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ダンス評.com

岡本優、下村唯 etc.「横浜ダンスコレクション2019 コンペティションI(2日目)」横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール

2019.02.10 15:44

新たな振付家の発掘とコンテンポラリーダンスの振興のために1996年から行われ、24回目を迎えた、横浜ダンスコレクションの「コンペティション」。

初めて見に行って、レベルの高さに驚いた。

今回の「コンペティションI」は、「35カ国 208組の応募から、映像・書類審査を経て、選ばれたファイナリストによる作品上演」だそうだ。


■振付:岡本優「マニュアル(MANUAL)」

出演:工藤響子、柴田菜々子、四戸由香、岡本優

電子的な音楽とともに、4人のダンサーがAI、ロボットのようなシャープな動きを展開する。最初の数分で戦慄を覚えた。

言葉を持たない人間たちの姿に見える。新しい人類が誕生したかのよう。手話のように手の動きで交信している。

音の取り方がうまいことが、頭の一振りで伝わってくる。

4人が微妙にずれながら一緒に動くところは、幾何学模様を見ているようで、正確無比という言葉がぴったりだ。

新しいと同時に正統派のダンス。観客に高い満足度を与える。

ダンサーたちが我に返ったように「はっ」とし、照明が夕日のようになり、音が消える。この場面がエンディングかと思った。

その後の踊りは少し蛇足のようにも感じたが、流れる声に従って動かされるように動き、声に促されてまた動き出すという繰り返し(リピート)が重要なのだろうとも理解できる。

「Third」という声が流れ、無理に起動したかのように動き出す。「もう動けない」とでもいうように。

背景のスクリーン(壁?)に投影されたチカチカした模様のような映像は効果的だったと思うが、そこに表示されていた英語の文は、読む必要があったのだろうか?(観客に読ませるものとして表示させていたのだろうか?)


■振付:ヤナ・ヤツカ(Jana Jacuka)「FAUX PAS」

出演:ローラ・ゴロドコ(Laura Gorodko)、アレクセイス・スモロヴス(Aleksejs Smolovs)

コンテンポラリーダンスとサーカスの演者2人が、サーカスの大きな輪(フラフープ?)を仲介者のようにして関わり合う。

最初からなぜか2人の動きが美しく見える。調和しているからだろうか?

戯れ、遊んでいるかのような動き。しかし、バランスを取るのが大変そうなアクロバティックに見える動きも含まれ、互いを信頼していなければできないだろうと思わせる。

昔のフィルム映画のリールが回るような音と、オレンジ色の光が舞台の端から照らされるシーンは、懐かしさを感じさせ、思い出の中の情景のようだった。

2人が一緒にいようとする意志、輪を立てたり回したりして輪を「成り立たせ」ようとする2人の意志を感じた。

女性が不安そうにしているように見える。男性が彼女を守るかのように寄り添い、男性が手を離した輪が、2人を真ん中にして音を立てながら床に横たわる。この収束のラストも美しい。

サーカスとダンスの接近や融合の試みは最近(昔から?)よくあるが、今回の作品のメランコリーな雰囲気は、サーカスのピエロのイメージが関係したりするのだろうか。


■振付:チェン・イーエン(Chen Yi En)「Self-hate」

出演:ホン・ペイユー(Hung Pei Yu)、リン・シウユー(Lin Hsiu Yu)

作品名の英語の意味は「自己嫌悪」。公演パンフレットに振付家のチェンが、オリヴィエ・メシアンという作曲家の「世の終わりのための四重奏曲」について言及している。公演で使っていた音楽はこの曲だろうか?

姿勢の悪い女性が黒いごみ袋を引きずって登場。ごみ袋は何やら動いている。そのごみ袋を突き破って、中からもう一人の女性が現れる。

最初にごみ袋を持って登場した女性は、破れたごみ袋を、自分が着ているTシャツの胸元に押し込み、そのまま踊る。不格好な中年女性のように見える。

ごみ袋の中から出てきた女性は、脚をむき出しにしたりして、無防備で弱い若い女性のように見える。

ステレオタイプ的な役割を当てはめるのは良くないと思いつつも、どうしても母と娘の確執のように見えた。しかし、この見方が私には感動をもたらした。

世間体を気にしてガミガミ言う母親と、それに逆らおうともがく娘。特に母(と私には見えた)のダンサーは表情も含めて鬼気迫る踊りで、胸がざわざわした。両手をこする仕草はシェイクスピアのマクベス夫人のよう。

中年女性(仮)が自分のスカートの中に若い女性(仮)の頭を突っ込むのは、「腹から生まれてきた」というメタファーか?と思った。

とうとう中年女性(仮)がごみ袋を胸元から出したと思ったら、そのごみ袋を頭にかぶった!そして、小躍りのような動きをする。小刻みな動きでぴょんぴょんしているが、もちろん愉快そうではない。若い女性(仮)は去る。母親から逃げ出すことができたのだろうか?中年女性が舞台上に残ったまま、暗転。

理由はよく分からないが、目に涙がにじんだ。


■振付:カン・スビン(Kang Subin)「Cut」

出演:コン・ジェホン(Kwon Jae Heon)、カン・スビン

冒頭で流れたナレーションは、何語だろうか?

