日本が長期デフレに陥った諸悪の根源は、日本人の努力不足などではなく、過去の政府や日銀の経済政策の失敗です。(15)
<前期高齢者と留学生>
・ここ(流通サービス業)に手を打つことが喫緊の課題だ。対策としては、75歳までの前期高齢者の雇用推進があげられる。たとえば、最低賃金や有期雇用期間に対して、年金受給者については企業側に有利に設定できるようにして雇用を促進する、等の施策が必要だろう。
そしてもう一つ。流通サービス業の幹部候補者の確保策を考えねばならない。ここでは、外国人留学生30万人計画が意外に奏功しそうだ。
・どうだろう。冷静に社会を見ていけば、解決策は見えてくる。悲嘆にくれるだけの空騒ぎは厳に慎むべきといいたい。
『反デフレ不況論』 それでも日本企業が勝つ理由
日下公人、長谷川慶太郎 PHP 2010/7/2
<百年デフレは日本の時代>(長谷川慶太郎)
<インフレは戦争の産物、デフレは平和の産物>
・日本の政治と経済における問題は、政財界のトップが、デフレとはどんな性格のものであるか、デフレがなぜ起こり、どの程度続くかと言う見通しを持っていないことである。
・世界の歴史を見れば、戦争の時代はことごとくインフレであり、平和な時代はことごとくデフレである。世界の安定がたもたれるならば、デフレはこれからも続く。これは争うかたなき事実である。景気の変動や資本主義や社会主義といった体制の問題ではない。
<百年デフレの時代>
・人類は歴史上、何回かインフレを経験している。人々は戦乱と物価の高騰した昔は、その対応を模索した。インフレを抑制するための最終的な手段はデノミネーションであるが、かってのソ連や東ヨーロッパ諸国、中国などの社会主義国は、ほぼ例外なく第2次世界大戦の戦後にデノミを行っている。
・旧ソ連は、1948年に100分の1のデノミを実施し、中国では中華人民共和国の建国間もない1950年に100分の1のデノミを行った。ハンガリーは第2次世界大戦の終戦を経て、ハイパーインフレに見舞われ、10京(京=1兆円の1万倍)分の1を超えるという、想像を絶する規模のデノミを実施している。
・アメリカやイギリスはデノミを行う必要がなかったがフランスとイタリアを始めとする第2次世界大戦の参加国のほとんどがデノミを実施している。
・逆に人類がデフレを経験したのは今回が2度目である。
・正確に言えば、ヨーロッパ大国間の戦争がなかった1873年から1896年までの24年間に世界初のデフレが起きている。こうした平和な時期にイギリスで産業革命が起こり、それが世界全体に広がり、工業生産および農業生産が飛躍的に拡大したからである。
・「これまでの百年はインフレの時代、これからの百年はデフレの時代になる」と述べた。繰り返すが、その理由は戦争の不在である。
・「インフレは戦争の産物、デフレは平和の産物」である。インフレやデフレは、金融政策を緩めるか、引き締めるかによって生じるものではない。金融をどんなに引き締めてもインフレは治まらず、同様に金融をどれほど緩めてもデフレを収束させることはない。
・なおかつ、現代では貿易自由化の時代である。いくら金融を緩めても国際取引が自由に行われることが保障されている限り、海外から安い商品がどんどん入ってくるから物価は必然的に下落する。
・こうした客観情勢の力はきわめて強く、一国がどんな政策を講じても、デフレを抑制したり転換することはできないだろう。
・ところが、この点を政府も日銀も勘違いしており、日本がただ一国だけ単独で存在しているかのごとく考え、インフレやデフレを判断している。だが、そうした誤った判断の下に行われる政策は、失敗に終わるだろう。
『世界の軍事情勢と日本の危機』
高坂哲郎 日本経済新聞出版社 2015/10/8
<世界では「領土は実力で奪ったもの勝ち」という露骨な力の論理が復活>
・それに加えて、イスラム過激派などによるテロリズムとの際限のない戦いが続き、その影響は2020年に東京オリンピックを開催する日本にも及ぼうとしている。
