山田修村長「原子力発祥の地としての矜持」
東海村山田修村長が,討議資料「やまだ修:次の世代へ。」を村内全戸に配布した(写真1)。
9月2日告示の東海村長選出馬を前にして配布されたものである。4年前のこの時期,山田村長の討議資料が全戸配布され,それについて述べたので,今回も書く *。
写真1 東海村長やまだ修の討議資料
表紙は,自身の正面顔写真と名前を画面に大きく配置し,スローガン「次の世代へ。東海村に暮らす!豊かさが実感できるまちづくりへ!」が書かれている。中身は,これまでの4年間の仕事と,次の4年間の公約である。
表紙の裏に,「『原子力発祥の地』としての矜持」と題する文章が,山田氏の顔を横に配置して書かれている(写真2)。
写真2 「『原子力発祥の地』としての矜持」
今度の選挙で選ばれる村長は,東海第二原発再稼働の是非判断を下すことになると見込まれている。山田氏が,この文章の最後に,「安全対策工事が完了した暁には『再稼働は必要である』と考えます」と書いたのは,自身が次も村長となることを前提に,再稼働すると宣言したと同然のものである。
自公政権は国政で過半数を割ったが,野党は結束できず,政権交代は起こらない。2月に改定したエネルギー基本計画は,「原発を最大限活用」と明記した。エネルギー政策の転換も起こらない。山田村長は,こうした政治と政策の情勢を背景に選挙の勝ち馬を自認し,村長の立場で堂々「再稼働必要」を宣言したのは,彼の選挙の支持母体から要求があったのだろう。
村民は,山田氏の再稼働必要表明を厳しく批判した **。
「『原子力発祥の地』としての矜持」を読む。
タイトルは「原子力発祥の地」を冠にしている。原子力村民のプライドに訴える趣向だ。しかし,東海村を「原子力発祥の地」として特別なプライドをもっている村民は,ある層に限定される。村の原子力開発の歴史とともに歩んできた年代の人々である。それより若い世代は,来住者も多く,原子力村民としての「矜持」はない。
原子力村民の矜持とはどんなものか。
私は4年前の村長選時に,「福島の方はお気の毒だったけれど,東海村は特別」という言葉に会って,びっくりした。人の苦しみを理解せず,自分だけは安泰,とするエゴ丸出しの村民矜持はいったいどこから来るのか。
長くその出所を探していたが,68年前の1957年,日本初の原子炉JRR-1完成祝賀式典にその源流があると気づいた(写真3)。
写真3 JRR-1完成祝賀式典(東海村歴史と未来の交流館展示,2024年9月)
式典は,朝から号砲が打ち上げられて,盛大なイベントだったようだ。沢畠むめ(当時28歳か。1985年聞き取り)は,高揚感に溢れる思いで,その日の出来事を語っている*** 。
記念式典の日のことをよく覚えています。朝からドーンとあがる花火(号砲の間違いか),祝賀行進で子供たちの振る小旗,腹を抱えて笑った演芸会など,それは華やかでした。あのとき,強い予感がありましたね。これから村は絶対に良くなるんだと。
原子力研究所の設置は,私たちには夢のような出来事でした。これが村を発展させるんだという役場の人の説明をひたすら信じるだけ。結局,村が豊かになり,サッチャー首相のような偉い人が村に来たのですから,原子力は偉大ですよ,まったく。
元東海村長・村上達也氏は中学生だった。氏は次のように語っている **** 。
この田舎の村に最先端の研究所ができる,優秀な研究者たちがやってくるという知らせに,村民は沸き立ちました。まだ中学2年生だった私にも,大きな夢と希望を与えてくれました。
JJR-1完成祝賀式典は,原子力の偉大さ,村の明るい未来,選ばれた村民としてのプライドが一つになって,村民の心に深く刻みつける役割を果たしたのである。68年前だから現在,この式典を知っている人はわずかである。山田氏は,こうした事実を理解せず,村民が持つとする「原子力村民の矜持」に訴えて,原発再稼働のメッセージを寄せている。原電と日立を支援し,原子力関係で生計をたてている村民を支援するために再稼働する必要があるとはとても言えないから,「原子力村民の矜持」を持ち出したが,事実と照らしても間違っているし,したがって戦略としても良いと言えない。
そもそもだが,山田氏は,JCO臨界事故で亡くなった従業員,被ばくした村民,福島第一原発事故で避難を余儀なくされている人,被ばくした人,甲状腺がんにかかった子どもたちに,思いを馳せることががない。原発が再稼働すれば,事故のリスクを抱えることになる東海村の周りの何10万人,首都圏の何100万人もの人々にも思いを馳せることがない。
私が4年前にあったエゴ丸出しの村民が,エゴを丸出しにするのは勝手だが,3.7万人の村民の安全に責任をもつ村長が,「東海村に暮らす!豊かさが実感できるまちづくりへ!」と,村民に呼びかけるのは,あまりにもリスクに無自覚で,エゴイスティックにすぎるだろう。
先に,農業が壊滅状態になっていると書いた *****。東海村の農業は,原子力開発に,農家の土地,労働力を提供することで衰退の道をだどった。東海村の農業は壊滅寸前である。他方で,原発は国の全面的な支援を受けずには維持できない衰退産業にすっかり落ちぶれている。
山田氏は,村民に向けた選挙資料で,原子力発祥の地の基幹産業としての原発再稼働は必要だ,いうメッセージを送ったが,それは,彼の選挙の支持母体である原子力事業者たちへの返答と言うべきものであった。衰退の原発に肩入れするのではなく,守るべきは村民の安全と,産業としての農業だろう。
* 「2021年東海村長選を闘って その3 東海第二原発の再稼働問題」,須和間の夕日,2021年9月30日
** 「山田 修東海村長の東海第二原発再稼働必要発言に抗議する」,須和間の夕日,2025年7月15日
*** 東海村編『東海村発足30周年記念誌』,1985,p.21
**** 石川智也「『原発マネー』は地域に貢献しない――元祖「原子力村」東海村の前村長が説く「脱原発」論 / 緊急防護措置の対象区域に約100万人、それで地域防災計画など作れない」『論座』,2021年3月15日,https://webronza.asahi.com/politics/articles/2021031300003.html
***** 「農業壊滅は救えるか」,須和間の夕日,2025年8月11日