lal banshees、横山彰乃「ソロ・トリオ【本当は、知らない】二部作」こまばアゴラ劇場
lal banshees(ら ばんしーず)
振付・演出:横山彰乃
「海底に雪(Snow on the Seafloor)」
出演:後藤ゆう、小山衣美、水越明
「水溶媒音(Suiyoubaion)」
出演:横山彰乃
2作品のタイトルから分かるように、「水」が大きなテーマ。全体が真っ黒で、客席から見て「底」に舞台があるように見えるこまばアゴラ劇場は、このテーマにぴったりだ。
上演時間は全体で1時間半弱。
舞台で目を引くのは、壁につるされた幾つものペットボトル。水が入っていて、照明が当たるとキラキラ光る。次第に舞台が水底に見えてくる。
前半はトリオ作品「海底に雪」。
2作品とも音楽が止まることもあるが、大部分では音楽を使っている。その選曲と、振付における音の取り方が非常に巧みで、驚いた。
「海底に雪」は冒頭から引き込まれる。心(というか胸?)がわしづかみにされるとはこのことか。音への反応の仕方、体の持っていき方、テンポの良さ、ダンサーたちの互いの呼応と反発、音と勢いからの「外し」方、陽気さと不気味さ、恐怖。これらが全て魅力になっている。
ホラー映画を見ている気になる瞬間があったり、「カニ」と「クラムボン」が登場する宮沢賢治の童話『やまなし』を思い出したり。海底で遊んで、平穏が荒らされて(タイトルからすると「雪」が降った?でも海底にいるものにとってはたとえ単に雪だったとしてももっと大ごとだったようだ)、互いの関係性がちょっと狂う。
電気に打たれたように痙攣したり、ゾンビのような手つきをしたり、ちょっと攻撃し合ったり。心穏やかではいられないざわめき感。クセになりそう。横山彰乃さんの振付の動きも、なんか「うつり」そう(インフルエンザみたいに)。そして、それがだんだん快感になってきたりして。
両手を体の前から脚の間に挟んで、後ろから手の先がのぞくようにし、飛び跳ねる姿は、カエル?それともカニ?それとも・・・?後半の「水溶媒音」でも、この動きが用いられていた。
横山彰乃さんはプロフィールによると幼いころから「モダンダンス」をしていたらしい。あの吸い付くような動き、流れるような動きは、「リリース」テクニックみたいな感じがしたが、その辺のことは私はよく知らないので確かなことは分からない。
2作品目の「水溶媒音」は、1作目のトリオのダンサーの1人と横山さんが少し絡んでから、トリオのダンサーが去って、横山さん1人になって本格的に始まった。
トリオのダンサーたち、後藤ゆうさん、小山衣美さん、水越明さんも、互いにシンクロしながら、それぞれが個性的で、とてもよかったのだが、横山さんの存在感もすごい。彼女のわずかな手の動きにも目が行ってしまう、体の行方を追いかけてしまう。一見、普通の風貌なのに、オーラがある。うまく形容できない。
「水溶媒音」の作品全体の流れは、一度見ただけで「理解」できるものではなかったが、分からなくても流れに身を任せて、連れていってもらえるダンス。すごく綿密に作っているのかもしれない。
音楽と動きの呼吸がぴったり合っているのは、天性の感性なのか?こんなに音を的確につかんで、しかも時折うまく音を手離して、音を操っているように音と戯れているようにダンスをつむぐ人は、そうそういないのではないか。
分からないながらも、音楽と動きが変化していく過程には何かストーリーのような感情の揺れのようなものが感じ取れる気がする。
「水溶媒音」の最後は、ノスタルジックな音楽と照明になるのだが、ここで泣いてしまった。見たことはないけど懐かしい、もう戻れない、昔いたことのある、いつかどこかの時間と場所を思い出して。音楽が止まっても動き続ける横山さんの姿を、私は知っている、と思った。記憶の柔らかく敏感な部分に触れられたような、そっと押されたような感覚。私はかつてどこにいて、今はどこまで来てしまったんだろう?そんな思いが交錯する。
ダンスを見て、こんな感情の刺激のされ方、泣き方をしたのは初めてかもしれない。忘れかけていたとても懐かしいものに、私は出合ったのだ。横山さんのダンスから、私はそれを受け取った。
「ありがとう」という気持ちが湧いた。
本公演には「リピーター料金1000円」というチケットが用意されている。「4日間の公演なのに、2回も見ないでしょ?」と思っていたのだが、見終わったころには、「もう1回見たい気持ちが分かる」と思った。
また絶対、横山彰乃さんとlal bansheesのダンスに出合いたい。
それにしても、公演タイトルが【本当は、知らない】。真意がはなはだ気になる!
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2019年
1月31日(木)19:30開演
2月 1日(金)19:30開演
2月 2日(土)14:30開演 / 19:30開演
2月 3日(日)15:00開演
一般 前売 3,000円/当日 3,500円
学生 前売 2,500円/当日 3,000円
リピーター 1,000円(本公演2回目以降のご来場の場合のみ。要予約・半券必須)
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※下の画像は公演案内のサイトより。