29. 敬語
(2007年に、文化庁文化審議会の『敬語の指針』が出て、敬語の分類が変わりました。そのため、この章の内容は古くなってしまいましたが、参考のために残しておきます。)
29.1 敬語の分類
29.2 丁寧語
29.3 尊敬語
29.4 謙譲語
29.5 その他の問題
人間の文法能力(例えば日本語の使用者が日本語の文を作り出す能力)は、3才ぐらいで基本的な部分ができあがり、その後10才ぐらいまでにはほぼ完成すると言われています。事実、小学生の高学年になれば、難しい言葉の使い方を知らないということはあっても、文そのものが作れないということはないでしょう。日本語学習者にとっては非常に難しい「は」と「が」の使い分けや、受身や可能、疑問文や否定文の作り方、複文などの用法も小学生にとっては何でもないことです。
しかし、小学生ではあまりうまく使えず、それどころか大人になってもうまく使えない人がいるような日本語の使い方があります。それが敬語です。そういう点からすると、敬語の規則がふつうの意味の文法に入るのかどうかということも問題になりかねませんが、日本語教育の観点からは、どちらにせよ教えておかなければならないものです。
この本で敬語を「複合述語」の中に入れたのは、単に便宜的なものです。学習者からすると、「V-られる」や「お-V-になる」などの形が、ボイスなどに近く感じられると思うので、ここに置くことにしました。ふつうは「文体」とか、「男女の言葉の差」といった項目と共に、一般の文法事項の後におかれたりします。
敬語は「待遇表現」という、より広いものの一部です。「待遇」というのは「待遇がいい、悪い」などとふつう使われる言葉ですが、ここでは、言葉でもって人をどう扱うか、ということです。人に対する態度が言葉の中にどう表わされているか、と言ってもいいでしょう。例えば、ある人を指すのに
あのやろう/あいつ/あれ/あの人/あの方
などのうちのどれを使うかで、その人に対する話し手の態度が表わされます。
また、動詞の場合、ある人が「食べる」ことを表わすのに、
食いやがる/食う/食べる/召し上がる/お召し上がりになる
などのどれを使うか、話し手は瞬時に決定しなければなりません。
これは、話し手の本当の気持ち、例えばその人を尊敬しているかどうか、ではなく、話し手の「尊敬を表すことば遣いをしておこう」という態度を示しているだけです。尊敬していなくても、「尊敬語」を使うことはできます。そして、それはことばの使い方が間違っているわけではありません。そこを誤解すると、敬語が使いにくくなります。
話の中に出てくる人についての表現以上に大切なのは、聞き手に対してどういうことばを使うかということです。これは、聞き手自体がその文の中に出てくる場合(省略されている場合を含む)と、そうでない場合があります。
a どちらへいらっしゃいますか。
どこへ行きますか。
b それは私のでございます。
それは私のです。
aの場合は「あなたが行く」の「あなた」、つまり聞き手の行動を敬語を使って丁寧に言っているわけですが、bでは聞き手は文の中に出てきません。会話の相手である聞き手に対する敬意を表わすために、「です」の代りに「ございます」を使っているのです。そもそも「です」を使うことも、「だ」に比べてていねいな言い方を、聞き手に配慮して選んでいるわけです。
聞き手(読み手)を考慮して述語の丁寧さを変えるというのは、別の言い方をすれば、「文体」の問題です。
29.1 敬語の分類
敬語はふつう大きく三つに分けられます。その3種類をかんたんに見ておきましょう。
まず、聞き手に対する話し手の丁寧さを表わす「丁寧語」。もっとも代表的なのは動詞に付ける「~ます」と、名詞述語・形容詞の「~です」です。これを使うかどうかで、聞き手に対する言葉づかいが大きく二つに分かれるわけです。文章で言えば「文体」(の丁寧さ)というところです。会話の場合にも、文章での呼び方を使って「丁寧体」「普通体」と呼びます。
「あした(あなたは)来ますか」「いいえ、行きません」
「あした、来る?」「ううん、行かない」
次に、敬語らしい敬語である「尊敬語」。話の中に出てくる人の動作・状態に関して敬語を使います。