・総じて「自分の身は自分で守る」という国際社会の基本を再確認することを求められているのが現在の日本なのだが、既に触れたデモに示されるように、安全保障政策をめぐる日本の国論は深く分断されている。筆者の見るところでは、この分断の背景には、厳しさを増す国際情勢などについての「認識格差」が存在する。見たくない現実は見ようとしない空気や、安保環境の悪化を国民に十分説明しない安保当局者の思惑など、認識格差を再生産する仕組みもある。
・安全保障というと、防衛や外交、諜報(インテリジェンス)といったことを連想しがちだが、現代においては「国内治安」や「沿岸警備(海上保安)」、バイオ・セキュリティなどの「公衆衛生」、「サイバー・セキュリティ」、機微な技術が問題のある国家の手に渡るのを防ぐ「安全保障貿易管理」など、より多角的になっている。言い換えれば、防衛や外交だけ見ていては、安全保障の全体像をつかむことができない時代になっている。
<核兵器――ゲーム・チェンジャー①>
<再び使われる兵器に?>
・ただ、現代史をひもとけば、実際に核兵器が使われそうになった事態は多かった。朝鮮戦争やキューバ危機の事例は有名だが、このほかにもインドシナ戦争で劣勢のフランスが米国の核を借り受けようとしたことがあった。
第二次中東戦争(スエズ動乱)では米ソが核による威嚇の応酬をし、第四次中東戦争では追い詰められたイスラエルが核の引き金を引こうとしたりした。日本ではあまり深刻に受け止められなかったが、2000年代の初頭、インドとパキスタンの緊張状態が高まった際にも核戦争になるリスクが意識され、避難の動きまで起きていた。核兵器の使用は何度も意識されてきたのである。
・プーチン氏は、国際社会の非難の声に耳を貸さず、クリミア半島奪取という「力ずくでの国境線変更」という第2次世界大戦後、世界では「ご法度」となっていたことをやった人物である。彼が戦後70年封印されてきた「核兵器の実戦使用」も解禁してしまえば、「核兵器を使う敷居は一気に下がり、規模の小さい戦術核兵器であればふつうに使われるようになる可能性もある」と悲観する戦略理論の専門家もいる。
<米国の「脱・核兵器」の副作用>
・米国は2011年夏、米本土から発射して地球上のどこにでも1時間以内に到達するという超音速の無人高速飛行体「ファルコンHTV」の発射実験を2度にわたり実施した。ミサイル防衛(MD)システムが敵の核ミサイルを撃墜する非核の「盾」だとすれば、ファルコンは非核の「槍」に相当する。
<中国の核兵器という暗黒>
・中国は近年、経済力の増大を背景に軍備も増強しており、従来は200~400発と見られてきた核の総数は実際にはそれよりも多く、「核兵器用に造られた地下トンネルの長さなどから計算すると3000発以上持っている可能性がある」と見る米国の専門家もいる。
・中国は、日本列島を射程に収める核搭載可能な中距離弾道ミサイルなどを大量に保有するが、北朝鮮のミサイル脅威に比べ、なぜか日本ではそれほど問題視されない。
<止まらない核拡散>
・このほか、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮も核兵器保有を続ける構えだ。パキスタンの核をめぐっては、「出資者」であるサウジアラビアに数発の核兵器を既に引き渡したとの観測もある。何かの拍子に中東での「核武装ドミノ」が倒れ始めれば、トルコやエジプトも核保有に関心を示すとも見られている。
・核兵器廃絶を願う運動は絶えないが、目下のところ、それが実現する兆しはない。むしろ、核兵器が使われる時代が再び来てもおかしくないような状況がきている。我々の備えが十分なのか、不断の見直しをしなければならない。
<生物兵器――ゲーム・チェンジャー②>
<遺伝子改造型生物兵器の脅威拡大>
・2011年12月、米国立衛生研究所(NIH)の「生物安全保障のための科学諮問委員会(NSABB)は、有力科学誌「サイエンス」を発行する米科学振興協会に対し、オランダなど2つの研究グループの論文の掲載延期を求め、論文の公開がいったん延期された。2論文は、強毒性の鳥インフルエンザウィルス「H5N1」の遺伝子を改造すると人間同士でも感染するようになる仕組みを解明したものだった。
