センブリ
https://www.pharm.or.jp/yakusou/2023/01/post-85.html 【センブリ】より
Swertia japonica MAKINO ( リンドウ科 )
日本各地,朝鮮半島から中国にかけて分布する2年生の草本植物で,日当たりのよいやや乾燥した山野に生育します。花は秋に咲き,花冠は淡紫色の脈がある白色で,深く5つに裂けています。
和名は千回振り出し(煎じ)ても苦味を感じるところから名づけられたといわれますが,千回まではもたないでしょう。薬用には開花期の全草を用い,生薬名をセンブリまたはトウヤク(当薬)といい,苦味健胃薬および整腸薬として用います。苦味健胃薬としての利用は,西洋医学の影響を受け始めた江戸時代末期以降といわれています。それまでは衣類についたノミやシラミなどの殺虫剤として煎じ液で洗ったり,屏風などの虫食い防止のため糊に混ぜて利用していました。
「良薬は口に苦し」といいますと,多くの方はセンブリを思い浮かべるのではないでしょうか。しかし,このことわざは孔子の教えで,「忠言耳に逆う」と続き,特に薬草の効果について説明しているものではありません。これは「病気に効果のある良い薬は,苦くてとても飲みにくいものです。忠言や忠告は聞いて快いものではないが,本人のためになる」という意味で,現代でも通じる人生の良薬といえるでしょう。
(磯田 進)
https://www.zenyaku.co.jp/k-1ban/yakuso/kannazuki/senburi.html 【センブリ
10月(神無月)にが~い健胃薬】より
センブリは日本各地に自生する民間薬の代表格ともいうべき植物です。実物を知らない人でも、その名前を聞けば、すぐに「苦い」という連想が浮かぶほどです。
日本特産のセンブリですが、初めは、のみやしらみ用の殺虫剤として使われていました。
江戸時代の終わり頃から苦味健胃薬として認められ、医薬品の列に加えられました。
生薬としては、秋によく開花した全草を日干しにして、粉末にしたものを用います。
食欲のないときには食前30分ぐらいに、その他のときには食後に服用します。苦味が口中に残りますが、これが舌先を刺激して、反射的に胃の働きを活発にします。
https://www.ffpri.affrc.go.jp/snap/2014/8-senburi.html 【センブリ (Swertia japonica)】より
センブリ(Swertia japonica)はリンドウ科センブリ属の二年草で、北海道西南部、本州、四国、九州にかけて広く分布しています。草丈は三〇センチほど、夏から秋にかけて星形の白い花を咲かせます。花弁には黄緑色の蜜腺があり、昆虫を呼び寄せて送粉者として利用します。全草に含まれる各種の苦味配糖体(スウェルチアマリン、アマロスエリン、ゲンチオピクサロイドなど)によって極めて強い苦味があり、千回振り出しても(振り出すとは、熱湯の中に薬草を浸して成分を溶かし込むこと)まだ苦いということで千振(せんぶり)という名前の由来になっています。日本薬局方には苦味健胃剤、止瀉薬として登録されていて、御岳百草丸や陀羅尼助などの伝統薬に含まれるほか、単独でも民間薬として広く使われています。胃腸薬として使われ始めたのは案外新しく、明治以降とも言われており、より古くはノミ・シラミに対する駆虫薬として使われていたとされています。現在では、頭皮の血行を改善し発毛を促すと言うことで、センブリのアルコール抽出液が多くの養毛剤に配合されています。センブリは明るい草原に多い植物です。日本の草原のほとんどは半自然草原といって、人間によって火入れや牛馬の放牧、茅葺き屋根や肥料のための刈り取りなどの管理が行われることで草原として維持されています。第二次大戦前には五〇〇万ha以上の草原が全国に存在していましたが、拡大造林によってその多くが針葉樹人工林に転換され、現在ではわずか三〇万haほどが残っているだけです。センブリは、かつてはありふれた種でしたが、草原の減少に伴って生息地が急速に減少し、現在では幾つかの県で絶滅危惧種としてレッドリストに記載されているほどです。かつては子供やお年寄りが小遣い稼ぎにセンブリを採集する姿が野山に普通にみられました。今でも山を歩いていると、時折センブリを求めて山野を歩くお年寄りを見ることがありますが、その数は少なく、これもまた二十世紀の残映として、遠からず消えて行く風景のように思われます。