涅槃図の絵解き⑥
阿修羅(あしゅら)
阿修羅は三面六臂の姿をした仏法の守護神で、八部衆の一尊です。画面中央のやや上、沙羅双樹の間でお釈迦様を見つめるように描かれています。
サンスクリットの「アースラ」(asura)が原語で、もとはインドの古代神話に出てくる神であり、戦闘を司ります。身体は赤色、または青黒色で、怒髪天を突き、裸で忿怒の形相をしています。
古代インドの聖典『リグ・ヴェーダ』では、「最勝なる性愛」という意味ももっていました。しかし、アスラの娘を強引に奪った力の神・インドラ(帝釈天)に激しい怒りを抱き、戦闘を挑んでそれが大規模な戦争へと発展。結局敗北するが戦争は何度も行われたと、古代インド神話は伝えています。
日本では、奈良興福寺の八部衆阿修羅像(国宝)や京都三十三間堂の二十八部衆阿修羅像(国宝)が特に有名です。
緊那羅(きんなら)
緊那羅は仏法の守護神で八部衆の一尊です。画面の中央よりやや左上、沙羅双樹の間に描かれています。
美しい歌声を持ち、音楽や歌舞をもって帝釈天に仕えるといいます。ヒマラヤ山中に住むとされ、人とも言えず人でないとも言えないという意味から「人非人」と称されます。竜や阿修羅と共に仏の説法を聴き、仏法に帰依してこれを守護する神となりました。
涅槃図中ではよく象の冠をかぶった人の姿で描かれます。
迦樓羅(かるら)
迦樓羅は仏法の守護神で八部衆の一尊です。画面中央よりやや右上、沙羅双樹の間に描かれています。
もとはインド神話の鳥神で、サンスクリット語で「ガルーダ」といいます。別名を金翅鳥(こんじちょう)ともいい、口から火を吐き、金色の翼を広げると三百万里(約1200万km)にも達するといいます。
仏教では、毒蛇から人を守り、龍や蛇を食らうように衆生の煩悩を食らう神とされ、梵天や大自在天、あるいは文殊菩薩の化身ともされます。
摩睺羅(まごら)
摩睺羅は仏法の守護神で八部衆の一尊です。画面中央より右、沙羅双樹の間に描かれています。
インド神話に出てくる蛇神で、後に仏教に取り入れられました。
「これ楽神の類なり。その形は人身にして、しかも蛇首なり」(『慧琳音義』)
「地龍という。無足腹行の神なり」(『維摩経略疏』)
涅槃図では龍か蛇の冠をかぶった姿で描かれます。
<参考文献>
WEB版新纂浄土宗大辞典
WEB版 絵解き涅槃図 - 臨黄ネット
『よくわかる絵解き涅槃図』 竹林史博著 青山社
心行寺の涅槃図は縦270センチ×横160センチの絹地に肉筆で描かれた巨大な涅槃図です。軸心に延宝七年二月十二日(1679)十一世弁誉保残和尚代に、「芝・田町・札乃辻・表具師庄兵衛」と記録があります。