・遺伝子を改造して新たなウィルスを生みだす生物工学は、民生利用だけでなく軍事利用もできる「両用技術」(デュアル・ユース・テクノロジー)だ。2つの研究グループは論文の趣旨を新たな強毒性の感染症流行に備えることと説明していた。しかし、論文が公表されれば、致死性が極めて高くワクチンもない新種の生物兵器の開発・使用という「最悪の事態」に利用されるリスクもあるのは事実だった。
<核兵器や化学兵器より規制の緩い生物兵器>
・明らかに違うのは、軍事利用の拡大を食い止めるための監視機関の有無だ。核の場合、核拡散防止条約(NPT)に基づき国際原子力機関(IAEA)が加盟国の原子力施設を査察。化学では、化学兵器禁止条約(CWC)のもとで化学兵器禁止機関(OPCW)が各国の関係施設に立ち入って軍事転用されていないか目を光らせている。
・これに対し「生物兵器禁止条約(BWC)にはそもそも査察制度がないため、外部からの刺激を受けない生物学者の間で軍事転用への警戒が希薄になっている」(大量破壊兵器問題の専門家)。
<研究と規制の両立の道>
・当面の焦点は、ワクチンの研究開発を進めながら、しかもテロなどに悪用される事態を防げる体制の構築が可能かどうかだ。
<日本も参考にしたい米軍のエボラ対策>
・2014年、西アフリカ諸国を中心に続くエボラ・ウィルス病の被害を食い止めるため、米軍が大規模な救援活動に動いた。中東では過激派「イスラム国」に苦戦し、ウクライナ情勢ではロシアに押されっぱなしの米軍だったが、今回の未曾有の感染症危機に際しては「仕事師」ぶりを発揮した。
「エボラ危機」に対し米軍は、14年9月、機動力の高い海兵隊や陸軍空挺部隊を相次いでリベリアとセネガルに投入、当初は4000人を予定していた派遣規模は、その後感染拡大のペースが緩んだこともあって3000人減らしたが、それでもシエラレオネなどに数百人の部隊を送った英軍やフランス軍に比べると群を抜く規模だった。
<サイバー戦争――ゲーム・チェンジャー④>
<「サイバー抑止」の模索>
・「2012年、米国を含む各国のコンピュータ・システムは、中国からのものとみられる侵入を受け続けた」――。2013年5月に公表された米国国防総省による軍事力に関する報告書は、一部のサイバー攻撃は中国が発信元であることを明記した。通常、攻撃の発信元を具体的に名ざしすることは、自らの探知能力を暴露することになるため、各国ともしたがらなかったが、最近米政府や一部企業はこうしたタブーを破って攻撃元を名ざしするケースがでてきた。こうした動きにも、中国発のサイバー攻撃を抑止したいとの意図がにじんでいた。
<気候変動――ゲーム・チェンジャー⑤>
<気候変動が地域紛争を増やす?>
・近年、気候変動の影響と見られる大型台風や竜巻、大規模な干ばつ、海面上昇などが報告されている。人類の活動が地球の気温を上昇させているかどうかをめぐっては、専門家の見解は分れたままだが、米軍など一部の国の軍隊は、気候変動をもはや無視できない安全保障上の脅威だと認識し始めている。
気候変動が軍隊に及ぼす影響の第1は、「出動の増加」だ。2005年にハリケーン「カトリーナ」が米国を襲った際には、大量の州兵が動員された。東南アジアを襲う大規模台風による被害に、米軍や自衛隊などが派遣されたこともある。今後は、水不足の深刻化でアフリカや東南アジアで地域紛争が起きることも予想されている。
<「情報戦途上国」という決定的弱点――死角⑦>
<情報交換で「ギブ・アンド・テイク」できない日本>
・その「裏のルート」で、世界最大の国防・テロ対策費を投じて世界中に情報網を張るのが米国だ。そして英国は、自国の秘密情報部(SIS、通称MI6)の要員を米情報機関に常駐させるほど、米国と太いパイプを持っているとされる。
