある。
植民地は不法だと主張する韓国 米国に楯突く覚悟があるのか
ところでこうして「消滅」に向かう韓国に対して、日本はどう向き合うべきか。
すでに経済力では日本を上回ったと見なす韓国の人々だが、過去の日本に対する恨みつらみは逆に深まり、日本に対する態度はますます強硬になってきている。日本の植民地支配は不当だったと主張し、その不当な植民地支配について日本は過去一度も謝罪したことがないと主張する。1965年の日韓国交正常化と日韓請求権協定の成立で過去の植民地統治に対する賠償請求はすべて処理済みというのが日本の立場だ。しかし、韓国は不当な植民地支配で被った精神的苦痛に対する賠償、いわば慰謝料の支払いは受けてないと言いだし、慰安婦や「徴用工」などを持ち出し、日本に揺さぶりをかけている。
しかし、仮に日本政府や首相が過去の植民地支配は不当だったと謝罪し、当時「徴用工」が働いていた日本企業が自らその補償金を支払うような事態になったら、韓国側は「それみたことか」と大騒ぎし、無数の人達が元「徴用工」や慰安婦の子孫だと名乗り出て、日本に賠償要求を突きつけてくることは目に見えている。
鈴置氏は、そうした韓国の要求は、「日本の植民地だった過去を否定したい」韓国が日本に仕掛ける罠だと指摘する。その上で、「過去の植民地支配は不法だった」と世界に向けて主張することは、ハワイを併合しフィリピンを植民地にした米国を相手に、「パクス・アメリカーナ」に楯突くことでもあるが、その覚悟が出来ているのか、と問う。
いずれにしても日本は、韓国の罠にはまらないように、韓国の言い分などは聞き流し続け、それこそ韓国の消滅を待てばいいのかもしれない。