客席に背を向けて立つ人物が光の中に浮かび上がる。右手を挙げているが、その手が動くともう一つの手が向こう側に見え、向こう側にもう一人立っていると分かる。手で会話するように2人は手を動かす。このオープニングは秀逸だった。

根源的でシンプルなことをストレートに追及しているようなダンスだった。でも、その追及していることが、踊っている男女2人のダンサーの「男女関係」のように見えてしまう。そういうふうに見ないように努力しながら見たのだがそう見えてしまうので、おそらく踊りに何かしら要因があるのではないか。そう見えるとテーマが矮小化してしまうようで、惜しい気がした。

最後、女性が男性に引っ張られて2人が退場。ここで終わったら嫌だなと思っていたら、女性が1人で出てきたので、ほっとした。女性は自分の手をじっと見詰めていたので、男性と決別をしたということなのかもしれない。


■振付:下村唯「亡命入門:夢ノ国(Defection for beginners: The country of DREAMS)」

出演:下村唯、Alain Sinandja、伊達研人

音楽:仁井大志

日本、トーゴ、台湾にそれぞれ「バックボーン」を持つ4人で制作したという作品。

冒頭、客電がついたまま、客席の通路を通って下村さんが舞台に登場。「始めます」というようなことを言って、始まる。

彼ともう2人が、さまざまな大きさの木箱をリレー形式で舞台袖から投げていき、舞台上に集積させていく。アートのオブジェのように。それを3人で眺め、積み重ねた下村さんが、「これ何?」「タイトルは?」などと他の2人に聞かれる。話す言葉はほぼ英語、時々日本語。

タイトルはたぶん英語の歌のタイトル。その下村さんの言葉を合図に、その英語の歌が流れ、また木箱を組み立て直す。木箱を組み立てたのは、おそらくトーゴのAlainさんだ。聞かれて答えたのは、フランス語の歌のタイトル。

それを合図に、今度はそのフランス語の歌が流れ、木箱を組み立て直す、おそらく台湾にバックボーンがある伊達さんが。タイトルを聞かれ、答えたのは中国語の歌。

その中国語の歌が流れ、今度は木箱をベンチのように配置して3人はそこに座り、歌に耳を澄ませる。

しかしその後、雰囲気が一転、立ち上がった3人は頭を下げて他の2人の顔を見ないまま、小突いたり、たたいたり、蹴ったりして、攻撃し合う。疑心暗鬼の探り合い。暴力。この辺から、最初からこの作品は良いと思っていたけれどこれは本当に良いかもしれないと思った。

木箱のベンチに横になるAlainさんと伊達さん。空港にいるのかな?と思った。この辺りで、ギターか何かの楽器を持った仁井さんと思われる人が登場。

Alainさんと伊達さんがベンチから床に落ちる。仁井さんが横たわっているAlainさんの口元にマイクを持ち、Alainさんが生で話していたのだろうか。舞台手前に下村さんが現れ、Alainさんと思われる声が投げ掛ける質問に、客席を向きながら答える。言語は英語。空港での入国審査を模しているのだろう。

「名前は?」「何をしている?」「コンテンポラリーダンスとは何だ?」といった、時に理不尽な質問に、あえてつたない英語で答える下村さん。声に「踊ってみろ」と言われ、踊り出す。その背後で、Alainさんと伊達さんが、木箱を片付けながら薄暗い舞台の後方で英語で話している。移民の話、なぜ人は移住するのか、日本に滞在して日本は気に入ったか、といった内容。

その後、話していた2人は踊っている下村さんに近づき、順番にハグをする。センチメンタルな音楽が流れ、歌詞には「hold」という言葉が入っている。3人が踊り出し、包み込むようなしぐさや踊り。食べ物をくれというようなしぐさも?「You’ll never see us again」というような歌詞があったような。上にある何かをつかむような動作。

非常にベタなつくりなのだが、泣ける。海外に行った経験があるから余計に泣けたのかもしれない。自分と異なる「分からない」ものに対する不安や差別、そして融和。とても好みの作品だった。もっと見たい!


