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A recollection with you

澪標 夜も朝も

2025.10.04 08:15

始まりは、いまよりずっと寒い夜だった

そこに居合わせただけの、偶然の関係だった

お互いに抱えた夜を共有していくうちに

夜は、ただ暗いものではなくなっていった

しばらくして、

日のあたるときも一緒にいるようになって

いつも温かいばっかりじゃなかったけど

それでも僕は、君という大切なひとに

毎日のように恋をして、愛している


晩ごはんが早かった君と

晩ごはんを何故か食べられなかった僕は

夜食と晩酌を兼ねることにした


どうしてひとりだと、食べる気になれないのか

あるいは適当にしてしまうのか

自分のことの癖に、未だによくわからない


和えるパスタを2種類つくって

秋の紅茶で、お互いを労うように乾杯をする


「きょうも、お疲れさま」


カップが軽快な音を立てる

今夜は、ソロ活について話すことになった


君は大学の講義を思い出しながら、僕に説明してくれる

「いまの私の生き方をつくってくれたんですよね」

「そうなんだ」

「ずっと、小説家になるんだって入った大学で、

 社会学に惹かれて、いろんな講義を受けました。

 その中でも、印象的だったんですよね」

僕は勝手にやっていたことだから

学びを通して取り組むこと自体が新鮮だったし

君らしいやり方だとも思った

「同期に勧めもあって、いろんなところに行きました。

 まあ、1回だけのところも多かったですけど」

こういうのは、いきなり身につくものじゃない

大人になる前に、知れたのは良かったのかも知れない


紅茶を飲みきって、お酒に移る


トニックを開けてしまっていたから

1杯目は、桜尾でジントニックをつくった

早々(はやばや)とグラスを空けるのは

よくないと分かってはいるけど

美味しいと、ついペースが上がってしまうのは

仕方ないかもしれない

作り立てのさつまいもと梨のサラダを挟みながら

2杯目のホワイトレディーをゆっくり嗜む


ベン・E・キングがしっとり染みてきたころ

唐突に君が零していった


「貴方との夜に留(とど)まっていたいよ」


返事をし損ねた代わりに、さっと書き取った

「あ〜、またメモしてますね」

「そりゃするよ」

忘れたくないからなのは、言わなくても伝わっている

「貴方の詩、楽しみにしてるんですよ」

「嬉しいね。ありがとう」

君が読んでくれるから

この先、どんなことも物語になる


そのままベッドに入ってしまって

いつの間にか迎えた朝のこと


「貴方の形がする」


僕を抱き締めながら

また君が言葉を置いていった


こういうところなんだよなあ


僕が日々を書き留める詩人なら

さしづめ、

君は日々、喋り零していく吟遊詩人だろう


「ねえ。僕は、こんなに愛されてていいのかな」

「貴方が愛されちゃいけないなんて、ないです」


いつだったか、僕に安心して愛されてればいい

なんて臭い台詞を言ったけれど

当の君は、貴方は愛されてていいんです、とは言わない

かえってそれは、君にしかできない言い回しだった


好きだなあって、しみじみ思った


—澪標 夜も朝も—