シルバー民主主義の終焉
日本では65歳以上の高齢者が人口の約3割を占め、投票権を有す18歳以上でも3.5割に達する。一方現役世代は、平日就労、休日はリクリエーション等で多忙なため投票率は低く、これまで政治は高齢者向け政策を掲げれば支持を得られるという、所謂「シルバー民主主義」が主流だった。しかし、その帰結として年金・医療・介護など高齢者向け社会保障制度は充実した一方、費用負担は現役世代に集中した。例えば年金、介護、医療などの社会保険給付費は2025年度の予算ベースで約140兆円と巨額だ。このうち年金(60兆円)と介護費(15兆円)はほぼ全額が高齢者向け支出で、医療費(45兆円)は65歳以上が6割を占める。つまり高齢者向けだけで合計105兆円である。一方、税収は80兆円と到底足りず、不足分のうち高齢者の医療に現役世代の健康保険料を充当、年金には現役から徴収する社会保険料に加え、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)からも補充、介護費も主に現役が負担する介護保険でやりくりする。ちなみに年金は、世界最大の機関投資家とされるGPIFから全額支払われると思い込んでいる国民も多いが、実際のGPIFの運用額は約250兆円程度に過ぎず、年金に充当すれば4年で底をつく金額だ。シルバー民主主義が充実する一方、近年の少子高齢化と失われた30年間の賃金伸び悩みにより現役世代の負担する社会保険関連費用は加速度的に増加し可処分所得は減少。ついに先の国政選挙では若者を中心に現役世代の不満が爆発し、「手取りを増やす」とした政党人気が急上昇し、自民党は衆参両院で少数与党となった。そもそも日本は給料格差が比較的小さい国だったはずで、OECDによる18-65歳の相対的貧困率は16位と先進国では格差が低い方に位置する。ここで相対的貧困率とは、一人当たり所得を並べて中央値の半分未満の所得で暮らす人の割合であり、貧困率1位はフランス、2位はフィンランドで米国は5位である。ところが、所得から社会保険料などを引いた可処分所得の相対的貧困率を同様に調べると、日本は米国、イスラエルに続き3番目に貧困率が高い国である。これは現役世代の支払う社会保険関連費用が高過ぎるから。さらに対象を全年齢に拡げても、日本の相対的貧困率はコスタリカ、エストニアについで3位となり、バブル期における裕福なイメージとは異なり、今や実体は貧困層の多い国である。ところで、国民の金融資産は2,200兆円と比較的裕福で、高齢者がその約半分を保有する。つまりシルバー民主主義を推し進め過ぎた結果、平均値では裕福な高齢者に対し、貧困者の多い現役世代は年金を仕送りするとともに、医療費を8~9割負担し、介護費も支払う事態となり、さすがに現役世代の怒りが爆発し自民党は少数与党となったとも考えられる。さて、手取りを増やす等の公約を掲げる野党だが、その具体的な方法は、社会保険料の壁引上げ、消費税の減税など様々だが、いずれも徴収を減らす方向で、本丸である膨れ上がった社会保険関連の支出減に踏み込むものは少ない。今後団塊の世代が後期高齢者となる中で、税収が奇跡的に増えない限り、手取り増の実現には高齢者に払い過ぎている社会保険費を削るか、国債増発しか道はない。今回新たに票を集めた政党には、関連業界との権益でがんじがらめの古い政党にはできないような、社会保障関連に切込む改革を期待したい。