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かしの森公園

2025.05.29 06:39

https://academist-cf.com/journal/?p=9755 【森の未来は菌だけが知っている – 森はどのように成り立ち、遷移していくのか】より                  門脇浩明 

土のなかには、私たちがかつて想像もしなかった微生物の世界が広がっています。その目に見えない微生物たちがつくりだすネットワークは、私たちが普段目にしている地上の世界をも変えてしまう、驚くべき力を持っているのです。ここでは、その土のなかの微生物たちのはたらきを紹介します。

なぜ樹木は森を作るのか

樹木には、固まって林をつくる種類もあれば、人間が植えなければ林をつくらない種類もあります。たとえば、どこの野山でもマツ林(松林)は普通に見られますが、サクラ林やモミジ林はありません。では、林を作る樹種と作らない樹種は、一体、何がどのように違うのでしょうか。その答えは、見上げるように大きく育った樹木ではなく、そっと視線を下ろした足元で見つかるのです。

地面から数センチのところには、実生(みしょう)と呼ばれる木の赤ちゃんが生えています。その実生がぐんぐん成長して成木となり、さらに次世代の実生の定着を促進するとき、ひとつの樹種だけの林ができます。その過程のなかで、土壌環境に変化が起き、マツの下の土壌にはマツの実生の成長を助ける「共生菌」が増えます。さらに、その共生菌が次世代の育成を助け、このサイクルが繰り返されることで、マツ林ができあがるのです。

一方で、サクラの下には、共生菌と異なり寄生菌が土壌に蓄積し、その実生の成長を阻害するため、寄生菌に影響されにくいサクラ以外の実生でなければそこに定着することができません。野山でサクラが固まって生えることなく、森の中でぽつりぽつりと疎らに生えているのはそのためです。

このように、樹木はそこに存在するだけで土壌環境に影響を与え、その土壌環境の変化が、将来その場所で育つことができる樹木を決定づけるところまで影響を及ぼします。要するに、樹木は足元に蓄積する「土壌微生物」と相互作用しながら変化し、その結果、時間とともに森を構成している樹木も移り変わるのです。

秋の深まりとともに山の色が夏らしい緑から秋めいた黄色やオレンジ色に変化し、紅葉のモザイク模様ができあがるのは、土壌微生物によって豊かな樹木の多様性が守られているからである。

樹木の多様性を守り、森林の変化を促す原動力「菌根菌」

土壌にはさまざまな微生物が存在し、実生を待ち構えています。その代表格といえるのが、「菌根菌」という仲間の共生菌です。菌根菌は、根の表面付近や内部に侵入して生きる「かび」や「キノコ」の仲間です。これらの菌類は水分や土壌の栄養分を吸収して植物に与え、一方で植物は糖を菌類に与え、互いに役立つ関係を持っています。このような関係を菌根共生といいます。

菌根菌は糸のような足(菌糸)を方々に伸ばし、地面の中で網目状の構造(ネットワーク)を作っています。このネットワークにつながることは、実生の定着と成長を左右する重要な条件です。しかし、ネットワークにつながれば何でもよいというわけではありません。樹木が共生する菌根菌はいくつかの種類に分類でき、代表的なのは、サクラ、モミジ、ツバキやクスノキなどと共生する「アーバスキュラー菌根菌」、アカマツ、コナラ、シイやアカシデなどと共生する「外生菌根菌」という2つの菌根タイプに分類され、これらはそれぞれ異なるネットワークを作っています。

樹木の種類によって、同じ菌根タイプのネットワークにつながれば成長できる樹種もいれば、同じ菌根タイプであり、かつ同種の樹木のネットワークでなければ成長できない樹種、どのような菌根タイプの樹木のネットワークでも成長がそれほど変わらない樹種がいます。そうした特徴に応じ、どの樹木の種類の実生がどのような条件下で生き延びることができるのかが決まります。

アーバスキュラー菌根菌と共生する樹種と比べ、外生菌根菌と共生する樹種の方が菌糸のネットワークを広げる能力が高いため、日本の森では、アーバスキュラー菌根菌と共生する樹種よりも外生菌根菌と共生する樹種が優占しています。アーバスキュラー菌根菌はキノコを作りませんが、外生菌根菌の多くはキノコを作るため、日本の野山で多種多様なキノコが見られるのは菌根菌のはたらきのおかげともいえます。

キノコの多様性。これらのキノコを作るのはすべて外生菌根菌である。

このように、菌根菌が森林における樹木の多種共存を維持したり、樹種を置き換える遷移(樹種の移り変わり)を促進したりします。菌根菌は、樹木の多様性を守りながらも、森の変化の原動力となる大きな役割を果たしているのです。

森林から見た私たちの暮らし

近年、未曾有の自然災害が世界各地を襲っています。そうした災害から私たちの身を守ってくれるもののひとつが自然の森です。私たちの研究では、土壌に生息する微生物のはたらき(土壌微生物が原動力となる環境変化)を理解することではじめて森の成り立ちと遷移を理解できることを示しました。よって、菌根菌は、さまざまな生態系サービス(炭素の蓄積や水源の涵養、防災、食料や木材生産などの人類の利益になる生態系の機能)の重要な基盤となります。

美しい森は豊かな土壌微生物の世界に支えられている。

森をきちんと管理していくためには、森がどのようにできているのかを知ることが重要です。土壌微生物のはたらきから森を捉えるアプローチは、将来、森林を守ったり、再生させたりするうえでスタンダードになっていくかもしれません。

