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niwa saburoo の日本語文法概説

53. 程度

2019.02.24 01:38

       53.1 程度:ほど・くらい    

       53.2 比較:より・ほど    

       53.3 限定:だけ・ばかり・しか


53.1  程度:ホド・クライ

「程度」は、前の「様子」に近いものですが、主節の述語に対して連用節が述語の程度を表わすものです。単文での程度の副詞に当たります。「ほど」と「くらい(ぐらい)」を使います。「ほど」「くらい」が名詞などをうける用法は「18. 副助詞」で扱いました。ここでは述語をうける用法を見てみます。


53.1.1 ホド・クライが交換できる場合

 「ほど」と「くらい」が交換可能な用法があります。形容詞や動詞によって表される状態の程度を「V-ほど/くらい」が示します。「非常に~」であることを、印象的に、多少極端な言い方で表します。この「V」の内容は、実際のことである場合と、単なるたとえの場合があります。否定形も受けられます。

 まず、文末の述語を修飾している例から。

     あの映像は悲しくなるほど/くらい 美しい。

     歩けないほど/くらい、酔ってしまった。

     このテーブルは10人でも持てないほど/ぐらい 重い。

     ここのラーメンは新聞にも載ったほど/くらい 有名だ。

     殺してやりたいほど/くらい 憎い。

     日曜にも働かなければならないほど/くらい 忙しい。

     死ぬほど疲れた。(×死ぬくらい)

 初めの例で「あの映像が美しい」程度は、「あまり美しくて悲しくなる」ということになる・・・(ここでどうしても「ほどだった」と言いたくなるところです)レベルだった、ということです。「死ぬほど」は慣用的な表現として固定しているようで、「くらい」では言えません。「くらい」のほうが「ほど」より少し話しことば的です。

 「しそうだ」「V-かもしれない」を受けることができます。

     うちの子は将棋が好きで、もう私も負けそうなほど強くなった。

     私たちにも買えるかもしれないくらい安くなってきました。

 「~だろう」「~らしい」は使えません。

 あとに「に」をつけて、「V-ほどに」「V-くらいに」とすることもできます。そうすると少し重々しい感じがします。

     疑問語は、「どれ/どの くらい」「どれほど」です。

     その恐竜はどのくらい大きかったんですか。

 この用法の「ほど」と「くらい」はお互いに入れ換えることができます。以下の例でも同様です。

 次に、文末以外の位置にある述語を修飾する場合の例。

     びっくりするほどきれいに撮れた。(びっくりするくらい)

     知らない人はないほど有名な話だ。

     向こう岸が見えないくらい広い川だ。

     やめたくなるくらいきつく、つらい仕事です。

     いやになるくらい面白くない映画だった。

     一つもできなかったほどむずかしい試験だった。

最初の例で「びっくりするほど」が修飾している「きれいに」は、それ自体が「撮れた」の修飾語になっていますが、「びっくりするほど」の修飾語という役割は変わりません。修飾語の修飾語になっています。

この「ほど」「くらい」は「だ」をつけて文末におくこともできます。

     あの映像は(とても)美しくて、悲しくなるほどだ。

     酔ってしまって、歩けないほどだった。

     箱は重くて、一人では持てないくらいだった。(~くらい重い)

     その苦しさは、耐えきれないほどだった。(~ほどの苦しさだった)

 上の三つの例は「~て」の形を受けています。「原因」の「~て」です。「~ので」でも言えますが、二つの節の関係が直接的なので、「~て」のほうが自然な感じがします。 

 最後の例は名詞を受けていますが、「苦しさ」は「苦しい」と同じようにその程度を考えることができます。

 また、「~ほど/くらいのN」の形にもなります。

     食べきれないほど/くらい の食べ物

 この場合はもちろん「食べきれないほどたくさんの」という意味合いです。

     息苦しくなるほどの映像美   (~ほど美しい)

     一人では持てないほどの重さ

     向こう岸が見えないほどの(広い)川

 この「広い」は省略できます。「~ほどの川」だけで、広さが問題になっていることがすぐに了解できるからです。また、「~ほど広い川」でもいいわけです。

 「~だ」が「~になる」になる例。

     コートが要らないぐらいになった。(~ぐらい暖かくなった)

     枝が伸びて、屋根に届くほどになった。(~ほど長くなった))