「あの方は明日いらっしゃいますか」
「いらっしゃる」は「来る・行く・いる」に対する特別の敬語動詞です。一般の動詞には「お~になる」か「-(ら)れる」を付けて敬語にします。
本をお読みになりました。
本を読まれました。
最後に、「謙譲語」。話し手自身の動作に付けて、へりくだることによって相手または他の人に対する敬意を表わします。
先生の荷物をお持ちしました。
「明日いらっしゃいますか」「はい、まいります」
学習者にとって難しいのは、本当は具体的な「形」よりも、いつ、どんな場合にそれぞれを使い分けるか、ということでしょう。初めて会ったときには丁寧体で話し始め、親しくなって来るとともに、次第に丁寧さを目立たなくし、ついには普通体へ移行する、この辺の難しさは、私たちでも常に感じるところです。
いつまでも丁寧体を使っていては親しさが増しませんし、あまり早くから普通体へ移行すると、相手に心理的な抵抗を引き起こすかもしれません。また、それが日本語学習者の場合は、相手の日本人の考え方によっても、受け取り方が違うでしょう。この、敬語に関する最も難しい問題は、この本では扱えません。形の問題だけに話をしぼって、かんたんに述べることにします。
では、以上に紹介した三種類について、もう少しくわしく見てみましょう。なお、敬語を使う対象として「聞き手」という場合、「聞き手の側と見なされる人」を含み、へりくだるべき「話し手」と言う場合は、家族・同じ会社の人・ウチの人」を含んでいます。これは、「やりもらい動詞」で「人称」について述べたのと同じです。
29.2 丁寧語
聞き手に対する丁寧さの表われで、述語を丁寧形にしたり、名詞に「お-」をつけたり、丁寧な副詞を選んだりします。
さて、上にも書いたように、丁寧語の代表は「-ます」と「-です」で、これを使うかどうかによって普通体と丁寧体の二つの文体が区別されます。この違いは日本語を使うすべての場合で重要な区別になっています。文体については、「22.文体」でも述べましたので、もう一度見ておいて下さい。
丁寧体よりももっと丁寧な文体が御丁寧体です。この文体を特徴づけるのが「ございます」という形です。
ここに書類があります ここに書類がございます
この書類です この書類でございます
「あります」の丁寧語が「ございます」、「です」の丁寧語が「でございます」(「であります」の「あります」が「ございます」になったと考えればいいわけです)となります。
これは「書類」に関係する人への敬意ではなくて、もっぱら聞き手に対して丁寧に言うために使われています。この形を使うと、話(文章)の全体に渡って敬語を使い続けなければなりません。
尊敬語や謙譲語は、丁寧体の中で適宜使われます。普通体の中でも、つまり聞き手に対して丁寧な言葉を使わなくていい場合でも、話に出てくる人に対して敬意を表す必要があれば使われます。
それに対して、御丁寧体を使うとすれば、全体を非常に丁寧にしなければなりませんから、敬語をたくさん使うことになり、大変です。日本語学習者は、この文体を習得する必要はないでしょう。理解できれば十分です。
上の例では名詞述語の「です」が「ございます」になっていますが、ナ形容詞でも同じです。
これはとても便利です。→ これはとても便利でございます。
なお、「私が責任者でございます」と言うと、自分を低めているようで謙譲語に見えますが、分類としては丁寧語です。
イ形容詞のご丁寧体の形は[お+イ形容詞+ございます]です。イ形容詞の形の変化が独特です。
-ai→-oo たかい → たこうございます
-ii→-yuu おいしい → おいしゅうございます
-ui→-uu ひくい → ひくうございます
-oi→-oo しろい → しろうございます
「-ei」で終わるイ形容詞はありません。
もう一つ、よく使われる丁寧語は名詞に付ける「お-」または「ご-」です。例えば、「お茶」「お金」というと、言葉が柔らかくなります。これを「美化語」と呼ぶこともあります。
基本的に「お-」は「和語」に、「ご-」は「漢語」に付けられます。
お茶 お金 お酒 お風呂 お天気 お花
ご家族 ご婦人 ご老人 ご近所 ご一緒
もちろん例外があり、「お勉強・お電話・お食事・お会計」など、音読みの言葉に「お」がつくことも多いです。
