黄泉へゆく走り根点す梅雨茸 五島高資
https://gendai.media/articles/-/107186 【地下の世界に謎を解くカギがあった…種類の違う木々をつなぐネットワークを発見!】より
超・進化論(7)
NHKスペシャル取材班+緑慎也
NHKスペシャル「超・進化論 第1集 植物からのメッセージ ~地球を彩る驚異の世界~」は、第64回科学技術映像祭において内閣総理大臣賞(自然・くらし部門)を受賞!
生命誕生から40億年のあいだに出来上がった生き物の隠れたネットワークやスーパーパワーが、最先端科学で次々と解明されている! NHKスペシャル シリーズ「超・進化論」では、5年以上の歳月をかけて植物・昆虫・微生物を取材。そこには常識を180度くつがえすような進化の原動力があった。
書籍化された『超・進化論 生命40億年 地球のルールに迫る』で、最初に紹介するのは「植物」。
私たちの地球で陸上にいる全生物の重さを足し合わせると470ギガトンにのぼる。そのうち、私たち人間が占めるのはわずか0.01%。対して植物はなんと95%に達する。
イスラエル、ワイツマン研究所のタミル・クラインさんは、木々が地下のネットワークでつながっていることを明らかにした。さらに、なぜ、うっそうと茂る森の暗い場所で小さな幼木が育つのか? クラインさんの実験が証明したのは木々による“助け合い”の戦略だった。
連載第1回<「今、私食べられている!」植物にも動物と同じ“感覚”があった! 可視化された事実が凄すぎた!>はこちらから。
地下に広がる知られざるネットワーク
植物が他の生き物と数億年をかけて築き上げた、驚くべきもうひとつの世界が、地下に広がっている。実は、植物の8割以上が、地下で菌とつながって暮らしている。
菌とはキノコを作り出す地下の微生物。よく知られているのは、植物の根と菌類の菌糸が絡み合って、おたがいに栄養をやりとりする「菌根」と呼ばれる関係だ。
植物の根と菌類の菌糸が絡み合っている。植物と菌のあいだで栄養をやりとりする関係を「菌根」と言う。
森の地下では菌糸の大きなネットワークができて、木と木のあいだで養分がシェアされていることがわかってきた。(c)MHK
多くの植物は、水分、窒素やリンなどの栄養分を菌から受け取る一方、菌は植物が光合成により作り出す糖などの養分を受け取る。こうした関係は、植物が陸に進出を果たしたときから始まっている。植物は、この菌との共生関係のおかげで上陸に成功し、その後も植物が土から栄養分を得て生きる上で欠かせない関係になっている。
カナダ・アルバータ大学助教のジャスティン・カーストさんは、この植物と菌との共生が作り出すさらに興味深い世界を教えてくれた。1本の木が菌とつながるだけでなく、菌糸を介して森の木々同士がつながっているというのだ。
「私たちは今、森の地下で何が起こっているのかを理解し始めています。植物の根とつながる菌である菌根菌の大部分は地下にあります。そのため私たちは彼らの働きを見過ごしがちですが、足元では菌根菌が木々とネットワークを作っているのです」(カーストさん)
カーストさんらは、菌根菌とのつながりが密である木々のほうが、あまりつながりのない木々よりも活発に生長することを明らかにしている。多くの木々とつながる菌糸のネットワークは、より多くの糖の供給源を持ち、そのネットワークにつながる木は、土壌中の水分や栄養分をより効果的に得ることができる傾向があると考えられている。
「これまで私たちは、森の木々はおたがいに競争し合っているのだと考えてきました。競争が生き物にとって重要な要素であるのは間違いありませんが、同じように協調も重要な要素です。植物は孤独な存在ではないのです」(カーストさん)
地下に広がる、植物たちをつなぐ巨大なネットワーク。ワイツマン科学研究所(イスラエル)のタミル・クラインさんは2016年に『サイエンス』誌に発表した論文で、地下のネットワークによる驚きの働きを明らかにした。クラインさんによると、それはいわば植物が他者を助ける利他的行為のようだという。
実験はスイスの広大な温帯林で行われた。木々が光合成で作った養分の流れに注目するため、特殊な二酸化炭素を使って調べた。自然界に存在する通常の炭素12Cの代わりに、12Cより重い炭素13Cを持つ二酸化炭素だ。
森の中にそびえ立つ樹冠調査用の巨大なクレーンを使って、トウヒの大木の枝にチューブを巻きつけそこからその特殊な二酸化炭素を吸収させる。すると、13Cが目印となって、葉で光合成によって作られた養分がどこへ運ばれるかを追跡することができるという仕組みだ。
分析の結果は、クラインさん自身を驚かせた。トウヒの大木の葉で光合成によって作られた養分が、なんとトウヒの周りに生えていた木々から検出された。地下のネットワークを通して、木と木のあいだで養分のやりとりが行われていたのだ。
「最初は間違いかと思いました。根をより分けるときに取り違えが起きた可能性もあると考えて遺伝子解析もしましたが、やはり木から別の木へ炭素が移動していることを確認したのです」(クラインさん)
「まるでマツがカシノキを助けているようだ!」
