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ケルト神話とは

2024.12.26 05:07


https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5013 【ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話 ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群】より

鎌田東二鎌田東二京都大学名誉教授

概要・テキスト

ケルト神話とは何か。ケルトという地域は広範囲にわたっており、一般的にアイルランドを中心にした「島のケルト」と、フランスやスペインの西北部などに広がった「大陸のケルト」があるが、神話が濃厚に残っているのはアイルランドという。そのケルト神話にはダーナ神族の神話、アルスター神話、フィアナ神話という3つの神話群があるが、それらはどのようにして形成されていったのか。今回はケルト神話の特徴について、ギリシア神話やメソポタミア神話などと比較しながら解説する。(全3話中1話)

※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)

神話 ケルト神話 アイルランド 物語 記録 キリスト教

≪全文≫

●「島のケルト」と「大陸のケルト」、伝承の最終地点はアイルランド

―― 皆さま、こんにちは。

鎌田 こんにちは。

―― 本日は鎌田東二先生に、ケルト神話についてお話をうかがいたいと思います。先生、どうぞよろしくお願いをいたします。

鎌田 よろしくお願いします。

―― ケルト神話というと、おそらく多くの方が聞いたことはあると思うのですが、地域的にはどのあたりの神話と考えればよいのでしょうか。

鎌田 ケルトという地域はかなり広範囲にわたっています。一般的には「島のケルト」と「大陸のケルト」といわれてきました。島のケルトはアイルランドが中心で、イギリスのウェールズ地方、南部のコーンウォール地方、北部のスコットランド地方など、イギリスの一部も含まれます。

 それに対して、大陸のケルトはフランスの一部、特に西北部、そしてスペインの西北部に広がっています。このあたりでは「スペインケルト」や「フランスケルト」と呼ばれています。

 もともとはオーストリアやヨーロッパの中部から東欧に近いところで発祥し、移動してきたとされています。その最終地点がアイルランドですね。ですから、そうしたものを相当含み持ちながら、最終的にはアイルランドで伝承されていった。濃厚に残っているのがアイルランドなのです。

●ケルト神話には大きく3つの神話群がある

―― それでは、先生、ケルト神話の総括的なあらすじや、その特徴についてお伺いできますか。

鎌田 いろいろな伝承テキストやフォークロア的な採話があるため、はっきりしたことをいうのは難しいのですが、その上で簡単にいうと、大きく3つの神話群があると総括できます。

 まずダーナ神族(の神話)、次にアルスター神話の大きな流れ、そしてフィアナ神話というものです。歴史的な見方をすると、これらはアイルランドに移住してきた人たちの第1世代、第2世代、第3世代の神話体系が、それぞれの群として残っているというふうにも理解できます。

 ですから、ケルト神話というときに、それは本当にケルト族が伝承してきた物語なのか、あるいはそれ以前からいた土着の人々が持っていた神話が新しく入ったケルト族の神話に取り込まれたものなのか。例えば、メソポタミア神話がユダヤ神話に取り込まれたように、アイルランドやイギリス、ブリテン島に伝わっ...



https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5014 【小さな神々と精霊…ケルト神話と日本神話の不思議な共通性 ケルト神話の基本を知る(2)精霊信仰的な多神教】より

概要・テキスト

ケルト神話はさまざまな伝承を寄せ集めて再構成されたものなので、世界の始まりや人間の起源について分かっていないことも多い。では神についてはどうだろうか。宗教学的分類でいうと多神教で、アニミズム的要素を持っている神話の伝承群だという。そこで今回は、ギリシア神話や日本神話と比較しながら、ケルト神話の輪郭として英雄クー・ホリンの物語、フィアナ騎士団の話、オシーンの物語について解説し、日本とのつながりを考える。(全3話中2話)

≪全文≫

●人間の始まりも世界の始まりもはっきりしないケルト神話

―― そのような中で、人間の始まりはどのように描かれるのでしょうか。

鎌田 そこは先ほど言ったように、いわゆる天地創造神話みたいなものがはっきりとしません。なので、人間の始まりというのも、そういう意味でケルト神話の場合にははっきりとしません。

 日本神話の場合だと、イザナギ・イザナミの国産み神話というものがあります。高天原が原始の混沌のようなところからできてきたとか、天地開闢と神々の立ち現れと、その神々の子孫である人間の世界とか、人間が住むところの葦原の中つ国の国土が大八洲国(オオヤシマノクニ)としてできたとか、明確なつながりが非常にわかりやすく『古事記』や『日本書紀』に描かれています。だから、『日本書紀』を基準にして考えると、とても分かりやすいのです。

