クリストファー・ウィールドン「不思議の国のアリス」英国ロイヤル・バレエ団(映画館上映)
「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2017/18」の上映作品。もともとは、2017年にロンドンの劇場から世界の映画館に同時生中継した映像で、それを編集してまとめたもの。
解説+インタビューも交えて、第一幕、第二幕、第三幕を上映。途中休憩10分ずつを2回含めて、上映時間は3時間13分。
TOHOシネマズ日本橋は、映画館のわりに重厚な雰囲気があるので、実際に劇場に来たような感覚を味わえる気がする。
【振付】クリストファー・ウィールドン
【音楽】ジョビー・タルボット
【指揮】クン・ケセルス
【出演】ローレン・カスバートソン(アリス)
フェデリコ・ボネッリ (ハートのジャック)
ジェームズ・ヘイ(ルイス・キャロル/白ウサギ) *エドワード・ワトソンから変更
ラウラ・モレーラ(ママ/ハートの女王) *ゼナイダ・ヤノウスキーから変更
スティーヴン・マックレー(マジシャン/マッドハッター)
本作品は、オリジナルは英国ロイヤル・バレエで、2011年初演。その後、他国でも現地のバレエ団が上演しています。2017年9月にオーストラリア・バレエ団がメルボルンで上映、日本では2018年11月に新国立劇場で上演。
おなじみ、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を基に、少女アリスが夢の中で、現実とのつながりを思わせる奇想天外なキャラクターたちに出会うという、バレエ「くるみ割り人形」や、「オズの魔法使い」を思わせる構成の、大人も子どもも楽しめるバレエ作品。
アリスはガーデンパーティーの日、庭師の青年ジャックにタルトを内緒であげる。アリスの母は、彼が盗んだと思い込んで、彼を追い出してしまう。悲しむアリスは、友人ルイス・キャロルが白いウサギに変身するのを目撃し、彼の後を追って穴の中へ。
穴の底の不思議な世界で出会ったのは、トランプのハートのジャックや、残酷なハートの女王、クレイジーな帽子屋のマッドハッター、奇妙な侯爵夫人など。
最後のオチにも要注目のストーリー展開だ。
こんなに笑いがところどころに起こるバレエは初めてかもしれない。
原作をうまくアレンジしている。グロテスクでもあるところがイギリス的?性的なものを感じさせるところもあり、隠し味になっている。
振付はもちろん、音楽もすべてオリジナル。打楽器が多用されているらしい。ダンスは、クラシックバレエだけでなく、タップやモダンな動きも取り入れている。
多くの登場人物たちに見せ場が用意されており、その分、トップダンサーたちを一度にたくさん堪能することができる。バレエ団の力量も示せるレパートリー。
ダンサーたちには高い演技力も要求され、全体として演劇的でもある。従って、バレエを敬遠しがちな人も、思い切って見てみたら楽しめるかも。
舞台美術も革新的。映像と大道具を組み合わせ、「不思議の国」を表現している。なにしろ、アリスは縮んだり大きくなったりするし、涙の湖でおぼれたりもする。それを、装置と振付で巧みに表現しているのだ。
アリスを箱に閉じ込めて、天井まで頭が届く身長になってしまったことを表現したり、何層にもした波間にダンサーたちの頭や腕をのぞかせて、アリスはバレエの白鳥の腕の動きをして、泳いでいることを表す。
客席にダンサーが現れ、客席全体が、アリスが小さなドアからのぞく世界に「なる」演出には、驚かされた。まるでサプライズプレゼントみたい。
衣装もすてきで、ダンサーが前に上半身を倒してお辞儀の格好をすると、チュチュ(スカート)が、トランプのハートなどの形に見えたりする工夫も。
アリスはほぼ出ずっぱり。ダンサーのスタミナは計り知れない。
伝統的なパ・ド・ドゥにも、アリスを象徴する動きが繰り返されたりと、見どころが多い。
マッドハッターのタップとバレエが融合したダンスは圧巻。
うっとりし、感嘆し、驚き、笑い、満足する―舞台の喜びが詰まったバレエだ。