この地下のネットワークの働きは、森の木々の成り立ちについての考え方を大きく変える可能性がある。たとえば、大木がうっそうと茂る深い森の暗い林床で、小さな幼木はどうやって生長するのか。巨木の森で新しく生まれた幼木は、そのままだと暗い日陰で数十年、数百年ものあいだ、耐え忍ばなければならない。しかし、もしかすると幼木は自分の力だけで生きているのではないかもしれない。周りの木々から養分をシェアしてもらって生きている可能性が浮かび上がってくる。
大木がうっそうと茂る森で太陽光をたっぷり受けられない小さな幼木が生長できるのは、
地下の植物の根と菌類の菌糸によるネットワークによるのかもしれない。CGイメージ。(c)NHK
クラインさんはそうした仕組みをもっと詳しく確かめるため、最近ある実験を行った。
まず土で満たした容器を3つの区画に分け、真ん中にマツ、その両端にカシノキを植える。3つの区画を分けるふたつの仕切りのひとつはプラスチックの板、もうひとつは木の根は通さないが、菌糸を通す程度の穴が無数にあるメッシュだ。これにより両端に植えられた2本のカシノキのうち、一方は真ん中のマツの根とは完全に仕切られ、もう片方は真ん中のマツと根でつながることはできないものの、菌糸を通じてはつながることができる。さらに真ん中のマツだけが光合成を行うという状況を作るため、両端のカシノキを黒い布で覆う。
地下で菌糸ネットワークを介した養分のやりとりが行われているか実験した。黒布で覆われ光合成のできない2本のカシノキ。
地中では菌糸を通すメッシュ(右)と、通さないプラスチックの板(左)で仕切られた。
6ヵ月後、菌糸とつながる右側のカシノキは元気に生きていた。(c)NHK
6ヵ月後、両端の黒布を取り去った。すると、プラスチック板で仕切られた側のカシノキは葉をすべて落とし、いかにも弱々しい姿だった。そしてもう片方のカシノキは……。
「おお、見事ですね」
クラインさんも驚くほどの元気な姿だった。メッシュで仕切られた側のカシノキは、黒い布に長く覆われ、光合成ができなかったにもかかわらず、健康を保っていたのだ。スイスで行った実験と同じように、特殊な13Cを使って真ん中のマツが光合成で作った養分の流れを調べてみると、メッシュで仕切られた側のカシノキには菌糸を通して養分が送られていることが確認された。
「衝撃の結果です。日光をたくさん浴びている木から、黒布で覆った木に炭素が与えられていました。木が別の木を助けているのです。私たちの研究の結果は、マツの木同士だけでなく、マツとカシノキのあいだでも炭素のやりとりがあることを示しています」(クラインさん)
「まるでマツがカシノキを助けているようだ!」
この地下のネットワークの働きは、森の木々の成り立ちについての考え方を大きく変える可能性がある。たとえば、大木がうっそうと茂る深い森の暗い林床で、小さな幼木はどうやって生長するのか。巨木の森で新しく生まれた幼木は、そのままだと暗い日陰で数十年、数百年ものあいだ、耐え忍ばなければならない。しかし、もしかすると幼木は自分の力だけで生きているのではないかもしれない。周りの木々から養分をシェアしてもらって生きている可能性が浮かび上がってくる。
大木がうっそうと茂る森で太陽光をたっぷり受けられない小さな幼木が生長できるのは、
地下の植物の根と菌類の菌糸によるネットワークによるのかもしれない。CGイメージ。(c)NHK
クラインさんはそうした仕組みをもっと詳しく確かめるため、最近ある実験を行った。
まず土で満たした容器を3つの区画に分け、真ん中にマツ、その両端にカシノキを植える。3つの区画を分けるふたつの仕切りのひとつはプラスチックの板、もうひとつは木の根は通さないが、菌糸を通す程度の穴が無数にあるメッシュだ。これにより両端に植えられた2本のカシノキのうち、一方は真ん中のマツの根とは完全に仕切られ、もう片方は真ん中のマツと根でつながることはできないものの、菌糸を通じてはつながることができる。さらに真ん中のマツだけが光合成を行うという状況を作るため、両端のカシノキを黒い布で覆う。
地下で菌糸ネットワークを介した養分のやりとりが行われているか実験した。黒布で覆われ光合成のできない2本のカシノキ。
地中では菌糸を通すメッシュ(右)と、通さないプラスチックの板(左)で仕切られた。
6ヵ月後、菌糸とつながる右側のカシノキは元気に生きていた。(c)NHK
6ヵ月後、両端の黒布を取り去った。すると、プラスチック板で仕切られた側のカシノキは葉をすべて落とし、いかにも弱々しい姿だった。そしてもう片方のカシノキは……。
「おお、見事ですね」
クラインさんも驚くほどの元気な姿だった。メッシュで仕切られた側のカシノキは、黒い布に長く覆われ、光合成ができなかったにもかかわらず、健康を保っていたのだ。スイスで行った実験と同じように、特殊な13Cを使って真ん中のマツが光合成で作った養分の流れを調べてみると、メッシュで仕切られた側のカシノキには菌糸を通して養分が送られていることが確認された。
「衝撃の結果です。日光をたくさん浴びている木から、黒布で覆った木に炭素が与えられていました。木が別の木を助けているのです。私たちの研究の結果は、マツの木同士だけでなく、マツとカシノキのあいだでも炭素のやりとりがあることを示しています」(クラインさん)