さらに、土壌微生物が大切となるのは、森林だけではありません。農地においても重要です。1種類の農作物だけでは豊かな土壌微生物を育むことはできません。しかし、混作をすることで、農作物の多様性が豊かな土壌微生物相を作り出すことにつながります。植物とともに豊かな土壌を育むことが、森林や農地が提供する生態系サービスを向上させ、人々の暮らしを支えることにつながるのではないかと考えています。

参考文献

Kadowaki K, Yamamoto S, Sato H, Tanabe AS, Hidaka A, Toju H “Mycorrhizal fungi mediate the direction and strength of plant-soil feedbacks differently between arbuscular mycorrhizal and ectomycorrhizal communities” Communications Biology 1:196 (2018) https://www.nature.com/articles/s42003-018-0201-9

門脇 浩明、立木 佑弥『遺伝子・多様性・循環の科学:生態学の領域融合へ』(京都大学学術出版会、2019)

Shimizu N, Tateno R, Kasai A, Mukai H, Yamashita Y “Connectivity of Hills, Humans and Oceans: Challenges of Watershed and Coastal Environments” Kyoto University Press. (2014)


https://www.bepal.net/archives/54861 【キノコの学校 第二講 “森のトイレ掃除屋さん” ナガエノスギタケのユニークすぎる生態】より

日本人が“謎”を解明したキノコ

ナガエノスギタケというキノコをご存じだろうか。“長柄の”という名がつくほど、地中深くまで柄が伸びているのが特徴だ。長いものでは、地上部と合わせると、50cmほどに達することもあるという。

まだ若いナガエノスギタケ。傘は、はじめはまんじゅう型をしているが、開くと15cm前後に達する。食用になるという人もいる。

興味深いのはその生態である。千葉県立中央博物館でキノコを研究する吹春俊光さんがこう解説する。

「ナガエノスギタケは、地中にあるモグラ類やトガリネズミ類の古いトイレの跡から発生し、別名“モグラノセッチンタケ”とも呼ばれます。モグラ類が残した排泄物を栄養分として吸収し、深い地中から地上に運び出しているのです。“森のトイレ掃除屋さん”とでもいうべき存在ですね」

ナガエノスギタケは、1700年代にヨーロッパで発見され、広く知られていたキノコだ。ところが、柄の先にトイレの跡がある事実が発見されたのは、発見から200年以上を経た、1976年のことだった。しかも、発見者は日本人なのである。

「現在、大分県在住で京都大学名誉教授の相良直彦先生がツルハシとスコップでひたすら穴を掘ってみたところ、モグラの巣を発見したのです。相良先生はその後も100例ほど根気強く穴を掘り、1978年、80年と論文にまとめて、キノコとモグラの巣の関係を明らかにしました」と、吹春さん。

博物学の先駆者であるヨーロッパ人ですら気づかなかった謎を、地道な調査で解明した日本人、お手柄である。

根元を掘ると、長~~~~い柄が出現するナガエノスギタケ。柄の先端はモグラのトイレ跡まで達する。右に見える穴は巣の本体だ。

森の中をキレイにしてくれる!

モグラは世代を超えて同じ場所に住み続ける生態がある。人間に例えると、定住に近い生活スタイルと言っていい。そのため、トイレ掃除屋さんがいなければ、巣がゴミ屋敷のように汚れてしまうのだ。

「ナガエノスギタケは栄養を独占できる一方、モグラは巣の掃除をしてもらえます。まさに共存共栄といえる良好な関係を築いているのです」

吹春さんの解説を聞くと、キノコとモグラ、両者がどのようにして出合うのか、興味がわく。モグラは地中にあるキノコのそばを好んで、巣を作るのだろうか。あるいは、キノコがモグラの巣を発見するのだろうか。

「私もわかりません。ただ、興味深い点は、ナガエノスギタケはコナラやミズナラなど、ブナ科の樹木とも共生関係を築く点です。したがって、モグラが多いはずの畑には発生しないのです。モグラはもともと森で生活する動物。森の中で暮らしながら、キノコと樹木との三者の間で、深い関係を築くようになったのでしょう」と、吹春さん。

分解が完了するとキノコは発生しなくなる。代わりに、放出された胞子が、あるいは運ばれていった菌糸が、次なる古いトイレ跡を探して長い旅に出るのだ。

キノコは自然界の中で“分解者”といわれる。すなわち、不要になった落ち葉などを分解し、土に還す働きをしている。人間社会でトイレが必要なように、森の中にもまたタヌキやキツネなどの“糞場”がある。こうした土壌を浄化するキノコは、森の環境を維持するために欠かせない存在といえよう。

環境を浄化するキノコあれこれ

動物の糞から発生するキノコは多い。ツヤマグソタケは、その名の通り馬糞を分解するキノコで、牧場などで発生しているのをよく見かける。また、焼け跡菌類といわれるヤケアトツムタケは、焚火の跡から生える。熱で微生物の環境が変化した焼け跡の土壌を、微生物がまた住めるように修復してくれるのだ。

吹春先生は、こうした働きに目を向けると、キノコがより愛おしい存在になると話す。

「人知れず森を掃除しているキノコは、本当に働き者だと思います。人間にとって猛毒のキノコでも、落ち葉を分解したり、植物と共生するなど、自然界では重要な役割を担っているのです」

キノコは森の中ではちっぽけな存在にしか見えないかもしれない。しかし、森の植物の多くは、菌類と共生する関係を築いてきたのだ。キノコがいなければ、森そのものが生きていくことができないのである。

菌類無くして、豊かな森は実現できない。ナガエノスギタケは、森の環境を整える重要な役割を担っている。

取材・文/山内貴範

監修・写真/吹春俊光(千葉県立中央博物館)