「お-」の付けられる言葉の範囲は、境界がはっきりしません。場合によって、人によって違うでしょう。とは言っても、付けすぎは困ります。お水、お酒、おビール、おブランデー、おウイスキー、おジン、、、
時を表わす名詞や副詞なども丁寧な言い方のものがあります。
あした:あす、みょうにち
きょう:ほんじつ
あとで:のちほど
すこし:しょうしょう(少々)
御丁寧体ではこれらの語を駆使しなければなりませんから大変です。
29.3 尊敬語
尊敬語は、その文の主体が行う動作・及び状態を敬語で表現することによって、その主体に対する敬意を表すものです。その主体が聞き手であれば、聞き手に対する敬意にもなります。また、主体以外に、能力・所有を表す「Nに」に対しても尊敬語が使われます。
動詞を尊敬表現にするには四つの方法があります。
まずいちばんかんたんなのは、動詞を受身と同じ形にすることです。
書く → 書かれる 出る → 出られる
遊ぶ → 遊ばれる 生きる → 生きられる
する → される 来る → 来られる
敬意を表したい人の動作をこの形にすれば、一応敬語になります。「一応」というのは、この形はあまり敬意が高くないと言われているからです。また、あとで述べる特別な「敬語動詞」のあるものは、そちらを使うのが正式です。
いる → ×いられる → いらっしゃる
もう一つは、「お(ご)-になる」を動詞の中立形につけて、尊敬を表す複合述語にすることです。
読む → お読みになる 利用する → ご利用になる
帰る → お帰りになる 心配する → ご心配になる
この本はお読みになりましたか。
田中さんはもうお帰りになったそうです。
多くの方がすでにご利用になりました。
あなたにはこの点がおわかりにならないようですね。(Nに)
原則的には「お-」は和語、「ご-」は漢語につきます。この形はほとんどの動詞に使えます。響きも柔らかく、学習者に勧めやすい形です。けれども、次のような語幹が一拍(かな一字分の長さ、一段動詞だけ)の動詞はこの形になりません。
射る → ×お射になる 煮る → ×お煮になる
また、次に述べる敬語動詞が存在するものは、この形では使いません。
いる → ×おいになる (いらっしゃる)
言う → ×お言いになる (おっしゃる)
くれる → ×おくれになる (くださる)
そのほか、外来語や擬態語にもつけられません。
×おスタートになる ×おはらはらになる
スル動詞は、「-する」を「-なさる」にするほうが自然な場合が多いようです。
運転する → 運転なさる ×ご運転になる
営業する → 営業なさる ×ご営業になる
[敬語動詞]
日常よく使われる動詞は、その敬語形として特別な動詞があります。
いらっしゃる:いる、行く、来る
おっしゃる:言う
くださる:くれる
なさる:する
(めし)あがる:食べる、飲む
ごらんになる:見る
お休みになる:寝る
知っている:ご存じだ
「いらっしゃる」「めしあがる」のように、いくつかの動詞が一つの敬語動詞にまとまってしまうというのも面白い現象です。「寝る」の場合は、婉曲的
に「休む」を使って「お-になる」の形にします。
[お-V-だ]
もう一つ、尊敬語の形があります。「お-V(中立形)-だ」の形です。
ご主人はお帰りですか?(お帰りになっていますか)
田中さんがあちらでお待ちです。(お待ちになっています)
入場券はお持ちですね。(おもちになっていますね)
何をお探しですか。(何を探していらっしゃいますか)
もうお帰りですか。(もうお帰りになりますか)
こちらをお求めですか。(お求めになりますか)
よいお考えがおありですか。(おありになりますか)
この新聞はもうお読みですか。(お読みになりましたか)
伊藤先生がお着きです。(お着きになりました)
私をお呼びでしたか。(お呼びになりましたか)
文脈によって、「V-る/た」または「V-ている」の意味になります。ただし、このかっこの中の「~た」は過去というより完了、あるいはそれに近いものです。形も短く、敬意も十分で、便利な言い方です。敬語動詞の中にあげた「ご存じだ」も、この「お-」が「ご-」になったものです。
