新世界紀行 エジプトの旅26 夜のルクソール神殿 2025.03.26 06:26 ルクソール神殿前で何か大晦日のイベントをやっていると女子3人組から聞いていたため、向かってみることにした。巨大なナイル川に沿って歩いていると、ライトアップしている巨大な遺跡が見えてきた。 街の喧騒を背に、ふと顔を上げると、黒い夜空に照らされた巨大な遺跡が姿を現した。これが、あの……。念のためポケットからスマートフォンを取り出し、地図を確認する。「ルクソール神殿」と表示される。わかっていたはずなのに、胸がざわついた。光に浮かび上がる遺跡は、神々しさを超えて、異世界そのものだった。ふと目を凝らすと、神殿の中に人がいる。どうやら夜のライトアップ営業をしているようだ。なんという偶然。いや、必然だろうか。昼間は諦めていたルクソール神殿に、今、入ることができる。入り口がどこにあるのか、そんなことはわからない。ただ、向かうだけだ。広場へ回り込むと、仮設のステージが組まれ、人々が群がっている。子供の笑い声、大人の談笑、賑やかだ。その隙間を縫うように進むと、チケットカウンターと入場口が見えた。そのとき、チケットカウンターの道向かいに小さな商店ががあることに気付いた。ガラスの冷蔵庫に並ぶ飲み物が光を反射している。今日は朝から500mlの水しか飲んでいないため、喉が乾いていた。道路を渡ろうとした瞬間、商店の前に立つ男性に目が留まった。見覚えがある。昨日の早朝、宿からミニバスでアブシンベル神殿へ向かったときの日本人男性だ。ルクソールまで鉄道で行くと言っていた。まさか、こんな場所で再会するとは。するとその男性の前に、自転車に乗った物売りがやって来た。発光するおもちゃを押し付けるように差し出している。「そんなもの、いらないよ」と一言で済ませばいいのに、彼は断れず、手に持たされてしまった。助けるか。車の流れが途切れたタイミングで道路を渡り、彼のの横に立つ。「どうも! また会いましたね!」わざと大きな声を出して、物売りとの間に入る。「何やってんですか。こんなのいらないよ」ぼくは物売りに商品を突き返した。「ありがとうございます。断れなくて、もう買っちゃおうかと思ってた」彼が苦笑する。海外で「押しに弱い」日本人に会うたび、心配になり、助けたくなる。そんな性分なのだ。彼も同じくこの周辺の安宿に泊まっているらしい。ぼくが飲み物を買ってから神殿へ向かうと言うと、「じゃあ、一緒に行こうかな」とこぼした。意外にもチケットカウンターには列がない。すぐに購入し、神殿の正面へ。目の前にそびえる巨大な門。 ライトアップされたその姿は、昼間の遺跡とは別物だった。壮麗さを超え、神々しさを纏っている。圧倒され、歩みを進められない。観光客は多いのに、ぼくの周囲だけが静寂に包まれているようだった。高校生の頃、資料集で何度も見た光景。その憧れが、今、目の前に広がっている。まるで時間が巻き戻るように、ぼくは高校生の自分に戻っていた。遺跡を前に立ち尽くしながら、その感覚のまま、ただ、目の前の光景を焼き付ける。長い時間をかけ、ようやくここにたどり着いた。高校生の頃のあの好奇心。その一つを、ようやく満たすことができた気がした。