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やわい屋

三十二冊目 【FACT FULNESS】

2019.02.16 04:26

【FACT FULNESS】

著者 ハンス・ロスリング

出版社 日系BP

世界は変わり続けている。知識不足の大人が多いという問題は、次の世代を教育するだけでは解決できない。学校で学ぶことは、学校を出て10年や20年もすれば時代遅れになってしまう。だから、大人の知識をアップロードする方法も見つけなければならない。

 著者のハンス・ロスリングは社会学者でも哲学者でもない。彼は衛生学の医師で発展途上国で治療や生活環境の改善を行っていた。ある日彼は自分を含めて世界中の人々が「現実の世界の状況」をきちんと認識できていないことに気がつきます。ニュースでは今日も凄惨な事件や事故の様子が繰り返し繰り返し流れている。世界はどんどん悪いほうへ変わっているようにも見える、しかし、彼が収集したデータはそれとは間逆のことを示していました。「世界は徐々に良くなってきている。」そのことを伝える為に、ハンスと息子のオーラその妻アンナは活動を続けています。

 この本は単なる研究結果の発表ではなく、著者が生涯をかけて伝えようとしたメッセージが詰まった自伝ともいえる本でした。正直もっと学術的な本だと思って手に取ったので驚いたし、あとがきに書かれた著者の感謝の言葉を読んでいたら涙があふれました。この本には「世界を救う為に問題を解決しよう。○○が原因だ。」というような、誰かを断罪し正義を貫くようなメッセージはありません。著者のメッセージは常に、自身の経験に裏づけされた深い後悔と反省の念に立脚しています。その言葉は紳士的であり理知的です。

なによりも、謙虚さと好奇心を持つことを子供たちに教えよう。

 ハンスは「チンパンジークイズ」と名づけた貧困、教育、環境、エネルギー。人口問題に関するクイズを、学生や一般庶民から、ノーベル賞受賞者や各国の首脳といった知識人にまで出し続けてきました。本来知識人であるほど高い正解率になって然るべきクイズの正解率は、なんと「チンパンジー」がランダムに選んだ時のほうが高く、人間の方が低いという結果になりました。著者は、その原因は人間が常に「ドラマチックな方を選択する思考」を持っているからだと言い、その思考が真実を歪め、より凄惨な事実だけを選び取り、世界の真実へと目を向けない原因となっていると言います。確かに僕らは、ニュースに対して明るいニュースをどこか退屈だと感じ、凄惨な事故や事件を時に嬉々として視聴しています。本当は明るいニュースばかりが放送されるということはすばらしい事のはずなのに、そうではない偏った世界を僕らは見ているのです。

 この本は衝撃的な本です。ぼくらが思い込んでいる「アフリカの貧困」や「豊かな欧米諸国」の「現在」がどのような状況なのかを知るヒントがあります。そして、それを学ぶことで、自国の現在がいまどのような状態で、これまでどのように豊かになってきたのかを知り、そして豊かさの次の段階でどのように振舞うべきであるか。「世界」と「自分自身」を正しく理解する方法をこの本は教えてくれます。


やわい屋書店で新刊を並べております。よろしければお手に取ってみてください。