ただ、同じ「-です」の形が、「する/した/している」のどの意味で使われているのか、つまりどんなアスペクトを表しているのかを場面の中で正確に理解することは、学習者には難しいことになるでしょう。
この「-だ」が名詞を修飾するため「-の」になった形もよく使われます。
券をお持ちの方はこちらへどうぞ。
お聞きの通りです。
お探しの物件はこれです。
それぞれ「×探しの物件」などの表現に丁寧の「お-」が付いたものとは言えません。「お探しだ」という形を考えないと説明できない形です。
名詞では、「社長のお子さん」とか「先生のご本」のように「お/ご」を付けて、その名詞の関係者を高める言い方があります。
29.4 謙譲語
謙譲語は話し手自身の動作を低く言うことで、相対的に聞き手または話題の人に対する敬意を表すものです。尊敬語以上に敬意が強く出るといえます。
謙譲語には2種類あります。動作にかかわりを持つ人を高め、話し手を低くするものと、聞き手に敬意を表すために話し手の動作自体を低く表現するものです。
こう言っただけではわかりにくいでしょうが、次の例を見て下さい。
まず先生にお知らせしました。
その現象は私が発見いたしました。
「お-V-する(します)」は「先生」に対する話し手の動作で、それを敬語にすることによって「先生」への敬意を表しています。
それに対して、「V-いたします」は話し手の動作であるというだけで、誰かに対してのものではありません。ここで敬語を使うのは、聞き手に対しての敬意を表すためです。その意味では丁寧語に近いものです。
このように謙譲語は二つに分けられ、理論的にはこの二つを一つのグループとしてまとめる理由はないということですが、教育的には従来どおりに「謙譲語」として扱っていいようです。ただ、「お-V-する」と「V-いたします」の違いと、これから見る敬語動詞の一部にあるこの2種の語の違いはきちんと知っておく必要があります。
「お-V-する」は、動詞の補語「Nを」「Nに」となる人に対する動作に付けるのが基本です。上の例では「先生に知らせる」でした。もう少し例をあげておきます。
「Nを」 お誘いする お待ちする お招きする お呼びする
ご案内する ご招待する
「Nに」 お送りする お教えする お返しする お貸しする
お断りする お知らせする お勧めする お尋ねする
お届けする お願いする お話しする お見せする
ご挨拶する ご紹介する ご相談する ご返事する
お電話する お約束する
このほかにも多くの動詞があります。
「Nから」の例として、「お預かりする」「お借りする」などがあります。また、補語ではないのですが、「Nのために」と考えるしかないものとして、
お調べする お引き受けする お持ちする ご用意する
などがあります。
先生の荷物をお持ちしました。
宿泊券をご用意しました。
「V-いたします」はスル動詞だけに使われます。
製品を慎重に検査いたします。
それを聞いて、納得いたしました。
非常にびっくりいたしました。
ただし、「愛する」「接する」などの漢字一語のスル動詞はだめです。
上の例を見てもわかるように、かなりかしこまった、硬い表現です。
「V-いたす」という普通体の形はほとんど使われません。聞き手に対する敬語なので、常に丁寧体以上の文体で使われるからです。聞き手のいない、日記などでは使われないでしょう。それに対して、「お-V-する」のほうは、日記でも使うことがあります。
[敬語動詞]
謙譲語にも尊敬語と同様に特別な敬語動詞があります。
おる:いる
まいる:行く、来る
伺う:訪ねる
伺う:聞く
いたす:する
申す、申し上げる:言う
いただく:食べる、飲む
いただく:もらう
差し上げる:あげる
拝見する:見る
存じる、存じ上げる:知る
これらの語が、先ほどの謙譲語の2種類のどちらに属すかわかりますか。
私はここにおります。
電車がまいります。
それは私がいたします。
田中ともうします。
いただきます。
いいえ、存じません。
以上が、聞き手に対する謙譲表現です。そして、以下のものが補語などの人物に対する敬意を示す謙譲表現です。
明日お宅に伺います。
ちょっと伺いますが、・・・
その件は部長から伺いました。
私から申し上げます。
