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ダンス評.com

奥野美和、N///K「風と毛穴 器官と音」座・高円寺2

2019.02.15 14:56

演出・構成・美術・衣装:奥野美和

音楽:藤代洋平

出演:小山衣美、黒須育海、鈴木春香、ながやこうた、松尾望


N///K(ナチュラル・キラー)という不思議な名前のダンスカンパニーを主宰する奥野美和氏の新作公演。TPAMフリンジ参加作品。

公演のチラシとかの画像が少し怖い感じだったので躊躇していたが、奥野氏と、医師で能楽もなさっている稲葉俊郎氏とのプレトークのテーマ「私たちの身体と芸術」が面白そうだったので、足を運んだ。

稲葉氏の話;「芸術は予防医療にもなり、芸術に触れていると健康でいられる。身体の内と外をつなぐのが身体表現。ダンス・踊りを単にダンサーが行っているものとして見るのではなく、自分たちの体の中の動きを擬人化して踊っているのかもしれないと思いながら見てみるといい。私たちの体はほとんど無意識に居心地の悪いところを動かして調整しながら生活している。ダンスは、普段は気付かないそういう調整を見せてくれるものでもある。ダンスで体が整っていく」

奥野氏の話:「芸術全般が好きだが、私が追求したいのはダンス。身体がとても好き。身体は(人間と違い)裏切らない。何がダンスで何がダンスじゃないとか言う人もいるが、私はジャンルにはこだわらない。ただ身体で表現することをやっていきたい」

舞台美術も奥野氏が手掛けているが、それ自体アートのインスタレーション作品のように見えるくらい興味深いものだった。ところどころに大きな穴が開いていて広げられているクリーム色のテントが逆さまに天井からつり下がっているように見える美術。天井にはたくさんの長い赤色などの糸もつるされている。体内や洞窟、子宮のようにも見えてくる。

音楽はかかっているときとかかっていないときがあったが(沈黙やダンサーの息遣いや声も含めて音楽ではあるが)、流れているときの音楽は、やり過ぎず、かといって踊りの単なるサポートではなく音楽自体の存在感を放っていた。

冒頭、天井にオレンジっぽい、月や夕陽を思わせる丸い照明が一つついている。その下には、プレトークが始まる前から舞台上にあおむけに横たわっていたダンサーの姿がある。そのダンサーが「んー、あー」のような声を出し始めた。「フー」と息を大きくはいて、上からつるしてある糸を息で動かしたりする。徐々に転がったりと動き出す。

耳鳴りのような音楽が流れ、他のダンサーたちが登場する。互いに、目には見えない「気」のようなものを、投げて受け渡し合ったりしている。下腹の辺りでその「気」を受け取った女性は、その下腹の部分が赤く塗られている衣装を着ている。心臓の辺りの衣装が赤い人、背中部分が赤い人もいる。臓器、血を思わせる。垂れ下がっている赤い糸も血脈に見える。作品名に「器官」とある通りに。

女性が股の間から赤い糸を繰り出したり、男女が床で少しからみ合うような動きもあり、性や生殖、生命を連想した。それだけではないけれど。全て身体と密接に関わり合うものだろう(しかし、近い未来においてはそうではなくなるかもしれない)。

特に前半、寝不足だったこともあり眠気を催したが、それほど音楽や動きが自分の体とシンクロし、体内にフィットして、心地よかったのかもしれない(能楽などの音楽や声は眠気を誘う旋律だと聞いたことがある)。

4人のダンサーが舞台から去り、女性のソロになった。その女性の脚の動きに目を疑った。まるで脚が本人とは別個の存在となって本人の意志とは無関係に好き勝手に動いているように見えるのだ。本人も驚いている様子でその動きをしている。「している」はずなのだが、「そうなっている」のを「ただ見ている」ようにも見える。脚が別の「人格」を獲得していた。アンデルセンの童話『赤い靴』の少女カーレンや、手塚治虫の漫画『ブラック・ジャック』に出てくる「人面瘡(そう)」の患者が思い起こされた。あんな脚の動きが可能なのか?と思い、帰宅してから全身鏡の前で一部をまねしてみた。ほんの少しだけ、自分の脚が「異物」に見えた。新たな動きの発見。

男性が1人登場し、女性の背後、結構離れた場所に立つ。女性の動きに男性が反応する。女性が脇腹を撃たれたように動けば、男性も脇腹を撃たれたような動きをする。双子やパートナー同士など近しい間柄で一方が感じた痛みをもう一方も感じるといった「現象」が語られることがあるが、そういう作用だろうか。「一体化」のようにも見えるかもしれないが、あくまで「他者性」を強く意識しているようでもある。

男性が立ったまま腰を前方に曲げ、床に両手をついて三角形の形をつくり、女性がその腰の上に真っすぐに立つ。慎重に呼吸を合わせる必要がありそうだが、いったんバランスを見つけると双方の体の震えが止まり安定する。

観客もダンサーたちと一緒に呼吸を合わせているような、息をひそめたりはき出したりしながら今まさにその瞬間の空間を共につくり出しているような、奇妙な感覚を味わった。でも、生のパフォーマンスは本当は全てそういうものだ。そのことを鮮烈に感じさせてくれるダンスだった。

女性が去り、別の男性が舞台に現れて、男性2人となる。現れた男性が舞台にいた男性に近づこうとすると、体が触れ合いそうになる瞬間にひょいと身をかわされてしまう。それが何度か繰り返される。いじめ、排除といった言葉が浮かぶ。他のダンサーたちもみんな出てきて、男性を小突いたりして仲間外れにする。1人が小突くのを止めようとするのだが、止めてもまた別の人が男性を小突く。

ついに男性は天井から垂れ下がった糸を頭に装着されてしまった。他のダンサーたちは男性から離れて、男性に向かって合図のような動きをする(確か、男性の頭に着けている糸の引っ張るようなしぐさ)と、それに応じて男性の体が動く。頭に装着した器具に電流を流して脳に働き掛け、体を動かす、という技術が実際にあったような気がする。そういうふうに見える動きだった。

5人全員が舞台上に散らばって動いているとき、ロボットのような動きしているダンサーもいたように思う。AIやロボットには血は流れていないはずだが、血が通っているような動きをするAIロボットもすでにつくられているだろう。

ダンサーたちが糸を口の中に入れる。そのまま動き、電流が走ったように痙攣する。なまめかしくもあり不気味でもある。4人が床に転がる中、1人だけ立ったまま動いている。徐々にみんなの動きが鈍くなり、暗転。

剥き出しの臓物の一歩手前のような、機械人形のような、同時に相反するものである存在を投げつけられたような感じもするし、本当はもっと全然違う印象を受けているはずだとも思う。

うまく言葉は見つからないが、もっと身体に目を向けたくなった。

プレトークの、「体内の動きがダンスの動きの中に見える」という捉え方が新鮮で、今回のダンスの動きがところどころ、胃の調子が悪いのかなとか、体内に侵入したウイルスと闘っているのかなとか、血小板が動いてぶつかっているのかなとか、医療の知識は全くないが、そんなふうに見えてきた。


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2019年2月14日(木) 19:00 & 15日(金) 16:00

前売一般 3500円 当日一般 4000円

前売学生 2800円 当日学生 3300円

【関連イベント】

プレトーク 稲葉俊郎(医療)×奥野美和(ダンス)

日時:2019/2/15 (金)16:00~

【スタッフ】

照明:加藤泉

音響:ステージオフィス

舞台監督:川上大二郎

舞台美術アシスタント:福島奈央花

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※下記画像は下記サイトより。