・米国の情報機関が英国のSISの要員の常駐を受け入れているのは、SISが情報機関としては「老舗中の老舗」であり、世界中に人的情報(ヒューマン・インテリジェンス=ヒューミント)網を張り巡らせ、米国の情報機関ではとれないような情報をとってこられるためだろう。
<主要先進国では日本だけがない対外情報機関>
・主要な先進国および中露両国の中で、国外のインテリジェンスを収集する専門機関がないのは日本だけである。このため日本は、各国の対外情報機関のコミュニティには入りにくい。わが国がそうしたハンディを抱えている状況さえ、日本国内ではあまり認識されていない。
日本では戦前、外務省や軍がそれぞれ「裏のルート」の対外情報も集め、外交官の杉原千畝や陸軍少将の小野寺信といった優れたインテリジェンス・オフィサーが活躍した。軍は陸軍中野学校のようにスパイ養成機関も持っていた。
<国民防護へ本当に必要な投資を――対策⑤>
<多目的シェルターの整備>
・中国が日本をミサイルで攻撃する場合、米軍基地や自衛隊施設といった軍事目標を狙う「カウンター・フォース(対軍隊)」型と、人口の密集した都市部を狙う「カウンター・ヴァリュー(対価値)」型の2種類が考えられる。
前者に備えて、米軍や自衛隊は地下深くに設けた指揮所などをもっている。これに対し、本書で繰り返し述べてきたように、国民を防護するシェルターは今の日本には存在しない(既存の地下施設や、個人が所有する小型シェルターは含めない)。この状態は見ようによっては一種の「官民格差」と言えなくもない。
・日本がこの現状を打開するには、時間がかかっても、経費がどんなに巨額になっても、標的にされる恐れの大きい地域にシェルターを設けることが必要になる。短期間に必要数を設置することは難しいので、まずは手始めに、首都中枢や自衛隊・在日米軍基地のある地域の幼稚園・保育園、小中学校、高等学校などにシェルターを設け、最悪でも次世代を担う人材を守り抜ける体制を築きたいところだ。
<シェルター不在の責任を問われるべきは………>
・国民の生命をより確実に守るシェルターがフィンランドのように整備されていないことの責任は、実は、防衛省・自衛隊というより、首相官邸やその他の官庁に問うたほうがいいという事情もある。
有事において自衛隊の最も重要な任務は、侵略してくる敵の排除であり、国民保護という仕事は、内閣官房や総務省消防庁が主管しているからだ。
・西ドイツはシェルターを普及させるための優遇税制を設けていた。そのことを考えると、財務省や国土交通省にも問題意識を持ってもらいたいところだ。
・必要なのは、現実に即した具体的な方法論と、そのための法的基盤の整備だ。今動き出せば、数十年後には今よりも安全な日本を次世代に残せる。心ある当事者は問題の所存を承知していると信じたい。
<「日本流の非対称戦」で防御する>
・巡航ミサイルも無人機と言えば広義の無人機であり、重点配備すべきだとの論もあるが、筆者もこれに強く賛同する。
<対外情報機関を早く立ち上げる――対策⑦>
<まずは「器」をつくる>
・外務省は「表のルート」の外交という本業にあたり(その中で当然、情報部局は引き続き必要になろう)、防衛省の情報本部(DIH)も国防情報機関として存続させる。日本版対外情報機関は、インテリジェンスの「裏のルート」「けもの道」を歩くプロの機関として位置づけ、首相官邸に直属させるのがいいだろう。
<警察公安部と公安調査庁の統合>
・対外情報機関とセットで、日本国内でスパイ活動をする外国人やその配下の日本人、あるいはテロリストを取り締まる防諜専門機関も創設すべきだろう。
・現在、日本でこの活動を担当しているのは、警察庁と都道府県警察にネットワークを張る警察の公安部局と、法務省傘下の公安調査庁である。ただ、スパイを取り締まる根拠法の部分で弱いため、スパイを探知しても微罪でしか取り締まれないような状態が続いている。
<守りやすい日本への100年計画>
<自分の頭で考え、生き残る、人命を守り抜くことを教える教育>
