【コラム】菅田将暉主演ドラマ『3年A組』主題歌、なぜザ・クロマニヨンズ「生きる」に? “繋がり”を考察
リアルサウンド
2019.2.3
https://realsound.jp/2019/02/post-313982.html
「今日は大切なお知らせがあります。今から皆さんには、人質になってもらいます」
卒業まで残り10日となる日、菅田将暉演じる3年A組担任の柊一颯が、クラス全員を集めてこう言い放つ。これは現在放送中のドラマ『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系/毎週日曜よる10時半〜)を象徴する一言である。柊は、学校のスター的存在、景山澪奈(上白石萌歌)がなぜ死んだのか、その理由を導き出せたら解放すると言う。課題をクリアできなければ順番に命を奪うと脅迫され、生徒たちはお互いを疑いあい、本性がむき出しになっていくストーリーだ。『3年A組』というタイトルだけ見ると、一見学園青春ものだが、謎解きの要素もあり、ミステリードラマと言っても過言ではない。
このドラマの主題歌が、ザ・クロマニヨンズ「生きる」である。シニカルなミステリードラマに、ロックバンドのザ・クロマニヨンズが主題歌というのは、一見似合わないようにも思える。世代としても、ドラマのメインターゲット層であろう中高生と、ザ・クロマニヨンズのファン層は完全に一致しているとは言えない。
ー主題歌は制作サイドと菅田将暉のラブコールにより決定
これには裏話がある。「生きる」は実はこのドラマのために書き下ろされたものではなく、ザ・クロマニヨンズの最新アルバム『レインボーサンダー』の収録曲。これを聴いたドラマ制作サイドと、主演の菅田が熱烈なオファーをし、主題歌に決定したというのだ。菅田は主題歌決定をうけ、「また一つ夢が叶いました。しかもここぞというタイミングで。先日、ザ・クロマニヨンズさんのライブにて、この「生きる」を聴いた時、いや、体感といった方がいいでしょうか、そのエネルギー、佇まい、音、言葉は、僕がこのドラマで体現したいものそのものでした。(中略)この「生きる」が主題歌になることでドラマ内での人物と造形物の「生き様」に赤い血が頭の先から足先までびっちり通うことができます」と喜びを表現している(ザ・クロマニヨンズ、「生きる」で菅田将暉主演ドラマ『3年A組』主題歌を担当)。ドラマのテーマと主題歌「生きる」が、深いところで繋がっていることを予感させるコメントである。
ーザ・クロマニヨンズ「生きる」と3年A組を繋ぐもの
「生きる」の歌詞には、こんな一節がある。
〈見えるものだけ それさえあれば/たどり着けない答えはないぜ/ずっとここには ずっとここには/時間なんか無かった〉
同楽曲の作詞を務めたボーカルの甲本ヒロトはかつてインタビューで、「僕は死なない と思いながら死ぬんだろうな 「僕は永遠に生きます」って 今思ってる 明日も思ってる あさっても思ってる 10年後も思ってる 20年後も思ってる そして ある日死ぬんだ うん それがいいな(『SNOOZER』2002年6月号)」と語っていた。いつか死ぬという未来を考えず、“今この時を生きること”を、彼らは大切にしているのかもしれない。
ドラマの中の生徒たちは、人質といういつ死ぬかわからない状況に追い込まれている。こんな状況で人は、ありありと自分の“生”を感じ、“生”にしがみつく。当たり前にあった未来が突然閉ざされることによって、“今を生きる”ことに初めて真剣に向き合う生徒たちの10日間を描いたドラマとも言えよう。
ただ、ドラマと主題歌を結ぶ架け橋の全貌はまだ明らかになっていない。実際、シリアスな本編とは対照的に、オフショットのフォトブックのようなコミカルなエンディングに、違和感を感じる視聴者も少なくないようだ。しかし回を重ねるにつれ、殺されたと思っていたクラスメイトが生きていたり、柊が病を抱えている様子がうかがわれたりと、予想外のことが明らかになっていっている。ただの猟奇的な人間とは思えない、柊の本当の目的とは何なのか。最後には、このドラマにはこの主題歌「生きる」しかないと、しっくりくる日がくるのかもしれない。最終回までのお楽しみである。
エンディングではオンエアされていないが、「生きる」にはこんな歌詞もある。
〈いつかどこか わからないけど/なにかを好きになるかもしれない/その時まで 空っぽでもいいよ〉
『3年A組』には「過去と向き合えない奴に成長はない。空っぽなんだよ!」と柊が生徒に言い放つシーンがある。ドラマを観ながら自分の生き方を顧みた人もいるかもしれない。また、このドラマの視聴者には、好きなものがない、将来何をしていいかわからないと悩む若い世代もいるだろう。そんな人に「生きる」という曲は、まだ空っぽでも良いのだ、と息をつかせてくれる。ぜひフルで聴いてみて欲しい。