2099年 ワイン生産地の未来予想図 その①
2018年12月、EUから支援されるiSQAPERプロジェクトによる気候変動後のワイン生産地域の未来予測についての研究報告が発表された。
気候変動はブドウ畑を大きく変化させることが予見されており、特にワインの文化圏であるヨーロッパの多くの国にとって、ブドウ栽培、ワイン造りは農民からレストランまで多くの利害関係者が存在しており、その経済圏は非常に大きい。持続可能なワイン生産を行っていくために、気候変動による影響を評価する本研究が行われた。
この研究では2つの有力な気候変動シナリオ(GCM GFL-ESM2M、HadGEM2-ES)を用いて1950年から2099年までのシュミレーションを行っている。世界のブドウ生産の約90%をカバーする6つの地域(北アメリカ西海岸、ヨーロッパ、中国、チリ・アルゼンチン、南アフリカ、オーストラリア・ニュージーランド)を評価対象とした。評価を行うための重要な指標としては、生産における気温適性を測定するための指標であるHuglin Index(HI), ブドウの成熟に大きな影響を与える夜間温度の指標であるCool Night Index(CNI), 降水量と水分蒸発量に基づく干ばつの指標であるStandardized Precipitation-Evaporation Index(SPEI)の3つが用いられた。
全世界的な影響は以下が予測された。
2099年の世界のワイン産地への影響予測
・世界的に栽培時期の温度が上昇する
ポジティブ:霜害の減少、冷涼地域での新たなブドウ生産
ネガティブ:ブドウへの熱ストレスの増加による低品質化、温暖環境に対応できるブドウ品種への植え替え
・世界的に夜間温度が上昇する
ポジティブ:夜間温度が低すぎる地域(北部アメリカ、北部ニュージーランドなど)での栽培条件の適正化
ネガティブ:ブドウ品種の早熟化による品質低下(香り、色素の低下)
・世界的に水不足が起こる
ポジティブ:湿気による病害の減少
ネガティブ:成長期の水不足、灌漑地域の増加、灌漑地域での水不足、コストの増加
2099年の各産地の未来予測
①ヨーロッパ
温暖化の影響を非常に強く受ける。特にイベリア半島南部(スペイン、ポルトガル)、サルデーニャ島、また地中海沿岸を中心にヨーロッパほとんどで夜間温度の上昇によるブドウの早熟化が予測されている。これはワインの醸造を見直すだけでなく、栽培品種の見直し、仕立て、台木の選定まで多くの適応手段が必要になることを予測している。また、スペインの一部で行われている程度であった灌漑はヨーロッパのほぼ全域で必要になる。一方、北部ヨーロッパでは霜の減少、夜間温度の適正化、降水量の減少により、湿気による病害の減少が期待できる。
ニューワールドの各産地については次回紹介します。
(参考)未来予測についての報告で、イタリアのカンパーニャ州で行われた気候変動モデルについて過去に書いたブログです。「気候変動はタウラージからアリアニコを奪う?」
研究フレームのサマリー(Graphical abstract of the study framework)
Reference:Vineyards in transition: A global assessment of the adaptation needs of grape producing regions under climate change
Santillán D., Iglesias A., La Jeunesse I., Garrote L., Sotes V.
Science of the Total Environment 2019 657 (839-852)