新世界紀行 エジプトの旅25 ルクソール博物館 2025.03.21 23:12 わずか5分程度だったろうか、ナイル川を渡るオンボロの公共フェリーに降り、宿のある東岸へ戻ってきた。戻って来たとはいえ、昨夜ルクソールに着いたばかりのぼくは行く先の全てが初めての場所。地図を見て現在地を把握はしているものの、さてどうしようかと考えてはいた。当初の計画なら、今日はお昼過ぎには東岸に戻って来て、ルクソール神殿、そしてルクソール博物館へ行こうと思っていたが馬車が思ったより遅くて予定が大幅に変わってしまっていたのだ。ただ、予想外にフェリーに乗って帰って来たことで、嬉しい誤算があった。予定入れていた「ルクソール博物館」がフェリー乗り場の目の前にあるのだ。残された時間的にはもう行くのを諦めていたルクソール博物館。昼間は午前9時〜14時の開館。そして、どうやら夜間入館として17時〜21時開いているらしい。そしてあと30分も待てば17時で開館となる。これはラッキーだ。ナイル川の夕焼けを見つつ、休憩していよう。 何も開発されていない田舎風景だった西岸と比べて、こちらの東岸は駅もあり、ルクソール神殿をはじめ、カルナック神殿、ルクソール博物館、ミイラ博物館など、観光名所が盛り沢山のため、近代化されている。ナイル川に沿って、トラックが通れるほどの大きな幅の綺麗な遊歩道が整備されていて、お洒落な街灯がどこまでも続いていた。初めて来た場所なので、普段の雰囲気を知る由もないのだけれど、随分と人で賑わっている。どう見ても中学生、高校生、あるいはせいぜい20歳くらいの若者を中心に家族連れもいる。そういえば、今日は12月31日、大晦日だった。カウントダウンイベントでもあるのだろう。至る所で若者がワーキャーと騒ぎ、浮かれたお祭りの雰囲気が漂っていた。ナイル川のほとりの遊歩道に座って、夕日を見ながら日本から持って来た行動食の柿ピーを食べる。ぼくにとって日常的な食べ物のそれと非現実の目の前の状況が相まって、VRゴーグルでもつけて仮想空間にでもいるような不思議な感覚になる。ペットボトルの水を飲みながらナイルの夕暮れに身を任せている時だった。どこからともなく高校生くらいの女子3人がぼくのところへやって来た。地元の子らしく、イスラムの服を頭からかぶっている子もいる。話せる英語はあまりなく会話は難しかったけれど、スマホを掲げて「ピクチャー」と言っている。加えて友達を指差している。写真を撮って欲しいのかと思えばどうやら違うようで、ぼくと一緒に写真を撮りたいらしい。海外でよくこういった経験はしてきたが一応物取りの警戒をして、周囲を伺ったが、こちらを見ているような輩はなくこれと言って危険は感じられない。1人はスマホを持って、2人はぼくの隣に座り、ナイル川をバックに写真を取る。でかいバックパックを背負ったアジア人旅行者が珍しいのだろうか。せっかくなので、ぼくも自分のカメラで撮らせてもらう。 お互いのグーグル翻訳を使って少し会話をしてみると、このあたりに住んでいるらしく、また、年末カウントダウンに向けてのイベントがルクソール神殿前の広場であるらしい、と聞くことができた。ゆっくりルクソール博物館を見た後にでも行くことができそうだ。「博物館ならこっち」女子に指差し案内され、向かった博物館。今日、見て来た遺跡群とは全く異なり、綺麗なレンガ作りの通りに、近代的な巨大な建物が建ち、その周りを3m以上はあろうかとう高さのフェンスに囲まれている。入場ゲートの向こうはこれまで見てきた荒野と砂漠のエジプトとは思えぬ、公園のような綺麗な芝生や植木があった。17時を過ぎてチケット売り場へ行くと、他にも数組の客が並んでいる。大晦日の夕方に博物館など物好きがいるもんだと、自分だけではなかったことにほっとする。手荷物検査を経て、フェンスの向こう側へ。エジプト文明のファラオの巨像が並ぶ石畳の通路をいくと、博物館の玄関。館内は日本の博物館のように広く綺麗で驚いた。エントランスにはルクソール神殿の発掘で見つかったという等身大サイズはあるファラオの像が来館者を見つめている。 現代ならともかく、このクオリティの石像が3000年以上前に作られたことに驚愕が隠せない。もし日本で「エジプト展」でもやろうものなら、大混雑は免れないだろうけど、大晦日のルクソール博物館はガラガラ。貸切のようなその状況に興奮さえする。 首都カイロにある「考古学博物館」と比べれば展示数は負けてしまうが、その分、建物が近代的であり、きちんと出土品が展示ガラスケースに入っているところが良い。 1時間以上かけて周り、博物館を出ると18時15分。Sさんはもう少し博物館を見て廻るとのことで、ここでお別れ。ナイル川に沿って大通りを歩くと、どこもかしこもお祭りムードで人に車に騒がしい。川に浮かんでいると思われる大きなレストランが煌々と光を放っている。カウントダウンのイベントでもこれからあるのだろう。 宿の方へ向かって歩いていると、車に混ざって馬車が走っていた。そしてよく見ると、ぼくの方へ手を振っている。あっ!今日、世話になった馬車だった。子供が笑顔で手を振っていた。ぼくが博物館を見ている間に東岸へ戻ってきていたようだ運転手が、ぼくの横で馬を停めて言った。「明日はどこへ行くんだ? よければ連れて行けるぞ。カルナック神殿はどうだ?」思わぬ営業をかけられ、笑みがこぼれる。実は明日は午前中にカルナック神殿へ行く予定だけど、それほど遠くないため宿から歩いて行きたいと思っている。「ありがとう。でも、明日の午後にはもう飛行機でカイロに戻るんだ。また、乗りたいけどね」馬車の親子は、笑顔を見せながら再び走り去っていった。旅をしていて、同じ旅人と出会うのももちろん楽しいことだけど、現地の人と何らかの方法でこうして接点を持つことも、旅の醍醐味だなと、深く感じるきっかけとなった。