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日本の暦と暮らしの養生〜春の初めに肝を助ける〜

2019.02.21 07:27

2019/02/19 08:04

雨水(うすい)

地心黄経330度、日心黄経150度


地球暦が二十四節気のひとつ「雨水」をお知らせします。


地球は、冬至から60度移動し、その影響で北半球は着実に光を取り戻しています。


冬至(12/22)は昼の長さが約9時間半でした。

それに対して、雨水に入った今では昼の長さは約11時間に増えました。


太陽の光がさす時間が1時間半増えたことによって、土や大気は少しずつ温まり始めました。

徐々にではありますが、寒さが緩みはじめてきています。


日照量の変化を受ける地球の表面では、根を張る植物や微生物や菌たちが、その変化を敏感に察知しています。

そのようにして、春は足元の土の中からやってきます。


世代交代のサイクルの短い菌たちの一生は、数分〜数時間。


一日に何世代も交代しながら季節の模様替えが始まり、太陽に大地が反応するように地中では確かな春が訪れています。


そして地中から放出される冷気によって、寒の戻りを繰り返しながら、これから冬を溶かすように一雨ごとに地上に春を芽吹かせていきます。



■春は「張る」「晴る」季節


春の語源は「張る」「晴る」。

雪解けの水が地下から広がり、水が張る季節。

雪雲が溶けて晴れ間がさす、空が晴る季節。


春夏秋冬の四季の物語も一歩踏み出した「雨水」。

旧正月も終わり、いよいよ今から1ヶ月後は、「春分」です。


雨水から見て、1年の反対側は、9月上旬の「処暑」。

初秋の「処暑」は台風や豪雨など荒々しい天候が多いのに対して、初春の「雨水」は1年で最も繊細に水が動き、菌などの微生物や植物たちの動きが敏感になる季節です。


まだ寒い時期ではありますが、梅などの枝のつぼみの膨らみからも、地下部では水揚げがはじまっていることがわかります。


1年を1日にたとえると、「雨水」は朝の4時くらい。

少しずつ季節の夜明けとともに、自然界も眠りから覚めていくようです。


まもなくやってくる本格的な春の到来を前に、入試や人事や決算など、社会も新年度・新学期に向けて動き出しています。

初春はスタートというよりは、春分に向かってラストスパートのようです。


※以上のテキストは、地球暦ホームページを元に作成しました。

©HELIO COMPASS 地球暦





■春の養生は、肝のケア


陰陽五行説において、春に対応するのは木火土金水の「木」です。

五臓の中で、木にあたるのは肝。

その働きを助けるのは、五腑のひとつである胆です。

春は生命の躍動が始まる時期で、さまざまな生き物が冬の冬眠から目覚めて成長、発展する弥栄(いやさか)の季節です。

陰陽五行でいう肝・胆のう系は、自然界の「木」が天地和合のエネルギーを受けて伸びやかに成長するように、すべての臓器が順調で伸びやかであるよう調整する潤滑油のような働きをしています。

