岩渕貞太 身体地図「残光|曙光」北千住 BUoY
岩渕貞太が振付し自身が出演する男性独舞「残光」と、岩渕貞太が振付し若手の女性ダンサー10人が出演する女性群舞「曙光」を上演。
北千住 BUoYの地下1階、元銭湯だった場所をそのまま生かした空間が舞台。劇場というよりは「空間」と呼ぶのがふさわしく、公演によって空間の使い方はさまざまだ。今回は、浴槽などが残る場所を除く、三方に座席を配置。中央に大きな柱が2本あるため、公演前に配布されたアンケートには、「見えにくいときがあったら、見えやすい位置に移動してください」ということが書いてあった。
ドアを入ると、岩渕がいて、体の感覚を確かめるように動いたり、知り合いの観客に軽い会釈であいさつしたりしていた。隅には照明と音響と見られる機材とスタッフがいる。私が訪れた回は満席で、立ち見もいた。開始の少し前、出演する女性ダンサーたちと思われる人たちが、座席の背後の壁際に立った。
音楽が消えて、おもむろに岩渕が踊り出す。その瞬間の空気のつくり方が独特。柔らかい空気か光を薄く体にまとっているように見える。
舞踏を学んだ岩渕の踊りは、やはり舞踏を思わせた。鉤爪(かぎづめ)のように曲がる手や足、体。体をねじ曲げると通常は硬直すると思うが、岩渕の体は柔らかくリラックスしているようにも見える。
腕を上に伸ばして、上を見ながら、ロープか何かを伝うように手を動かすと、動物になったかのようだ。木から実を取っているみたい。と、なぜか「アダムとイブ」の姿が浮かぶ。床にうずくまり、体を折り曲げて小さくなっていく様子は、胎児のよう。人間ではなく、動物や植物などに変化(へんげ)していく。生物としてのいとおしさのようなものを岩渕の体に感じる。細い体だから、余計にいとおしく感じさせるのかもしれない。
上方を見る岩渕のどこかまぶしそうな表情を見て、この作品のタイトルが「残光」であることを思い出す。
冒頭では水が流れる(?)ような音が流れていたかもしれないが、その後は音楽はなく、時折、空調の音だろうか、うい~んというような音が鳴る。岩渕の大きめの息遣いや掛け声のような声が聞こえる。
奥の浴槽がある場所へ行った岩渕は、浴槽の中に「落ちた」後、浴槽の外に這い出て歩く。すると、「ガチャ」というような音がして、金属板を踏みしめていた。金属板をめくったり曲げたりすると、光り輝く金属板の裏側が現れる。かなり大きなガチャガチャという音が出ている。
岩渕が金属板をつかみ、スカートのようにまとい、激しく揺らす。ガチャガチャという音と鈴の音のような高い音が混ざって聞こえたのだが、あれは金属板だけから聞こえた音だったのだろうか。それとも、音響で音楽も流していたのだろうか?音楽を重ねていたなら、岩渕の金属を動かす音と合わせて流したり止めたりするのは結構難しそうだ。だからやはり金属板だけの音だろうか?
金属板の使い方は、ややわざとらしいところもあったかもしれない。
岩渕が金属板の下敷きになって寝転がると、女性ダンサーの1人が動き出した。ゆっくりと移動し、岩渕が下に横たわっている金属板の上を歩く。その後、女性は金属板の上に横たわる。なんとも色っぽい構図だ(!)
女性ダンサーたちが全員登場し、ゆっくりと集合する。「曙光」が始まったようだ。互いに腕をつかんだり脚をからませたり、なまめかしい。と思ったらこれは序の口で、その後ずっと色っぽく、セクシーだった。
「曙光」はもともと2017年に日本女子体育大学ダンスプロデュース研究会に委託されて、17人の学生たちに振り付けた作品だそうだ。今回の公演に出演した女性ダンサーの中には学生もいるが、2017年当時、大学生たちも今回と同じくらいの色っぽさで踊ったのだろうか。でも、色っぽさには年齢はあまり関係ないことも多々ある。
激しい音楽が鳴り出したときに(?)岩渕は退場し、壁際で立ち見。女性たちは空間全体に広がり、激しく痙攣(けいれん)し始めた。時折声を出す。
おそらく細かい動きは岩渕が全て指定したのではなく、ダンサーがそれぞれ自分で動いている即興の部分があるのだろう。パンフレットに岩渕が書いていた「振付家の命令として踊るダンサーの集団になるのではなく、各々がその場その時に生き、自らの意思で選択し踊るよう。」とは、このことを指しているのだろう。
音楽がやんで、ゆっくりとした動きになる。「曙光」では、ダンサーたちの声も印象的だった。時折漏れる「うえっ」というような声は、ニワトリの鳴き声のようだと思い、「曙」だからか!と勝手に納得した。その後の全員による甲高い声は、オーロラのきらめきのよう。水の精の歌声のように聞こえる。声の響き方が激しい。元銭湯だった場所だからだろうか。
ダンサーたちが客席の近くで踊るさまは、本当にセクシーで、ドキドキしてしまった(笑)。表情や首に流れる汗も色っぽい。体をじっくり鑑賞されるダンサーという仕事はなかなか大変だと思い、感謝の気持ちがわいてきた。
最後、照明がセピア色になり、非常に美しかった。日が昇り終えて、彼女たちが落ち着きを取り戻したようだ。動きながら収束していき、暗転。
岩渕の植物のようにアメーバのようになった身体と、女性たちのダンスと真摯に向き合った生々しい身体を堪能できる公演だった。ただ、「曙光」は色気が少し前面に出過ぎていて、そこにやや戸惑いを感じて、踊りの他の側面に十分に集中できなかったかもしれない。しかし、意識を持っていかれるほど強烈ななまめかしさを醸し出すダンスもまた喜ばしい。
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男性独舞「残光」 [振付・出演] 岩渕貞太
女性群舞「曙光」 [振付・演出] 岩渕貞太 [補佐] 入手杏奈 [出演] 入手杏奈 小笠原美優 金森温代 金愛珠 志筑瑞希 高沢李子 中川絢音 真壁遥 宮脇有紀 涌田悠
2019年
1月24日木曜 19:30開演
1月25日金曜 19:30開演
1月26日土曜 15:00開演
1月27日日曜 15:00開演
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※上記画像は下記サイトより。