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凸と凹マガジン

凸と凹「登録先の志」No.33:久保田学さん(NPO法人支援センターあんしん 常任理事・事務局長)

2024.12.16 15:45


本当は地域の中で暮らせるはずの人たちが地域で暮らせないのはおかしい


振り返ってみると、福祉にかかわるようになったきっかけは、子どもの頃の地域の中での一コマがベースだった気がします。小学生の時、20歳ぐらい年上の知的障がいの方が近所に住んでいました。母は「お兄ちゃんは毎日事業所に通っていてえらいんだよ」と話していました。他にも、今思えば精神障がいだと思われる、近所の友だちのお母さんがいました。そのお母さんは機嫌がよい時は遊びに行った時にポテトチップスをつくってくれたりしましたが、機嫌が悪い時は包丁を持って「出ていけ」と言われることもありました。そんなこともあり、家族や地域の方からは、「あまり遊びに行かない方がいいよ」と言われていました。子どもながらに障がいがあると思われる2人に対する周りの扱いの差に、違和感を持っていました。

福祉の大学に進んだのは、学校のカウンセラーになりたいと思ったからでした。でも、学ぶうちに障がい者の支援をやりたいと思うようになりました。「精神疾患者は家に牢をつくって、ちゃんと管理しなさい」という法律が昔はあったのですが、そういった歴史を学び、やはりそれはおかしいと感じていました。卒業後は新潟県十日町市の精神科病院に就職。本当は地域の中で暮らせるはずの人たちが、社会的入院として病院に大勢いることがわかりました。国から退院促進が盛んに言われるようになり、退院後に移るための事業所を立ち上げ、退院のお手伝いや地域の中で暮らすための支援をしていました。

支援センターあんしん(以下、あんしん)にかかわるようになったのは、妻の父があんしんを立ち上げて活動していたからでした。義理の妹に重度の障がいがあり、大人になってから地域に通える場所がないため、高校卒業のタイミングで山奥の施設に入るか、遠くの施設に入るかの選択を迫られました。両親はそのどちらも選択せずに自宅で看ることにし、これをきっかけにあんしんの活動は事業所とも言えないところからスタートしたそうです。以前は、身体障がい、知的障がい、精神障がいそれぞれ別々の法律だったものが、自立支援法という法律に変わり、あんしんが取り組んでいたことがそのまま制度になっていき、今に至ります。




一人の人間として、地域の中で一緒に暮らしていく


障がいは特別なことではなく、誰にでも関係のある話だと考えています。精神的な病気の部分で、うつや統合失調症のことが、ニュースでもよく言われています。いつ自分がその対象になるかわかりません。日本社会はこれまでそういう方を排除してきたと感じています。しかし、一人の人間として、地域の中で一緒に暮らしていくことが大切です。

新型コロナウイルスの蔓延で感じたことがあります。法人内の事業所で新型コロナのクラスターが起きた際に利用者さんやご家族に連絡する中で、これだけ多くの方とかかわっていたのだという発見がありました。利用者の親御さんが職場に行けなくなるなど、ご迷惑をかけてしまった部分もありますが、これだけの方に影響を及ぼしていることを実感する機会でもありました。

地域の中で障がいがある方たちが安心して暮らせることで、ご家族にも自分のための時間ができ、やれることが増えたということをお聞きし、地域に貢献できていることを実感しました。これからは、障がいがあるからこそ、地域の中で支え合って生きていくために、希薄になりがちな地域住民との関係性をもっとつむいでいく必要があると感じています。


十日町市が消滅するのを黙って見ていられない


人口減少が進み、5人に1人は後期高齢者となり、日本は超高齢化社会がどんどん進んでいます。あんしんの活動拠点である十日町市は、2050年には消滅する自治体と言われています。消滅という言葉にものすごい衝撃を受け、このまま何もしないで見ているわけにはいかないと思いました。そのためにも、「にもプロジェクト」に挑戦したいと考えています。

にもプロジェクトには大きく分けて3つの取り組みがあります。1つ目がふるさと納税の財源を活用した「あんしんチケット」です。あんしんチケットを活用して、福祉事業所を応援してくれるような飲食店や事業所を応援できる、地域に還元していけるしくみができたらと思っています。

2つ目は「帰る旅」です。旅は基本的に目的地に1回行けば終わりのイメージがありますが、「おかえりなさい」と言える関係性を育みたいという思いが、帰る旅にはあります。その先には「移住」という目標がありますが、まずは十日町市に興味を持ってもらい、少しずつ関係人口を増やしていきたいと考えています。

3つ目はマッチング支援です。障がいのある方たちはこれまで、世間から邪魔者みたいな存在として扱われ、地域から切り離されていた歴史があります。ですが、障がいのある方も仕事の担い手になりえます。企業が求める障がい者雇用にうまく乗っかることができない方もいます。その方たちに部分的な作業や人が大量に必要なタイミングで活躍してもらえる機会をつくるマッチングができたら、障がいのある方たちが輝いて働ける環境ができるはずです。

このプロジェクトに取り組むのは、地域の維持にチャレンジしないと、みんなが十日町市でずっと暮らしていくことができないからです。にもプロジェクトの挑戦に、ぜひご参加いただけるとうれしいです。


取材者の感想


久保田さんがあんしんに入ってから、あんしんは3倍ぐらいの事業規模になりました。それだけ邁進してこられたのは、久保田さんのご家族の存在も大きかったのかもしれません。久保田さんのパートナーが次女を妊娠されていた際、病院で「障がいがある可能性があります」という話をされ、子どもを生むかどうかを確認されたことがあったそうです。

『あんしんで障がい者の事業をしていて、たとえ障がいがある子が生まれても育てられる自信があったし、障がいがあっても大丈夫な社会をつくっていきたいと強く思った』と、お話されていたのが印象に残っています。(長谷川)


久保田学さん:プロフィール


NPO法人支援センターあんしん 常任理事・事務局長

2005年、新潟青陵大学卒業。卒業後に新潟県厚生連中条第二病院に就職。精神保健福祉士として相談室で勤務しつつ、福祉ホームB型の立ち上げを行い、開所後に移動し、のちに管理者となる。

09年、結婚を機に、妻の父親が立ち上げたNPO法人支援センターあんしんの理事に就任。

15年、新潟県厚生連を退職し、支援センターあんしんのグループホーム管理者として勤務。就労継続支援B型事業所2か所の管理者を経て、現在は経営サポート部において、常任理事兼事務局長として勤務している。

22年に同地域で精神障がい者の支援を主に行っているNPO法人ハートケアぼちぼちの副理事長に就任。23年からは、新潟県の農福連携コーディネーターとして、地域の農家と事業所を繋げる活動に注力している。その他、北里大学保健衛生専門学院の非常勤講師や発達障がいの当事者会riccaの事務局も担っている。

座右の銘は「頼まれごとは試されごと」。




NPO法人支援センターあんしんは、凸と凹「マンスリーサポートプログラム」の登録先です。