・テロや奇襲的な武力攻撃が起こる現代においては、国民はただ自衛隊や警察、消防に守ってもらう存在であってはならない。不幸にしてテロなどに巻き込まれた国民は、まず起きた事態から自らの命を守り、警察、消防などが到着するまでの間、近くの負傷者を助けるという意思と技術を持ち合わせておくことが望ましい。
・どうも日本人は、危機発生時にとっさに命を守る行動をとる習性が、他の国々の人々に比べると弱いのかもしれない。
そこで求められるのが、「自分の頭で考え、生き残る教育」「人命を守り抜く教育」の実現だ。これには、文部科学省や全国の学校と、警察官や消防関係者、自衛官らとの人事交流という方法が考えられる。
<思考のタイムスパンを長くし、100年先を意識する>
・武装工作員に標的にされる恐れのある原子力発電所は、代替エネルギーの確保を進めつつ、可能な限り少なくしていくべきだろう。あまり注目されていないが、現状では、原発は外国軍が自衛隊や警察を引き付ける「陽動作戦」に使われてしまう恐れがある。
いずれも、実現には数十年もの期間を要するかもしれないが、それでもそうしたアイデアをタブー視せずに検討し、一度着手したらやりとおす「超長期的な視点で推進する安全保障政策」という考え方があってもいいと思う。
・安全保障の世界でも、着手してすぐには成果が出ないことがあっても、次世代のために今着手したほうがいいと思われることはたくさんあると思われる。
<祈るだけでは平和は守れない>
・先の敗戦から70年となった2015年夏、「戦争は二度としてはならない」との声が何度も聞かれた。本当にそうだと思う。一方で、こちらに戦う意思はないのに手を伸ばしてくる国があったり、何の罪もない人が理不尽な形で突然命を奪われるテロが起きたりしている。祈るだけでは平和は守れない。我々は「具体論」をこそ語らなければならない。
本書は、「日本の守りを固めたい」という思いと、「結局のところ日本は変われないのかな」というかすかな絶望感のようなものの間で揺れながら、それでもなお、新聞記者として書き遺しておかなければならないと感じられたことをまとめたものである。
『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』
北村淳 講談社 2015/3/23
<中国軍の対日戦略が瓦解した日>
・現実には(2015年3月現在)日本には中華人民共和国に対してだけでなく、いかなる国に対しても海を越えて報復攻撃を実施する軍事力は存在しない(ゼロとはいえないものの、ほぼゼロに近い)。
・ただし、「日本には日米安全保障条約があるではないか」という人々が少なくない。これらの人々は、「たとえ日本自身が報復攻撃力を保持していなくとも、日本の防御力で敵の攻撃を防いでさえいれば、アメリカ軍が助けに来てくれて、彼らがやり返すことになっている」というふうに信じ込んでいるようである。
その結果、日本は防衛のために必要な軍事力の片面にしか過ぎない「防御力」しか保持せず、「報復攻撃力」がゼロに近い状態でも、平然として国家をやっていられる、というのである。まさに「アメリカは矛、日本は盾」というレトリックに頼りきっている点、これこそが、日本社会が「平和ボケ」といわれている最大の理由ということができる。
・そもそも「防衛」のために莫大な税金を投入して軍事力を保持しなければならない究極の目的は、日本が外敵から軍事攻撃を仕掛けられたら「防御」するためではなく、「外敵が日本に対して軍事攻撃を実施するのを事前に思いとどろまらせる」こと、すなわち「抑止」にある。
自衛隊が「防御」する段階に立ち至った場合には、いくら自衛隊が頑強に「防御」したとしても、日本国民の生命財産が何らかの損害を被ることは避けられない。したがって「防衛」の理想は「防御」ではなく「抑止」なのである。
・そして、日米同盟のレトリックに頼りきった日本が「防御」のための軍事力しか持たないならば、いくら世界最強の防御力を持っていても、アメリカが助けに来てくれるまでは「やられっぱなし」の状態が続くことになってしまう。
