5000人の前で見せた「まだ成長したい」という情熱
カズ、プロ40周年記念試合で語った思い
三重県でのホームゲームとして過去最多となる4917人の観客を集めたJFL2025前半戦最終戦。アトレチコ鈴鹿の三浦知良は、プロ40周年記念試合として特別な意味を持つこの一戦を3-3の引き分けで終えた。今季初先発で45分間プレーした58歳は、試合後の会見で胸の内を明かした。
感謝と悔しさが交錯した特別な一日
「大事な前半戦の最終戦ということで、とても重要な試合にも関わらず、プロ40周年記念というイベントを兼ねての試合にして頂いた。40周年ということをチームに祝っていただき、たくさんのスポンサーの方々、そして今回メインでコスモヘルスさんという会社に大きなご支援をいただいて、試合を迎えられて本当に感謝している」
カズは開口一番、関係者への感謝の気持ちを口にした。公式戦でこのような形でイベントを兼ねて試合をするのは珍しく、現場の人間も含めて初めての経験だったという。
「お客さんがこういう風にたくさん来てくれると非常に盛り上がるし、地域でアトレチコがまだまだ認知されているかと言われると、まだまだ足りない部分がある中で、今日こうやって5000人近くのサポーター応援団が来てくれて応援してくれたことはすごく大きな、クラブとしては大きな一歩になったんじゃないかと思う」
しかし、勝利への思いは強く、結果への悔しさも隠さなかった。 「勝てなかったのは本当に残念。みんな本当に悔しがってたし、見に来てくれているお客さんたちに勝利を届けたかった。最初の10分ぐらいで3点取られてしまって非常に大変な試合になった」
「雰囲気も非常に良かったし、当然みんないつもよりも多少テンションが高かったと思うが、入り方が特に1点目というのは取られてはいけなかった。自分がいろんな経験を積んでいる中で、あの時間帯の大切さをもっとみんなに伝えられたら良かった。ちょっと後悔というか、もう少し最初の入り方を気を付けて、みんなに声をかけて、緊張感を高める方向に持っていけなかったのは残念だった」
「ビルドアップの部分でリズムよくボールを前に運ぶことができていたら、自分にもいいリズムでやれる場面が多くあったと思うが、前半は自分のプレイというものは決して満足いくようなものではなかった」
4917人という観客動員について、カズは地域の可能性を感じ取っていた。
「これだけ集まってもらえるそういうポテンシャルがこの街にはあると思う。選手だけじゃなくて、クラブに関わってる人間が本当に頑張って、このダービー、そして40周年記念イベントということでみんなが本当に頑張ってくれた結果。こうやってお客さんが入ると非常にいい雰囲気の中でサッカーができるということをみんなが体験することがすごく大きい」
「クラブとしてこういうものを一個一個積み重ねていって、この鈴鹿、また三重県の中で愛されるようになってほしい」
40周年を迎えた感慨について、カズは深い感謝の気持ちを表した。
「プロスポーツの中で40周年を迎えるということはあんまりないと思うので、本当に恵まれていて幸せと感じる。僕がグランドに今こうやって立っていられるのも本当に皆さんのおかげだし、そしてまたチームメイト。今日試合前に言ったが、こうやって僕がプレイできるのはみんなの本当に助けがあってプレイができているので、そういう意味では本当にみんなに感謝していきたいし、本当にありがとうという気持ちが強い」
続ける原動力とモチベーション
「20代、30代の時にインタビューで40歳、50歳までやりたいとは言ってたが、還暦までなんてことも言ってたが、それは半分以上が冗談というか、自分もそこまでやれるなんていう思ってなかったし、そこまで続けようとも思ってなかった。ただ、1年1年やっていく中で、40過ぎてから特に40歳、50歳になってからまだ技術的な面でうまくなりたいとか、試合に出て活躍したいとか、そういう気持ちが20代30代の時よりも強くなっていった」
「モチベーションというのは本当に自分がグランドでこうやって今日みたいに立って、みんなと一緒に勝つために頑張ることだったり、努力すること、毎日練習続けること。そしてその中で自分がまだやっぱうまくなりたいと本気で思ってること。それがやっぱモチベーションじゃないかなと思う」
世代を超えた支持についても触れた。
「多分僕がヴェルディで活躍してた頃、日本代表で活躍してた頃のことなんか当然知らない子供たちが、カズって言ってくれる。子供だけじゃなくて、70代60代の方が、小学生や中学生の子供と同じようにカズ!カズ!って言ってくれる。それも大きなモチベーションになってる」
「続けられるのであれば本当にずっと続けていって、サッカー選手というものを職業にずっとしていきたい。ただ今みたいに本当に毎日みんなと一緒に練習するというのは、自分で言うのも変だが、本当に大変だ。毎日、みんな僕を見てるから、いつも元気じゃなきゃいけない」
練習の厳しさについても赤裸々に語った。
「特にこの2週間ぐらいこの暑さで毎日トレーニングしていくという大変さ。むしろ試合の方が、出ちゃったら楽なんじゃないかと思う。毎日練習を続けること、自分が試合に出るところまでたどり着くのが一番大変」
ブラジル時代の経験が支える現在
1986年2月のサントスでのプロ契約から始まった40年間のキャリアについて、カズはブラジル時代の経験が大きな支えになっていると語った。
「プロになるまでのプロセス、ブラジルでの生活プロセスももちろんすごく自分の中で大きなものだったと思うし、プロになってからもそうだが、ブラジルに行った8年間、このブラジルでのサッカー経験が自分の中で大きくその影響してる」
厳しい環境での経験が現在の適応力につながっているという。
「24時間バスに乗って遠征に行って、行った先の公式戦のグランドが練習場より悪かった時もある。だからどこに行ってもそのことを思うと、どうってことないと思うし、どこへ行っても環境が変わっても、それは2年前にポルトガル行った時も、いろんな環境に行っても自分が順応してそこの街で友達を作ってプレイするというのはブラジルでの経験がすごく大きいと思う。あれがなかったら自分はこうやって続けられてたかどうか分からない」
一つ一つのプレーに込める情熱
58歳になった今でも、一つ一つのプレーに対する情熱は変わらない。
「ゴールもそうだが、いいプレイした時は本当に素直に嬉しいし、まだ自分がこういうプレイできるんだ、チームに貢献できるんだって思う瞬間。そこで自分のモチベーション、自分のアドレナリンが上がる。それは試合だけじゃなくて練習の中でも多くあるし、場面場面で自分が充実した毎日を過ごせている」
「いつもいいプレイと悪いプレイが常にある。でもそういう感情でいつもいられるというのが幸せなんだと思う。そこに自分の喜びだったり喜怒哀楽があるというのがすごく大事だ。いいプレイできた時はまだ自分が成長してると思える。がっくりしてる自分もいる。毎日その繰り返しだ」
プロ40周年という節目を迎えながらも、カズの中には「まだ成長したい」という純粋な向上心が燃え続けている。5000人近い観客の前で見せた45分間のプレーは、結果こそ満足できるものではなかったが、58歳のレジェンドが持つ情熱の深さを改めて印象付けた。明日からまた始まる練習に向けて、キングカズの挑戦は続く。
取材:HiroshigeSuzuki/SportsPressJP