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ダンスwith老婆

2019.02.05 23:07

 先日のニュースで非常に興味深いニュースを目にした。

どうやら日本では、社長の高齢化が加速度的に進んでいるようだ。当然といえば当然だ。これだけ少子高齢化になると、社長も高齢化して当然だと思う。

 またそのなかでも特に高齢化が進んでいるのは、不動産業界だそうだ。

 割合で言えば、不動産業は70代の割合が22.9%、80歳以上の割合が7.7%だそうだ。つまり約3分の1の社長が70歳以上だということになる。


 現在、不動産業界は業務効率化を旗印に不動産テックが都市部を中心に盛り上がってきている。しかしながら70代以上の社長は、マックは知っていてもテックは知らないだろう。

 ボロボロの手書きの物件概要書を、そういった社長さんに渡された経験は不動産屋をやっていると誰しもある。

  我々の世代はそんな業界だと言うことを改めて認識しなければいけない。しかし逆説的にはトシをとっても、働けるという利点もある。人脈と知識とスキルがあれば、長く働けるという仕事だということは、それはそれで素晴らしいことだ。



 とはいえ、やはり高齢化された業界は辛いものがあるのも本音だ。



 随分前になるが、とある案件で、とある不動産会社の社長さんと懇親会を行った。

 従業員規模は決して大きくないが、地元の名士といった70代後半の社長さんだ。

 当時、私は30代前半。駆け出しだった。


 会食場所は、地元の料亭。

 開始時間は夕方17時開始。

 私のような若造のために料亭を取ってくれたことは、とてもありがたかったが、緊張でほとんど味は覚えていない。


 そこで行われた会話は、ほぼその地域の歴史と、政治の話(あくまで市議会とかそういうレベルの)に終始していた。なかなか、渋い会話の内容だ。しかしダンマリするわけにはいかない。話を合わせ、自分の地元の話をしたり、また最近の若者の傾向なんかをお伝えして、「近頃の若いもんは」という常套句を頂いたりして、懇親会はそれなりに盛り上がった。


 そして宴もたけなわになった頃、その社長さんが

 「もう一件行こうか?」


 あ、二次会とかあんだ。という単純な疑問と好奇心で、私は「行きましょう!」と即答した。


 「若い女の子のいるお店行こうか?」


 80手前でキャバクラ!?どんだけ元気なんだよ、と思っていたら、


 「近くに行きつけのスナックがあるから。そこの女の子達が若くて、可愛いから」


 なるほど。スナックね。そりゃキャバクラは無いよな、と思い、では、とお付き添いさせて頂くことになった。

 当然、ビジネスの席であり、私は駆け出しで、相手は地元の名士だ。大人しく、その「若い子」とチビチビ呑んでいたら良いだろうとその時は考えていた。


 お店に到着し、入店する。

 普通のスナックだ。ボックス席に座る。

 社長さんはご機嫌だ。


 「この若い彼(私)は見込みがある好青年だから、一番若い〇〇さん呼んで」


 ママのはーいという声。〇〇さーん、宜しくー、という声。

 恥ずかしながら、期待する私。




 現れたのは、65歳の老婆だった。




 自分の母親よりも上のその女性は、キラキラしたドレスを着て、私の横に座った。

 苦労と経験を表す皺々の手で水割りを作ってくれる。私は咄嗟に、いやすいません、オレ作りますよ!と言った。そうすると、彼女は私をキョトンと見つめて、そしてニッコリ笑い、「あら優しいのね」。いや優しいとかではなくて、申し訳なくて。。と言いたいが言えない。絶妙なブレンドで作られた水割りを飲みながら、私はその老婆と、本当に当たり障りのない会話をしていた。


 ちなみに、勿論、バックで流れるカラオケの曲は全て演歌だ。

 一曲もしらない。


 およそ30、40分経った頃だろうか。

 店内が急に暗くなった。そしていきなり爆音で流れるムーディーな曲。

 なんだ、なんだと焦っていると、社長さんと社長さんに付いていたホステス(推定70歳)が踊り始める。

 

 まさか、と思ったが、予感は的中した。


 「踊りましょ?」


 。。。。勿論です。


 老婆の腰に手を回し、チークダンスを踊りながら、私は思っていた。


 これは仕事なんだ。これは仕事なんだ。


 その後は、絶妙なブレンドを一気に飲み干し、記憶をなくし陽気になるという必殺技を使い、その場は凌いだ。

 

 案件はカタチにならなかった。

 

 不動産業界は変わらないといけない。

 そう思い、今日も都心では、優秀な若者が様々なサービスを考えている。


 しかし今日も地方の場末のスナックでは、誰かがチークダンスを踊っているだろう。