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草原のコトノハ

あきらめなかった人たち

2016.02.25 19:14

次女が、次女が。

紙に向かってかいています。

書くことひとつ。

ここへたどり着くまでの道のりの長さ、遠さ。

鉛筆を渡しても、カミカミしてぽーんと投げる。

紙を目の前にしても、くしゃくしゃにしておしまい。

道具の意味と正しい使い方から、ほど遠い場所にいた彼女。

持とうとしても力が強すぎてうまく持てない。

鉛筆の芯は紙に押し付けすぎて折れる。

紙を押さえる左手は、

ほとんど彼女の思い通りには動いてくれないように見えた。

彼女にしてみれば、

どうしてこの世はこんなにもやわなモノばかりなんだ!

ってことだったかも知れない。

いや、今だってそれが上手く扱えるかと言えば、否。

それでもそこへ向かわせたのは、なにか。


戸惑いながらも優しく接してくれ、

はたらきかけ、

時には距離を取りながら、

一緒に遊んでくれた自衛官のお兄さんへの

“ありがとう”の想い。


『私と一緒にいることを、最後まであきらめないでくれて、ありがとう。』


強すぎて震える手で、紙に向かってゴシゴシ、ゴシゴシ…

身体中から『ありがとう』を絞り出しているようで、

母さんやっぱり少し泣きました。


お兄さんのやさしさを受け取れること。

そこへ感謝の気持ちが生まれること。

嬉しい気持ちを表現したくなること。

それを表現できること。


これらの歓びを味わうまでに、

その何十倍もそれができない感覚を味わってきただろう。

そして…それができない時に、そのすべてを汲んで黙って見守ってくれた

たくさんの人たちの存在。


くやしさ、もどかしさ、言葉にできない彼女の想いを、

唇をかみしめる思いで『どうすることが彼女にとって良いのか』

と胸を痛め、心を砕き続け、

彼女をあきらめないでいてくれた人たち。

積み重ねてきた一粒一粒の結晶が今、この瞬間の姿。


書くことに向かわせるだけの大きな動機と、

あの時・あの時にほどこされた小さな愛の数々。

彼女の中にある過去のすべてが、

今みずみずしく花開く瞬間を目の当たりにする。

今、次女のここにある姿は、過去のすべてだ。

そう思ったら、次女に関わったすべての人々への感謝があふれてきて、

思わず次女を抱きしめる。

そして、思う。


次女こそが、次女本人こそが、この瞬間を待っていたはずだ。

みんなが自分にしてくれたことを開花させる、

この瞬間がくるのを、ずっとずっと。

あきらめなかった人ただけが、感じることができる。

あきらめなかった人だけが、知ることができる。

身の内に起こる震えるような恍惚。

次女もまた、あきらめなかった人たちのひとり。

~自衛官と障がいを持つ人との交流会の翌日~