L.V.ベートーヴェン ピアノとチェロのためのソナタ 第4番 ハ長調 作品102-1
2曲目はベートーヴェンの「ピアノとチェロのためのソナタ 第4番」です。
楽聖のオマージュ第1夜にふさわしく、彼のターニング・ポイントとなった作品が選ばれました。
これが、その音源です。
ベートーヴェンは43歳の時に中期の最高傑作である交響曲第7番を完成しました。
しかしその後の数年間、創作のスランプに陥ってしまうのです。
作品数は激減。
芸術的欲求を満たす曲を生み出せない。
また私生活でも弟の病気、パトロンの引退・死没による経済的困窮に悩まされていました。
ところが八方ふさがりの中、とんでもない曲が降りてきたのです。
当夜のソナタ第4番、そして第5番の2曲です。
これまでの壮大な規模や強固な構築性は影をひそめ、感情の思うままに書かれ、内省的な深みを持った瞑想的な音楽となっています。
晩年のピアノ・ソナタや弦楽四重奏曲などで聴ける後期の作風の始まりです。
この2曲のソナタはベートーヴェンを生涯励ましたエルディーディ伯爵婦人に献呈されました。
そのことも創作の蘇生を助けたのではないでしょうか?
第4番は2楽章形式で書かれていますが、厳密には以下の5つの部分からなります。
それらは切れ目なく演奏され、自由な構成と曲想から「幻想ソナタ」と称されています。
第1楽章
・第1部 序奏 静寂の中でチェロが窮状をつぶやき、ピアノがなだめ諭すように応えます。高揚も弛緩もなく進み、浮遊するように消えゆく。
・第2部 主部 主題が力強く緊迫をもって奏でられ、現実との闘いや憤りの吐き出しを描くように推進します。「なんでこないことになったんかい!」というベートーヴェンの声が聞こえてきそう。
第2楽章
・第3部 序奏 戦士の休息。静かな嘆きで始まり、苦悩で緊張が高まった後にはかなく祈る。
・第4部 第1楽章序奏の回想 あたたかく抱擁されるような安堵感が広がります。ここは天上の音楽のように美しい。
・第5部 そして天から降りてきたピアノのユーモアな主題。チェロがそれを続け、主部に突入です。気分は一新して明るい兆しが見え、苦境の渕から抜け出せそう。さらに続いての沈黙の中からの閑話休題的な楽句が期待を膨らませると、天真爛漫に展開します。その陽気な気分は終結部で頂点を築き、「もう大丈夫だ!」と言わんばかりに華々しく幕を閉じます。
全曲を通じての極端な感情の変化。
ベートーヴェンは救いを求めていたのではないでしょうか?
彼の当時の心の内が痛々しいほど描かれています。