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ダンス評.com

エラ・ホチルド、湯浅永麻 etc.「Futuristic Space」横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール

2019.02.03 15:51

横浜ダンスコレクション2019 オープニング・プログラム。世界初演。


振付・演出:エラ・ホチルド(Ella Rothschild)

美術:大巻伸嗣

音楽:ゲルション・ヴァイセルフィレル(Gershon Waiserfirer)

出演:大宮大奨、笹本龍史、鈴木竜、湯浅永麻、ミハル・サイファン(Michal Sayfan)

衣装:清水千晶


黒い舞台の天井には、大巻伸嗣氏による軽やかな布のアート。風に舞い、照明の当たり具合や広がり方によって違う姿を見せる。

舞台の二面に客席が設置され、舞台と客席の距離はとても近い。

1984年イスラエル出身、バットシェバ舞踊団のオハッド・ナハリン芸術監督のもとで踊り、現在はクリスタル・バイトのカンパニー、Kidd Pivotのダンサーだというエラ・ホチルド氏による新作。

5人のダンサー、大宮大奨、笹本龍史、鈴木竜、湯浅永麻、ミハル・サイファンと共に、本公演の音楽を担当し演劇も学んだというゲルション・ヴァイセルフィレル氏も舞台に上がる。演奏し、ダンサーと一緒に動いてもいた。

冒頭、全員で動きを反復するところで、ピナ・バウシュを思い起こした。

反発、排除、疎外、弾劾、攻撃、暴力、偽りの融和、孤独、死。

他人との関係性が描かれる。誰が仲間で誰が敵か、探り合う。

圧巻だったのは、大きな黒い布が登場し、その布の下にダンサーたちが入って、湯浅永麻さんが他のダンサーの上に乗り、布から顔だけを出して立ち現れるシーン。背が通常の人の2倍ほどに見え、頭まで布で覆った姿は、ムスリム(イスラム教徒)の女性を思わせる。振付のエラ・ホチルド氏がイスラエル出身であることを思えば、ユダヤとイスラム、イスラエルとアラブの対立が浮かぶ。

得体の知れない、顔だけがのぞく、不気味なシロモノ。でも、本当にそうなのか?そう見えるだけではないのか?巨大な黒い物体は、次第にダンサーたちが布から出てきて、溶けたように小さくなり、床に転がる。

もう一つ、うなってしまったのは、イスラエル出身のダンサー、ミハル・サイファンさんを、他の4人の日本人ダンサーたちが痛めつけ、とうとう彼女は動かなくなり、目を見開いたまま硬直した後の場面。彼女をつかんでいたダンサーの1人が急に「昨日何時に寝た?」みたいなことを話し出したのだ。

その後、日本語で、寝た時間や起きた時間や朝に何を食べたか、などの雑談に興じていく4人。ミハルさんから手を離して離れていき、4人で立ち話。でも、ふと、湯浅さんが会話から外れ、別の世界へ意識が飛んだようになる。湯浅さんはもうそこに存在しない、他の3人にとっては。彼女が他のダンサーたちの前に行くが、彼らは気付かずしゃべり続けている。

ダンスを通して、自分の過去を、そして自分が体験していないことまでも、「追体験」しているような、不思議な感覚を味わった。学校のクラスで仲間外れをする・されるという非常に身近な体験から、歴史、宗教、政治、民族などが絡んだ世界の大きな対立まで感じ取ってしまうような、重なりのようなものを感じた。あれは他人ではない、自分だ、というような。

ダンスのテクニックは素晴らしく、振付、美術、音楽にも随所で意表を突かれた。

このようなコンテンポラリーダンスの新作を日本で見られて、とてもうれしい。

この公演後、横浜ダンスコレクションの別の公演を見に行ったら、その会場でたぶん湯浅永麻さんと思われる方とすれ違った(違っていたらすみません)。軽やかで、小さくて細くて、とてもかわいらしい方だった!舞台ではとても迫力があるのだが、それとのギャップに、ますます好きになりました。


※下記画像は下記サイトより。

↓湯浅永麻さんのサイト。