日本を軍事攻撃しようと考える外敵にとっては、「やられたらやり返す」という軍事能力を持たない日本を攻撃する場合、アメリカが登場するまでのあいだは「やり返される」ことを考えに入れる必要はないため、軍事的には日本攻撃にさしたる躊躇はいらないことになる。
・日本が「防御力」しか持っていない状態と、日本が「防御力」に加えて最小限度の「報復攻撃力」を保持している状況とでは、外敵に対する抑止効果という点では、雲泥の差が生ずることになる。
極言してしまえば、暴力によって勝敗を決してしまう軍事の根底に流れるメカニズムは、実はこのように単純なのだ。そして、「外敵からの武力攻撃を受けないためには、適正な報復攻撃力を持たなければならない」ということは、国防の鉄則なのである。
・本書では、現在日本が直面している最大の軍事的脅威は何か、それを明らかにするとともに、その軍事的脅威が実際に発動されないように抑止するために、日本自身が可及的速やかに手にしなければならない「とりあえずの抑止力」を明確に提示したい。
<「とりあえずの抑止力」の脆弱性>
・憲法第9条や「専守防衛」という奇妙な原則に拘泥してきた日本は、自衛隊という大規模な軍事組織を構築してきたにもかかわらず、中国や北朝鮮に限らずいかなる外敵に対しても、報復攻撃を実施するための軍事力を保有しないように努めてきた。その結果、現在の自衛隊は、様々な優秀かつ高価な兵器を手にしてはいるものの、中国に対しても北朝鮮に対しても、海を渡って攻撃する能力はほとんど保有していない。
<中朝への報復攻撃力を持つと>
・逆説的にいうと、「日本から攻撃される」という変数が存在するだけで、対日攻撃計画は複雑になってしまうわけだから、そのような変数を初めから捨ててかかっている日本は、お人好しを通り越した存在ということになる。
・このように、これまで通りの自由に攻撃作戦を立案させないようにするという効果があるだけでも、日本が「とりあえずの抑止力」を可及的速やかに手にする意義は大きいし、絶対に必要となる。
<トマホークのピンポイント攻撃で>
・そのようなピンポイント攻撃を敢行できる方法としては、現在のところ、長射程ミサイル(弾道ミサイル・長距離巡航ミサイル)による攻撃が唯一の選択肢である。
日本は弾道ミサイルを製造する技術力は保有しているが、実際に中国や北朝鮮を報復攻撃する兵器としての弾道ミサイルを開発するには、ある程度の年月が必要である。しかし、「とりあえずの抑止力」を手にするためには、日本自身による弾道ミサイルの開発を気長に待っているわけにはいかない。かといって、弾道ミサイルを輸入することはまったく不可能である。
一方、長距離巡航ミサイルは、弾道ミサイル同様に独自開発には時間がかかり過ぎるものの、アメリカからトマホーク長距離巡航ミサイル(トマホーク)を購入するというオプションが存在する。
<中国が恐れるトマホークの配備>
・逆に考えると、約9600億円では、トマホークが9600基も手に入ることになる(それほど多数のトマホークは存在しないが)。このように、破壊力と装備費だけを比較すると、いかにトマホークがコストパフォーマンスに優れているかが理解できる。
<発射可能なトマホークの数は>
・このように現在、海上自衛隊には、最大1024基の水上戦闘艦発射型トマホークと、最大108基の潜水艦発射型トマホーク、合わせて1132基を一度に装填する能力が備わっている。
・以上のように考えると、海上自衛隊の現有艦艇によって、約800基のトマホークを発射することが可能である。そして、水上戦闘艦発射型トマホークは1基およそ1億円であり、潜水艦発射型トマホークは1基およそ1億5000万円である。すると、海上自衛隊は、約900億円で上記のような駆逐艦と潜水艦から発射されるトマホーク約800基を手にすることができる計算になる(実際にはテスト用数十基を含めて約1000億円)。
この場合、自衛隊艦艇の稼働状況や展開状況を考えると、現実的には保有する800基全弾を一度に発射するのは困難であり、400~500基が報復攻撃として連射されることになる。
<北朝鮮への「4倍返し」の値段>