西洋医学でいう肝臓は人体の化学工場と言われていますが、2000種類の酵素が肝臓に集まってさまざまな働きをしています。

その中でも重要な働きが血液の浄化です。

肝臓では血液中のさまざまな不純物を分解・解毒して新鮮で瑞々しい血液がスムーズに流れるように管理しています。

春先は「木の芽時」といって冬に蓄積した脂肪が一気に血液中に溶け出し、身体の衣替えが行われる時期です。

「肝」の働きが悪いと血液の浄化が追いつかず、この頃に不調が起こりやすくなります。

 ー『マワリテメクル小宇宙』岡部賢二



「肝・心・脾・肺・腎」の五臓は、それぞれ肝臓や心臓といった「臓器そのもの」ではなく、「働き」を表しています。


肝の働きは、血液の流れをよくしたり、血液の質そのものを改善したり、血液をためて全身の臓腑に送ったりする「蔵血」と「疏泄」です。

そして、これら肝の働きを助けることが春の養生の要です。


また春は、この時期によくはたらく肝が弱りやすい時でもあります。

肝の働きを担っている代表的な内臓である肝臓や胆のうは、血液や体液の中の不純物や毒素を分解、解毒する内臓です。


肝臓の重さは、およそ1.5キロ〜2キロ。

体内で最も重い内臓です。

そして体内でもっとも我慢強い内臓とも言われています。


ここに蓄えられる血液が、浄化や解毒を必要とするものであれば、その分、肝臓に負担がかかります。


『家庭でできる自然療法』の中で、東城百合子さんは肝臓について、このように書かれています。


◎肝臓
肝臓は右の乳下にある大きな臓器です。
腎臓と共に体の浄化槽です。
毒素や老廃物を流し、また公害物や食品添加物など体に害をするものも一生懸命に排泄するために働きます。
ですからこの浄化槽が弱るとそれができませんからいろいろな難病や慢性病をおこしてしまいます。
肝臓は全身の化学工場で、食物は胃腸から最後に肝臓に吸収され、食べたものはこの肝臓が働いてくれて処理します。
食品添加物など身体に入れてよくないものや、毒素なども肝臓ができるだけ体外に出すように働いてくれます。
また食物も栄養として体に廻してくれます。
 ー『家庭でできる自然療法』著:東城百合子



体内に入ってきた毒素や老廃物、公害物や食品添加物を解毒・分解すること、排泄すること。


これらの働きは、それぞれの臓腑の中の細胞や、微生物たちが持っている酵素によって行われます。

その酵素の多くが、肝臓に集まって働いています。

そして毎日体内で作られる酵素の量は決まっています。


その時々に必要な仕事の質と量に応じて、どんな酵素を作るかを決めています。

たとえば消化に負担がかかれば消化酵素を増やす必要が生じ、骨や肉を作る酵素が少なくなります。

逆に消化に負担がかからず、消化酵素を増やす必要がなければ、骨や肉を作ったり、phバランスを整えたり、解毒分解するための酵素を増やすことができます。


身体に不必要な物質を取り込めば取り込むほど、酵素の多くがそれらの物質の処理の仕事にかかわらなければいけなくなっていきます。

本来、春はこれからの季節に動くための体を作るために、骨や肉や細胞膜を生成したり、PHバランスや体温を調整したい季節です。

しかし、解毒や分解や排泄の仕事が多くなれば、このような「本当はしたかった仕事」ができなくなり、その影響でさまざまな不調が出ることがあります。



この時期に多くなる風邪や花粉症なども身体の自然な排毒反応とみることができます。
「肝」で浄化できない老廃物を菌の働きを借りて一挙に浄化しようというのが風邪です。

花粉症もまた呼吸器を使って体内毒素を吐き出そうという自然治癒力の働きと見ることができます。

「肝」が疲れてくると「酸」味を要求します。

つわりの時に酸っぱいものが欲しくなったり、今、子供たちが、炭酸やクエン酸などの酸味がたくさん入ったジュースを欲しがるのも、女性に黒酢が人気なのも、「肝」に疲れがあるからでしょう。

酸には分解という働きがあるので、体内毒素を排泄するために酸が必要なのです。

ー『マワリテメクル小宇宙』岡部賢二


春に肝臓に負担がかかる原因の一つは、冬に溜め込まれた脂肪分などが温度の上昇と体の動き出しに合わせて、肝臓に溶け出してくることです。

冬に固まっていた脂肪分や、そこに混ざり込んでいた有害物質が、血中やリンパ液に溶け出してくることによる血の汚れの処理、浄化、解毒、分解に、酵素の仕事が取られることによるものが、春の不調の代表的なものです。


残留農薬、抗生物質、それらを含んだ肉や卵や魚、トランス脂肪酸、放射性物質などは、肝臓に負担をかける代表的なものです。

春夏に動ける体を作るために、解毒や分解、排泄の仕事を増やさないこと、それらの仕事を助けること。


体内に不要な量の脂肪が入ってくると、体内酵素はこれらを分解するために働きます。

油脂自体は、コレステロールやホルモン、細胞膜などを作るために必要です。

酸化しやすい油を排出して、良質の油を取ることで、潤いを保つこと。

丁寧に作った、酸化しにくい油や、オメガ3などの、きめの細かい油を使うことをおすすめします。


東洋医学では花粉症も、冬にため込んだ毒素の排泄症状とされており、春先の毒出しは古い時代から養生の要とされていました。

また、大正時代に主婦の友社が発行した「黒焼き五百撰」という本の中には、ナスのヘタや梅干し、玄米の黒焼きなど、植物や動物を炭化したものを解毒のために使っていたことが記されています。


