フリーランス仕事辞典 #2 倉林実央
フリーランスで活動する様々な職業の女性に取材を行い、辞典としてまとめていく本企画。仕事内容、受注の仕方、キャリアの積み方など踏み込んだ質問の回答から浮き彫りになるのは、それぞれの仕事哲学や『自分らしい』生き方働き方。
第二回目はLander制作映画『ハイヒール〜こだわりが生んだおとぎ話』のPRも協力いただいた倉林実央さん。気負いなくフリーランスに転身するも、途絶えず仕事の依頼が舞い込む倉林さんに、フリーランスとしての仕事の心得を学びます。
◆Profile◆
倉林実央/フリーランスPR/40代
拠点:東京
Q1:仕事内容を教えてください。
「映画のPR(パブリシティおよび宣伝に関するイベント発案・実施業務)全般。」
Q2:仕事の依頼はどのように来ますか?
「配給会社の宣伝部から電話やメールで、作品内容と公開時期が決まったものの打診があります。」
Q3:依頼が来たら、どのように仕事をすすめますか?流れを教えてください。
「宣伝業務を受けるにあたって周囲に迷惑をかけず生活が成り立つ目安として、ひと月あたり1本公開作があるのがベストなので、その期間が空いていればお受けする、というかたちにしています。その後、宣伝プロデューサー(私が兼任する場合もありますが、基本的には宣伝プロデューサーは配給会社の人が担当します)と宣伝方向などの打ち合わせをし、コンセプトに沿った邦題や宣伝文句を考えて宣材(チラシ、プレス、予告編、その他映像素材など)を作ります。マスコミ試写やイベントなどの日程を決め、紹介してくださる媒体の方(編集者、ライター、テレビやラジオ局の映画紹介番組担当者)に観てもらい、素材などの手配をします。だいたい公開前後の発売日・オンエア日に紹介してもらったことを確認し、配給会社に報告します。」
Q4:フリーランス転身前はどのような仕事を?
「広告制作会社の制作部で6年、映画配給もやっている宣伝会社で1年弱宣伝の仕事をしていました。」
Q5:なぜフリーランスになる決意を?
「フリーランスになろうと思っていたわけではなく、宣伝会社を辞めてその後をどうするかのんびりと考えようと思っていたら、配給会社からお声がけいただき、それがいまだに続いている、という感じです。」
Q6:会社員からフリーランスになって、最も変化したのはどんな事?
「全部自分の責任でやるということ、上司がいないので自分で学ぶしかないということ。ただそれは会社員であったときからあまり意識していなかったことなので、「会社の一員としてあるべきこと」がなくなったことで、気持ちがすごく自由になれたと思います。」
Q7:映画PRとして、やりがいを感じるのはどんな時?
「配給会社から依頼をいただいたときに、自分の好みドンピシャの作品だったとき、またデータだけだと判断できなくても、見てすごく好きだなと思った作品だったときがすごく嬉しいです。最近だと『ロスト・バケーション』『ルイの9番目の人生』『天国でまた会おう』など。それがヒットすればさらに嬉しいですけど、それは作品の力なので、宣伝の方向性を間違えなければ大丈夫です。そうじゃない方向に行きそうな場合に軌道修正するのが私の仕事だと思っています。また、今年1月公開の『天才作家の妻 -40年目の真実-』は、初めての担当作のゴールデン・グローブ賞受賞だったので、グレン・クローズの主演女優賞スピーチをリアルタイムで聞いて、一緒に涙ぐんでしまいました。今年最初の、かなりホットな嬉しかった出来事です。」
Q8:逆に、最も苦労する事は?
「たとえ内容が素晴らしくても、宣伝予算がなかったり、派手なキャストや受賞歴もなかったり、無名の監督や俳優だったり、内容が伝わりづらかったりで一般の人に広く知られることがない作品がたくさんあります。そういう作品たちにいかに興味を持ってもらえるかを考え、チラシや予告編を作るのですが、いい素材がなかったり使いたい映像が使えなかったりする場合もあって、それで苦労することはあります。」
Q9:チラシ・予告編を作る時にPRとして心がけていることとは?
「海外と日本の観客が重視するポイントが違うことがあるので、ニーズに合わせて変えています。海外のチラシは素敵なものもたくさんあるのですが、海外では著名なキャストでも日本では全然だったり、どんな映画かわかりづらかったりします。デザインはそのまま、タイトルやクレジットを日本語にして使うことももちろんあります。予告編は、チラシと同じ理由に加え、劇場でかけてもらわないことには始まらないので、劇場でかけられる秒数というのが決まっているため、それに合わせる、という必要もあって作り直すことが多いです。ただ、それも予算次第では海外のものをそのまま(英語テロップ部分を日本語に変えて)使うこともあります。」
Q10:フリーランスに転身してから、仕事でおかした大失敗は?
「宣伝マンとしてPRのためラジオに出演したときに、収録時間に大遅刻してしまったことが大失態です。先方のラジオ局の方達には本当にご迷惑をおかけしました…。以来、遅刻しないように心がけるあまり、当日の朝遅刻する夢をよく見るようになりました(笑)。」
Q11:仕事をする上でもっとも大切にしていることは?
「電話やメールなどの連絡にはなるべく早く対応するようにしています。あとは、配給会社の決めた宣伝文句だけでなく、自分個人の言葉で話すようにしています。そのほうが誠意と映画への気持ちが伝わると思っているので。」
Q12:映画PRを続けていくのに必要なことは?
「世の中を知ることですね。さまざまなジャンルの映画の仕事をいただくので、その都度テーマについて勉強するのですが、知らないことが多いことを日々実感しています。あとは、精神的なものですが、映画を嫌いになるような仕事を引き受けないこと。」
Q13:フリーランスとして生きていくために、必要な心構えとは?
「あまり深刻に考えすぎないこと、なるようになる、と考えること。」
Q14:倉林さんにとって『自分らしい』働き方・生き方とは?
「人に優しくできる心の広さを保てていれば、それが理想の働き方かなと思います。自分らしい生き方というのはまだ具体的に見えていませんね。」
Q15:フリーランス映画PRとして、今後のキャリアプランは?
「同業者と一緒に業界を盛り上げて、映画を見る人口をもっと増やして、小学生から字幕で洋画を見る習慣をつけさせるくらいにすることが展望なので、私がやっていることがそれに直接つながるといいなと思っています。」
Q16:あなたのモットー(座右の銘のようなもの)は?
「『こうなりたい』『こうありたい』という希望や理想は、ぼんやりとでも、常に持ち続けること。」
《編集後記》
私が製作総指揮をした映画『ハイヒール』のPRで、やっぱりプロの手を借りなければ!最後の駆け込み寺でお世話になった倉林さん。メールの返信が早くていつも驚きます。気負いなく飄々とお仕事されているような雰囲気でありながらも、責任感が凄いなと節々で感じていました。仕事の依頼が途絶えない人というのはやっぱり日々の丁寧な積み重ねや、向上心を持ち続けるマインドが備わっているんですね。(by Mutsumi from LA)
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