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<横浜ダンスコレクション2019 コンペティションI・II 表彰式(各賞発表・審査結果、講評)>

2019年2月10日(日)19:20ごろ~20:30ごろ、横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール


■コンペティションI/Competition I

審査員賞/Jury Prize:下村唯 ※翌年以降における「横浜ダンスコレクション」での上演および賞金40万円(創作活動補助金)

奨励賞/Encouragement Prize:重松薫・鉄田えみ・チェ・ミョンヒョン(Choi Myung Hyun)、チェン・イーエン(Chen Yi En)

若手振付家のための在日フランス大使館賞/French Embassy Prize for Young Choreographer:岡本優 ※2019年中にフランスでの約3カ月間のレジデンスプログラム

ポロシス賞:下村唯 ※フランス大使館より急遽設定された賞。キャンピング・フェスティバルへの参加の機会を与えるもの。

MASDANZA賞/MASDANZA Prize:カン・スビン(Kang Subin) ※インターナショナル・コンテンポラリーダンス・フェスティバルMASDANZA(スペイン)への出場権

シビウ国際演劇祭賞/FITS Prize:2020年ルーマニアで開催する第27回シビウ国際演劇祭での作品上演。立木燁子氏選出。


■コンペティションI・II/Competition I・II

タッチポイントアートファンデーション賞/TOUCHPOINT ART FOUNDATION Prize:大森瑤子(コンペティションII) ※2019年ハンガリーで開催する第6回ボディラディカル国際舞台芸術ビエンナーレでの作品上演


■コンペティションII 新人振付家部門/Competition II New Choreographer Division

最優秀新人賞/Jury Prize:大森瑤子 ※作品創作支援および翌年の「横浜ダンスコレクション」期間中での上演をサポート

ベストダンサー賞/Best Dancer Prize:青柳万智子

奨励賞/Encouragement Prize:神田初音ファレル、横山八枝子


<コンペティションI審査員による講評(発表:近藤良平氏)>

今回の「コンペティションI」は、これまでで最も応募数が多く、国際色豊かだった。応募作品の動画を見てファイナリストを選ぶのも大変だった。身体の使い方は出場者の皆さんは心得ていると思いますが、物や声の使い方には気を付けましょう。応募時の作品の映像と実際に上演する作品とで違っている場合がありましたので、気を付けましょう。上演1人(1組)20分までとなっていますが、20分使い切らなくても(もっと短くても)いいです。このコンペティションを始まりとして、今後どうやって作品を作り続けられるか、どうやって観客を集めていけるか、をしっかりやるのが大事。


<コンペティションII審査員による講評(発表:柴幸男氏)>

振付は、身体だけでなく、時間、空間、他者や物との関係、光などを含む。出場者はみんな上手で、当初の「コンペティションII」の目的は一つの到達点を見た。しかし、果たして上手なだけの作品を見たいだろうか?という新たな疑問が湧いてきた。では何が見たいのかと考えたときに、ただ決められた振付をなぞるだけでなく、振付がありながらもそれを追い越す身体が見たいと思った。そのような身体を見ると興奮を覚える。つまり、振付を見ているだけでなく、実際に今ここで踊っているダンサーも見た上で、選出を行うことになった。このことを踏まえて、最優秀新人賞の大森瑤子さんは、振付も、またそれを踊ったご本人の身体も素晴らしかった。


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<コンペティションI審査員>

岡見さえ (舞踊評論家)

近藤良平 (コンドルズ主宰・振付家・ダンサー)

多田淳之介 (東京デスロック主宰・富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ芸術監督)

浜野文雄 (新書館「ダンスマガジン」編集委員)

矢内原 美邦 (ニブロール主宰・振付家・演出家・戯曲作家・近畿大学准教授)

サンソン・シルヴァン (在日フランス大使館文化担当官)

グザヴィエ・ぺルソン (アンスティチュ・フランセ横浜 館長)

エマール・クロニエ (フランス国立ダンスセンター 副ディレクター)

※その他、海外より提供される各賞の審査員は、各国のダンス専門家が務めます。


<コンペティションII審査員>

伊藤千枝 (珍しいキノコ舞踊団主宰・振付家・演出家・ダンサー)

ヴィヴィアン佐藤 (美術家)

柴幸男 (ままごと主宰・劇作家・演出家)

浜野文雄 (新書館「ダンスマガジン」編集委員)

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※敬称略

※下村唯さんの「亡命入門:夢ノ国」初演の映像です(1年ほど前の上演だそう)。