古い時代の日本列島では、炭や黒焼き、貝殻をすりつぶした粉を、土壌改良や環境の浄化に使っていたようです。

解毒・分解は、体にとっての大仕事のひとつ。


動物性食品が多く体内に入ると、油を分解する際に生まれる胆汁が大量に分泌されます。

そして腸内では、この胆汁をエサにして悪玉菌が増殖して、便秘の原因になることがあります。


そのことによって、腸の排泄力が低下すると、腸内の腐敗物や余分な油は再び吸収されて肝臓に戻ってきてしまいます。

このことを「腸肝循環」といいます。


腸に不調があると肝臓にその影響がいきますし、腸が整うことで肝臓の働きは助けられます。

便秘を治すことは「肝」をよくする秘訣と言われており、玄米、雑穀、食物繊維の多い野菜や野草や漬物を常食していると便通が整い、その結果「肝」や「胆」の働きを助けることができます。


「肝」の働きをよくするのは緑黄色野菜です。
「青」(=緑)色のものが五行では「肝」の食薬になります。
ほうれん草や小松菜、春菊やパセリ、ニラなどカロチンや食物繊維の多い野菜がおすすめです。
また、三月から五月にかけてできる旬のものが「肝」を良くする食薬になります。
菜の花のほろ苦さが春先にはなんとも美味しく感じられます。
ヨモギやフキ、竹の子、たらの芽、ノビルなどの野草は春の息吹き=生命力を人間にもたらしてくれます。
野草にはビタミンやミネラル、食物繊維、酵素などが多く含まれ、「肝」や「胆」に滞った汚れ(特に油汚れ)をその伸びる勢いに載せて排泄してくれるのです。
ー『マワリテメクル小宇宙』岡部賢二


雪が溶け、水が土にしみ込み、種が張り裂ける春。

種から伸びた芽が土の上に張り出し、葉を広げる春。


せりなずな  ごぎょうはこべら  ほとけのざ 

すずなすずしろ 春の七草


立春から一番近い新月から数えて七日目にこれらの野草を摘んで、粥を炊いて食べる「七草粥」の風習。


この風習は、日本列島の各地で続けられてきた、雪の間から芽を出した野草を摘む「若菜摘み」という習慣と、中国大陸から伝来してきた七種の薬草を熱い粥にした「七種菜羹(ななしゅさいのかん)」という薬膳食が混ざりあったものだと言われています。


冬の寒さが厳しく残る中で伸びてくる初春の野草の持つ乳酸菌、酵素、食物繊維、ミネラル、ビタミンを補給する暮らしの知恵。


七草粥を食べる風習のあった和暦の一月七日の、その三日後の一月十日に行われる「鏡開き」で神棚にお供えしていた鏡餅をおろしたあとに、同じようにお供えしていた様々な野菜と合わせて作る汁が「雑煮」のもともとの形です。


おせち料理を食べたあと、冬の体を春に備えるために切り替えていく頃に、粥や雑煮などで質素な食事を心がける、季節の過ごし方の知恵が伝わっています。


水の季節から木の季節へ。

腎の季節から肝の季節へ。


水から汲み上げられた栄養が、肝を通して浄化され、全身に運ばれていく。

木の字のごとく、下にも、上にも、のびやかに広がる、はるる季節。


木に例えると、腸は根だと言われています。

根のまわりに菌根菌とよばれるたくさんの微生物たちが、土の中の栄養や水分を根に送っています。


腸の壁に広がる絨毯の毛のような絨毛にはびっしりと栄養吸収細胞が広がり、そのまわりにたくさんの微生物たちが、腸管の中の栄養や水分を腸壁細胞に送っています。


春の養生は肝と共に、腸と共に。

そして微生物たちやたくさんの酵素と共に、はれやかな春がすごせますように。


by 冨田貴史