・このように、年間の防衛費の約2%、1000億円を投入してトマホークを海上自衛隊艦艇に配備するだけで、日本は北朝鮮に対し最大で「4倍返し」の報復攻撃力を手にすることになる。
<対中報復攻撃は日本海から>
・国際軍事常識をはるかに凌駕したスピ―ドで長射程ミサイル戦力の充実に邁進し、短期激烈戦争を周辺国に対する侵攻(可能性による脅迫)のドクトリンとしている中国に対しては、トマホーク400~500基による報復攻撃だけでは「とりあえずの抑止力」を超えた抑止効果は期待できそうにない。
<中国でより深刻なトマホーク被害>
・したがって、日本が1000億円で手にできるトマホーク戦力は、少なくとも「とりあえずの抑止力」であると、中国共産党指導部は考えるはずだ。
<さらに強力な抑止力の構築には>
・1000億円を投入して、自衛隊が800基のトマホークを装備することによって、本書での目的である「とりあえずの抑止力」は手に入れることができる。本書の目的はここにおいて達成されるが、日本の防衛は「とりあえずの抑止力」を手にすることによって、真の防衛のスタートラインに立ったことになる。
・いうまでもなく、抑止力を強化するためには、報復攻撃力だけを強力にしていくのは得策ではない。できるかぎり受動的抑止力と報復的抑止力をバランスよく増強していくとともに、場合によっては報復攻撃力を予防的抑止力に転用する途も工夫して、すべての形態の抑止戦力を手にしていかねばならない。
・そして、日本の技術力のすべてを投入すれば、最大射程距離2500キロで最高巡航速度マッハ2を超える巡航ミサイルの開発に成功する可能性は十分にある。
・何をおいても1000億円で「とりあえずの抑止力」を手に入れよ――。
「封じ込めうる抑止力」に近づけるための各種抑止力の増強策、そして国防戦略そのものの大修正を行うための大前提は、1000億円を投入して「とりあえずの抑止力」を手に入れることである。これなくしては強力な抑止力はいつまでたっても手に入らず、それほど遠くない将来に短期激烈戦争を突きつけられ、実際に戦闘を開始する前に中国の軍門に降らなければならなくなる。または、北朝鮮から大量の弾道ミサイルが原発に降り注ぎ、福島第一原発事故の数十倍の放射能被害を受けるかもしれない。
<●●インターネット情報から●●>
「三峡ダム」の恐怖! 攻撃されたら万事休す・・・軍壊滅、民は「億単位で飲み込まれる」=中国メディア (サーチナ)
中国の軍事情報サイト「捷訊網」は21日、米国や台湾と戦争の事態になった場合、三峡ダムがミサイル攻撃を受け破壊された場合には、戦争に必要な軍部隊も水に飲まれ、民間人の被害は数億人にのぼると紹介した。
三峡ダムの危険性については早い時期から指摘があり、応用数学などを研究した著名学者の銭偉長氏(1912-2010年)は、三峡ダムが通常弾頭付き巡航ミサイルで攻撃されて崩壊すれば、上海市を含む下流の6省市が「泥沼」となり、数億人が被害を受けると試算した。
記事によると、三峡ダム下流の長江沿岸には軍の駐屯地が多く、軍も戦争遂行が不能になるという。
記事は、三峡ダム攻撃をまず研究したのは台湾と指摘。中国軍が台湾侵攻を試みた場合、台湾は同ダムを含む大陸部のインフラ施設攻撃を念頭に置いたという。
記事は次に、尖閣諸島で対立する日本による攻撃も取り上げた。奇襲すれば「釣魚島(尖閣諸島の中国側通称)はポケットの中の物を取り出すのと同様に簡単に手に入る」と豪語するタカ派軍人もいると紹介する一方で、三峡ダムへの攻撃リスクを考えれば、「釣魚島奇襲は不可能」と指摘。それまでに、時間をかけて三峡ダムの水を抜いておかねばならないと主張した。
記事はさらに「釣魚島を奪取しても利は小さい。三峡ダムの被害は甚大だ。しかも、(尖閣奇襲で)先に手を出した方(中国)が国際世論の非難を浴びる」と論じた。
記事は、尖閣諸島が原因で戦争になった場合、米国による三峡ダム攻撃もありうると指摘。さらに、国境問題で対立するインドが攻撃する可能性にも触れた。(編集担当:如月隼人)(イメージ写真提供:CNSPHOTO)