【GeoValueセレクション】都市化に伴う地下水汚染でサケの稚魚が小さくなる可能性~北海道大学と札幌市豊平川さけ科学館
※この記事は2024年11月25日付けで契約者に配信した電子専門紙「Geo Value」Vol.208に掲載したものを転載したものです。
都市化に伴う地下水汚染でサケ稚魚が小さくなる可能性――。これは、北海道大学大学院環境科学院修士課程の山下祥平氏(当時)、同大学大学院地球環境科学研究院の根岸淳二郎教授及び札幌市豊平川さけ科学館の有賀望学芸員らの研究グループによる研究成果。土壌・地下水汚染分野では昨今、地球温暖化対策の視点も加えた対策について検討等が進み始めましたが、この研究は地下水汚染と生物多様性保全に繋がりそうな内容で注目しました。
この研究は、石狩川水系豊平川中流において河床から湧出する地下水の水質・水温を観測し、発眼卵を用いた野外と室内実験を組み合わせ、サケ(シロザケ)産卵床への影響を解析したもの。
研究では、豊平川の約1.5kmの調査区間を対象に、自然に形成された産卵床を20カ所選び、約20㎝深の河床内の水を採取し水質分析。また、それら産卵床の横に人工的に受精したサケ発眼卵を埋設して孵化及び成長、そして生残を計測、また水温を含む水質環境を観測。並行して、河川水と湧出地下水を実験室に持ち帰り、温度や水質を調整しながら室内で飼育実験を行い、発眼卵の成長過程と生残率を観察したとしています。
その成果、冬季に形成される豊平川のサケ産卵床の多くは湧出地下水の影響を受けており、そのような産卵床内の水は低い溶存酸素濃度と高電気伝導度、比較的高い硝酸態窒素濃度などで特徴付けられたとしています。また、産卵床内部に地下水の割合が多いほど、一定の成長段階に至った際の体長や体重が減少する傾向がみられたとしています。
室内実験では、地下水の温度(10℃)の100%湧水で飼育した発眼卵は1週間以内にすべて死亡し、溶存酸素濃度を飽和状態にした場合は死亡する個体はほぼ見られなかったとしています。一方で、溶存酸素濃度を飽和状態にした場合でも、同じく溶存酸素濃度を飽和状態にした低温(5℃)の河川表面水で飼育した場合と比べると、100%湧水で飼育した発眼卵から生まれた稚魚はその体サイズが10%程度減少。このうち約5%は水温の独立な影響と推定されたので、約5%がその他水質の独立な影響と考えられるとしています。地下水の溶存態イオンの高い濃度は、人為的汚染の影響で説明でき、サケ稚魚の成育に何らかの阻害効果を有する物質が地下水に含まれている可能性が高いと考えられるとしています。これらにより、全体として、都市化に伴い地下水が汚染されることで、冬季産卵個体のサケ稚魚がより小さくなる可能性が定量的に示されたとしています。
研究グループでは、この成果により、サケの河川産卵環境の維持・改善における地下水水質保全や汚染・毒性物質の特定の重要性が示され、より良い都市河川の環境管理に一歩近づくことが期待されるとしています。
※記事中の図は、北海道大学発表資料のものです。
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