田中さんからいただきました。
佐藤さんに差し上げます。
お写真を拝見しました。
お名前は存じ上げています。
特に、「申す・申し上げる」、「存じる・存じ上げる」の違いに注意して下さい。
29.5 その他の問題
29.5.1 複合述語の敬語
「いる」などが補助動詞となった場合のことを見ておきます。基本的には本動詞の場合と同じです。例えば、「V-ている」の尊敬語は「V-ていらっしゃる」、謙譲語は「V-ておる」でいいわけです。
田中さんは新聞を読んでいます。
田中様は新聞を読んでいらっしゃいます。
私は新聞を読んでおりました。
「V-ておく」は「V-ておかれる」、「V-てみる」は「V-て御覧になる」となります。
もう一度試しておかれたほうがよろしいでしょう。
もう一度試して御覧になりませんか。
可能表現は、動詞を尊敬表現にした後で可能形にすればうまくいきます。
書く → お書きになる → お書きになれる
発表する → ご発表になる → ご発表になれる
受身形が敬語になる場合はどうでしょうか。「ほめられた」を尊敬語にしたいとすると、「?おほめられになった」とすることになりますが、どうも変です。もちろん、「×ほめられられた」というのは論外です。
「高く評価された」なら、「高い評価を受けられた」のように機能動詞を使った表現にして、尊敬語化することができます。
複合動詞の尊敬語は複雑です。「V-はじめる」のようなアスペクトを表す複合動詞の場合、言い換えれば、後項が補助動詞に近い場合は、
お読みになり始める お読みになり続ける
のように、動詞を尊敬語にしてから後項動詞を付けます。
逆に、複合動詞がより強く一語化している場合は、
お受け取りになる お立ち寄りになる
などのように、複合動詞全体を尊敬表現にします。
また、なぜか敬語表現にしにくいものもあるようで、学習者は不用意に複合動詞の尊敬語を使わない方がいいようです。
?お使い慣れになる
?先生はその先をお読み進めになった。
先生はその先を読み進められた。
人によって語感が違うでしょうが、どうでしょうか。
29.5.2 二重敬語
二重敬語というのは、一つの動詞を二重に尊敬語化することです。
読む → 読まれる → お読みになられる
二重敬語は避けた方がいいと言われます。ただし、次のようなものは二重敬語ではありません。
お読みになっていらっしゃいます。
これは「読んで」+「いる」のそれぞれを敬語化したものですから、「一つの動詞」を「二重に」敬語化したわけではありません。
召し上がって御覧になる
などもそうです。
「お召し上がりになる」は二重敬語ですが、すでに使用が定着しているとのことです。
29.5.3 マイナス敬語
他者に敬意を表すのではなく、逆に軽蔑を表すような表現があります。代表的な例は「V-やがる」です。
馬鹿なことしやがって。どうしてくれるんだ!
つまらねえこと言いやがるからぶん殴ってやった。
後の例の「V-てやる」も、授受表現が表すはずの「恩恵」の裏返しの表現としてよく使われます。その動作の向かう相手に対する対立的な態度を表します。
29.5.4 「あなた、いらっしゃる?」という言い方
女性の話し方で、聞き手の動作について敬語を使いながら、文体は普通体を使うという言い方があります。敬語を使って丁寧な表現にしておいて、しかし「いらっしゃいます(か)」という言い方のよそよそしさ(親しみのなさ)を避けようという、なかなか微妙な用法です。
これ、召し上がる?
敬語動詞の命令形も使われます。
はい、どうぞ召し上がれ。
参考文献
次の本がわかりやすく、優れた解説になっています。
菊地康人1996『敬語再入門』丸善
菊地康人1994『敬語』角川書店
窪田富男1990,1994『敬語教育の基本問題(上)』『同(下)』国立国語研究所
窪田富男1993「敬語動詞の状態性と動作性」『松田徳一郎教授還暦記念論文集』研究社
滝浦真人2002「敬語論の”出口”-視点と共感と距離の敬語論に向けて」『日本語学』5月号別冊明治書院
中西久実子1995「オ・ゴ~ニナルと~レル・ラレル」宮島他編『類義下』くろしお出版
日高水穂1995「オ・ゴ~スル類と~イタス類と~サセテイタダク」宮島他編『類義下』くろしお出版