涅槃図の絵解き⑤
難陀龍王(なんだりゅうおう)
難陀龍王は天龍八部衆の一人で八大龍王の筆頭です。画面の中央よりやや下、宝台の右下に描かれています。
天龍八部衆は仏法を守護するインドの鬼神です。
龍は多く水中に住し雲を呼び雨を降らせます。中国では神獣として皇帝の権力の象徴とされます。西洋のドラゴンは羽根をもち、悪者として説話に登場しますが、東洋では善神であり、羽根が無くとも天空を飛翔することができます。
龍は、そもそも水と深い関係があり、水の恵みをもたらす神として崇拝されています。そのことから、八大龍王は日本では主に雨乞の神として崇められ、中でも娑羯羅(しゃから)龍王が雨乞の神として特別に取り上げられることが多いようです。
純陀(ちゅんだ)長者
純陀はお釈迦様に最後の食事を供養した人です。画面の右、宝台の右側に描かれています。
純陀は鍛冶屋の子で、お釈迦様の説法を聞き発心し、心づくしの料理を振舞いました。その料理は「茸(きのこ)」であったといいますが、一説には「豚肉」であったとも「米八石」であったともいいます。
さて、その後純陀の家を出発されたお釈迦様はやがて「背が痛むので、床を敷いてほしい」と言われお休みになりました。この時のお釈迦様と阿難尊者との会話がとても興味深いのでご紹介します。
阿難尊者
「純陀はせっかく朝食を供養しましたが、その功徳はないと思います。なぜなら、それが原因で世尊がこの世で最期の食事となり、涅槃に至らんとしておられるからです。」
お釈迦様
「そう言ってはならない。今、純陀は供養によって大利を得、寿命を得、死後は天に生まれるであろう。その理由は、仏が成道の時に初めて食事を供養した者と、仏の滅度に臨んでよく食を施した者は正に等しく、その功徳の異なることはない。汝は今、純陀のもとに行き、そのように伝えよ。」
お釈迦様は、周囲から純陀が批難されることを配慮して、その供養を最上の供養であると述べられたのです。
速疾鬼(そくしっき)
速疾鬼は別名「捷疾鬼(しょうしっき)」とも言い羅刹のことです。画面の中央右端に描かれています。
『慧琳音義』よると
「悪鬼といい、人の血肉を食らい、空を飛び、地を行き捷疾にして畏るべきなり」
「暴悪鬼にして男は極めて醜く、女は甚だ姝美なり」
仏教が広く伝播した後は、仏法を守護する鬼神と考えられ、夜叉とともに四天王の一尊である多聞天(毘沙門天)の眷属として位置付けられています。
<参考文献>
WEB版新纂浄土宗大辞典
WEB版 絵解き涅槃図 - 臨黄ネット
『よくわかる絵解き涅槃図』 竹林史博著 青山社
心行寺の涅槃図は縦270センチ×横160センチの絹地に肉筆で描かれた巨大な涅槃図です。軸心に延宝七年二月十二日(1679)十一世弁誉保残和尚代に、「芝・田町・札乃辻・表具師庄兵衛」と記録があります。