ロボットによる傾聴が有効
https://www.kansai-u.ac.jp/ja/about/pr/news/2023/11/post_75051.html 【「総合情報学部・瀬島吉裕研究室が❝瞳だけで傾聴するコミュニケーションロボット❞を開発」を配信】より
【本件のポイント】
・コミュニケーション時の音声や振る舞いから、会話の熱量を推定
・熱量に応じた傾聴態度や共感態度を生成
・集団コミュニケーションの雰囲気推定への応用に期待
【概要】
関西大学総合情報学部の瀬島吉裕准教授の研究グループは、コミュニケーション時の音声や振る舞いから、会話の熱量を推定するモデルを実装した傾聴コミュニケーションロボットを開発しました。このロボットは、実空間での発話や振る舞いを仮想的な温度情報として変換し、会話の熱量を推定することで傾聴態度を制御します。このロボットは日本科学未来館において2023年11月22日から常設展示されています。
【研究背景】
近年、認知症や孤独化といったコミュニケーションの在り方が問題になっています。そのためソーシャルロボット(コミュニケーションロボット)の活用が期待されており、日常的な会話を通じてロボットが人間と関係構築する仕組みが求められています。すなわち、会話を成立させる言語機能と、感情を豊かにする非言語機能が求められています。言語機能は、ChatGPTに代表される大規模言語モデルにより、人間らしい会話が可能となったものの、非言語機能においては未だ不十分です。そのため、会話への興味や発話を促す相槌のような、聞き上手ともいえる非言語による人間らしい振る舞いを生成・表現するAI技術が求められています。
研究者はこれまでに、人間の興味と密接に関連する眼球内部の瞳孔に着目し、会話における人の瞳孔を解析 した結果、話し手の瞳孔は感情の強さに応じて拡大することを明らかにしました。さらに、話し手の瞳孔反応を模擬する瞳孔反応ロボットPupiloid(ピューピロイド)を世界に先駆けて開発してきました。このロボットを用いて会話への満足度を高めるには、話し方や会話のリズム、盛り上がりといった、話し手の期待に沿った振る舞いを設計する必要がありました。
【研究成果】
本研究では、会話時の音声入力や振る舞いから、会話の熱量を推定するモデルを開発しました。この推定モデルは、人間が共通的な感覚として理解しやすい温度に着目しています。例えば、「白熱した議論」、「熱心に聞く」、「熱気に満ちている」といった比喩があるように、人間は共通的な温度感覚によって、他者の感情状態や場の様相を把握しています。本研究では、この比喩として利用される温度情報を、実空間における音声やうなずきといった振る舞いを入力として変換しています。とくに、発話やうなずきといった熱生産が行われることで、場との温度差が生まれ、場へ熱量が移動します。この流れ込んだ熱量を場の温度とすることで、会話の熱量を推定することができます(図1)。
この推定モデルを瞳だけでコミュニケーションができるロボットPupiloid(ピューピロイド)へ導入しました。具体的には、会話の熱量が高くない状態のときは、ロボットは視線を逸らす等の態度を生成しますが、会話へ熱が入ったときには、アイコンタクトを取りながら積極的な傾聴を行います(図2)。とくに、音声入力のリズムを解析して、うなずき動作や相槌を生成するだけでなく、瞳孔を1.5倍程度に拡大して、あたかも会話に興味があるような傾聴態度を生成します。この積極的な傾聴態度により、話し手は思わず話し続けてしまい、会話へ惹きつけられるような感覚が得られます。
Pupiloidは最先端のロボット技術の一つとして、日本科学未来館の常設展示「ハロー!ロボット」の展示物として取り上げられており、展示期間は2023年11月22日からです。この展示では、Pupiloidとの対話ができるので、コミュニケーションの不思議さや、傾聴態度の嬉しさを体験してもらいたいと思います(図3,図4)。
図1 仮想的な温度空間
<図1 仮想的な温度空間>
図2 会話の熱量に基づく傾聴態度の設計
<図2 会話の熱量に基づく傾聴態度の設計>
図3 展示の様子
<図3 展示の様子>
図4 体験の様子
<図4 体験の様子>
【実社会への応用(今後への期待)】
認知症や孤独化を予防する観点から、高齢者だけでなく、独居している人が地域コミュニティへつながる仕組みとして、発話行為を促進させることができると期待されます。ストレスを抱えるのではなく、言語化して外部へ放出することがストレス緩和に良い影響がある以上、コミュニケーションがもたらす心理的効果を最大限に活用する仕組みとして、介護福祉や接客業、教育・エンタテインメント等への幅広い応用展開が期待されます。・・・<詳細は以下のリンクより>
https://www.interaction-ipsj.org/proceedings/2019/data/bib/3B-46.html 【発話課題における対話ロボットの傾聴機能の影響評価】より
著者
朝 康博(日立製作所)沼田 崇志(日立製作所)伴 真秀(日立製作所)築地新 建太(日立製作所)的場 浩介(日立製作所)大石 諸兄(日立製作所)佐藤 大樹(芝浦工大)
アブストラクト
ヒトと対話ロボットが継続的にコミュニケーションをとるためには,対話ロボットに傾聴機能を持たせ,ヒトの自発的発話を促すことが重要である.そこで本稿では,ヒト同士のコミュニケーションの傾聴行為である表情模倣,共同注意,相槌の機能を実装した対話ロボットを開発し,高齢者による評価実験を行った.その結果,傾聴機能の有無によって被験者の発話量に違いは見られなかった.しかし,傾聴機能有り条件で発話量が増加した被験者に着目したところ,笑顔時間,笑顔度,対話ロボットによる笑顔模倣回数が増加しており,表情模倣の有効性を確認できた.今後,本実験結果を踏まえ,発話量と笑顔指標の関係を考慮して傾聴機能を改善する予定である.