【幸せのためのヒントFile42:メンタルクリニックと協働する不動産屋さんが考えていること ~アオバ住宅社、齋藤瞳さんのその後~】
『月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)で連載している「幸せのためのヒント」。
12月号では、2021年5月号で紹介した“一生お付き合いする不動産屋”、齋藤瞳さんのその後を紹介しています。
※2021年5月号の記事はこちらです。
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この夏、齋藤さんからこんなメッセージが届きました。
“実はこのたび、私ごとではありますが、精神科クリニックのソーシャルワーカーとして活動しながら、同建物内で宅建業を営むことになりました。精神障害のある方は私のお客様の中でも最も部屋探しが難しく、自立の後押しのためには医療との連携が重要だとずっと思ってきましたが、このたび色々ご縁があってこのようなこととなりました。今後はやれることももっと増えると思いますので、気を引き締めて邁進していこうと思っています。”
この知らせを受けて嬉しくなるとともに、不動産屋というより“齋藤瞳”という一個人として困りごとを抱えている人に向き合ってきた、齋藤さんらしい展開だと思いました。
目の前にある課題を解決しているうちに、不動産業からどんどんはみ出していくのが齋藤さんです。
「自分が医師とつながるしかない」という思いに至る
3年前に「社会福祉士の資格を取ろうと思って勉強をしてるの」と話していた齋藤さんは、社会福祉士のみならず精神保健福祉士の資格も取得し、「しろくま・メンタルクリニック」(横浜市旭区)で、医療ソーシャルワーカーとしても活動していました。
精神保健福祉士になろうと思ったのは、精神障害を抱える人の部屋探しや自立支援をするなかで、「医師と直接、本人のことを話せたらもっとできることがあるのに」というもどかしさを感じていたから。
引っ越しの支援をしたケースのなかに、“医療が不在”であったために、本人が命を落としてしまったものが何件かあったと言います。
「“医療が不在”の支援が多い。むしろ、福祉よりも医療を入り口に支援を展開していったほうが、自立支援はうまくいくのではないか」
というのが、齋藤さんの考えです。
実際に、クリニックがある地域の大家さんたちに「医師と連携している不動産屋」だとPRする手紙を送ってみたところ、「それなら部屋を提供してもいいかも」と言ってくれる人がちらほら現れ、「私の考えは間違えてなかった」と、手応えを感じているのだそう。
オープンでいることで、自分を守っている
話を聴きながらその人の胸の奥にある想いを引き出すのは、齋藤さんが最も得意とすること。このクリニックでは、初診の患者は主に齋藤さんが問診しています。
そんななか思うのは、人とのかかわりを避けて生活している人が多いということです。
「“自分”というものを社会からぽっかり抜いてしまっている人が多いように思います。“社会のなかにいる自分”ではなくて。『自分の気持ちは人には言いません』『知らない人とはかかわりたくありません』みたいな」
それは「自分を守っているようで、実は自分を苦しくしているのかもしれない」と、齋藤さんは考えます。
反対に齋藤さんは、周囲に自分から声をかけておくことで、自分を守っているのだそう。見ず知らずの人が多いということは、自分を追い詰めることになるから。
「エレベーターに乗ったとき『どうも、こんにちは』とあいさつしたり、コンビニでレジの人に声をかけたり。そうやって少しだけ自分を出しておくと緊張が和らぐので。実は、すごく“緊張しい”なんで(笑)」
ベランダや窓から感じる“生活の匂い”に癒される
慌ただしい日々を送るなかで、ベランダなどに干してある洗濯物を見たり、夜に明かりが漏れている窓を眺めていると、心が癒されるのだそう。
「そこにどんな人が暮らしていて、どういう住まい方をしているのか想像してしまうんです。人がいろんな所で生きているわけじゃないですか。それを肌で感じるのが好きというか。きっと、『みんなこうやって生きてるんだね』って実感すると、気持ちが楽になるからでしょうね」
「しろくま・メンタルクリニック」では、クリニックが入っている建物の1階でカフェも運営しています。
精神障害者の就労の場にしたり、勉強会を開いたりするなどして、地域にひらいた場にしていく予定なのだそう。
今後の展開が楽しみです。
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