 ところが、ケルト神話の場合は断片的な伝承の寄せ集めをして、再構築をしなければいけません。そのため、人間の始まりもよく分からないし、世界の始まりもよく分からない。つまり、欠損部分を含んでいる。神話がもともとあったと思われますけれど、そのもともとあったものが全部拾われて、全部体系的に伝承されているわけではないのです。その非常に偏った一部分の神話を集めてきて、その中にあるケルト神話としてわれわれが再構成している。そのようなものですから、そんなに簡単に、日本神話のように『古事記』に基づいてこう言えるというものとは違う。ですから、なかなかそこのところは明確にはいえないということになります。

●ケルト神話は多神教神話でアニミズム的要素を持っている

―― そうしますと、神様の種類も比較的に明確ではないのですか。

鎌田 神様は、もちろん宗教学的分類でいえば多神教ということになります。ギリシア、メソポタミア、エジプト、中国、インド、日本も含めて、多神教です。そういう意味では、ユダヤのヘブライ神話の中にあるものが明確な一神教の体系で特異なもので、それ以外はほぼ多神教的な神話や物語なのです。

 そういう点では、多神教神話が多数派で、ユダヤのほうが少数派になります。

 けれども、その多神教にも大きな特色があります。神々は不死であるとか、あるいは不死でないとか、神々も殺戮されて死んでしまうといった話は例えば北欧神話に...


https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5015 【「悲しみのディアドラ」と死後の世界ティル・ナ・ノーグ ケルト神話の基本を知る(3)悲哀の物語と死後の世界】より

概要・テキスト

同じ島国で発達してきたケルト神話と日本神話。その地理的特徴から、物語の悲哀、悲劇、もの悲しさという共通点が表われてくる。それは、はるか海のかなたに存在する死後の世界にも通じるものがある。それぞれの神話では一体何を語られているのか。ケルト神話における死後の世界ティル・ナ・ノーグについて解説しながら、「もののあはれ」や『平家物語』の無常観を通して日本神話の共通点を見いだす。(全3話中3話)

≪全文≫

●ケルト神話と日本神話の共通点(1)島国という地理的特徴

―― 地理的には北欧にも近いともいえますが、北欧神話と何か共通性があるのでしょうか。

鎌田 北欧神話との共通性は、神々の闘争といいますか、そこは非常に共通しています。ダイナミックに神々が相争い、戦いを繰り返す。その神々の戦いの物語という点では、いろいろな政権交代の話があるという点で共通しています。

 しかし、それは世界中にある神話の一つのパターンでもあるので、そういう意味で特性があるとまでいえるかどうかは別ですね。

 では、どこに特性があるかというと、私の観点では、「悲劇的な側面」といいますか「悲哀観」で、アイルランドにも日本にも結構共通する、神話の中の悲哀観というものがあると思います。

 ギリシア神話は、話自体がかなり明朗闊達な感じがあります。しんみりしたりエレジーのようになっていったりする要素は少なく、神々の活動は非常にドラマチックにドライに展開していく。

 けれど、前回お話しした浦島太郎につながる話は、うら悲しさ、もの悲しさを含み持っているわけです。そういった、うら悲しさ、もの悲しさが生まれてくる要素、条件は何かを考えていくと、これはやはり地理的特性が大きいのではないかと思います。

 このケルト神話群と日本神話群を比べると、やはり地域特性の共通性が見られると思いますが、日本とアイルランドの地域特性は、川上さんから見るとどういうところにあると思われますか。

―― やはり島国といいますか。大陸に対する島国というところにもなってくると思いますし、閉じられた世界の中で、先ほど先生がお話された、汎神論的とはいいませんが、いろいろな神様が存在しているという部分は残りやすかったのかなという気がします。

鎌田 先ほど悲哀観ということを言いましたが、ケルト神話と日本神話の大きな特徴は、やはり大陸ではないということですね、どう考えても。大陸ではないということは、海に面しているということになりますよね。本当に大陸のど真ん中、中原のような地域だと、海という発想はない。河は重要な要素としてあったとしても、海はないからです。

 でも、日本は四方が海に囲まれています。もちろんアイルランドも丸っこいから、四方八方が海です。海の彼方には、東のほうを見ればイギリス、ブリテン島があるけれど、西のほうを見れば、島はな...