 それぞれ、「暖かく」「長く」の省略と考えられます。


[N/V ほど/くらい ~Nはない]

 他にないのですから、「いちばん・・・だ」という意味を表します。

     この湖ほど美しいところはない。

     この問題ほど難しい問題はない。

     あいつをだます(こと)ぐらい/ほど 簡単なことはない。

 「こと」が入れば名詞節を受けることになります。


53.1.2 ホド・クライが交換できない場合

 さて、「ほど」と「くらい」の言い換えのできない場合があります。

[ホド]

     プロと比べられるほど上手ではありません。

    ?プロと比べられるくらい上手ではありません。

     プロと比べられるほど/くらい 上手です。

「くらい」はどうも安定しません。単に否定だからだめだということでもありません。

     食べる物が買えないほど/くらい お金がなかった。

     皆が途中で帰ってしまうほど/くらい つまらない講演だった。

言いかえられる例では「Aほど/くらいB」のAとBの関係は「BだからA」という関係です。

     お金がない→食べ物が買えない

     つまらない→帰ってしまう

 それに対して、上の言いかえられない例は、

     上手ではない→プロと比べられる

となりません。否定をAとBの関係の外に出して、

     [上手だ→プロと比べられる]ではない

と考えればいいわけです。もとの文に戻して、

     [プロと比べられるほど上手]ではありません。

のような構造だと考えられます。

     ヨットが買えるほどお金持ちではないよ。(×くらい)

     ヨットが買えるほどのお金はないよ。(?くらいの)

     僕のお小遣いで買えないほど高くはなかった。(×くらい)

     どうしても結婚したいというほど愛してはいなかった。(×くらい)

 「ほど」を文末に移した例。

     速いといっても、入賞するほどではなかった。(×くらい)

 次の例も「くらい」では言えません。

     君が言うほど難しくなかったよ。  

    ×君が言うくらい難しくなかったよ。

 修飾される述語を肯定にすると、「ほど」でも変です。

    ×君が言うほど難しかった。

「難しい」程度は「君が言う(言った)」では示せません。これは否定と共に使われる「ほど」で、「比較」に近い文型です。

 上でも簡単に述べましたが、これまで多く見てきた「ほど・くらい」の言い換えのできる例の場合は、

     びっくりするほど難しかった。

のように、「AほどB」のAとBの関係は、

     とてもBなので、Aするほどだ

となり、AはBの程度を強く印象づける内容になっています。

 しかし、この用法は、A程度をかなり高いものとして予想した上での表現で、実際にはBはその程度まで届かない、という否定的な内容です。

     政府が繰り返し強調したほど重大な問題ではなかった。

     行く前に想像したほどは大きくはなかった。

     現地へ行ってみると、言われているほど汚染は進んでいなかった。

 これらはそれぞれ、

     政府が繰り返し「重大だ」と強調したほど~

     行く前に「大きいだろう」と想像したほどは~

     「汚染がひどい」と言われているほど~

というようなことが前提になっています。「ほど」の前の動詞は言語・心理関係の動詞で、「引用」のできる動詞です。(→「58. 引用」)実際に知る前に「程度が高い」という予測があったが、実際はそうではなかった、というのがこの用法です。

 単文の比較の文型で、

     AはBほど大きくない

というとき、Bはある程度「大きい」ものであるのと並行しています。

 「君が言うほど~」の例も、

     君が「難しいぞ」と言う(言った)ほど難しくなかった。

と考えられますが、「言った」を「言う」で言えるのは、この動詞の特性です。

 「見る」は引用の動詞ではありませんが、「~を~と見る」という文型になる動詞です。

     この仕事は、はたで見るほど楽じゃないよ。(×くらい)

    (周りの人が、この仕事を「楽だ」と見るほど、楽じゃない)


[クライ]

 次に、「くらい」のほうが自然な例。「最低」を示す「くらい」は「ほど」では言えません。

     ここに入っちゃいけない(こと)ぐらい知ってるでしょう?

     入賞したぐらいで喜んではいけない。

     休みの日でも警備員をおくぐらいできるだろう。(ぐらいのことは)

     彼女じゃあ、即席ラーメンを作るくらいが関の山だ。

     ちょっとビールを飲むくらい、いいじゃないか。

 「~ことくらい」または「~くらいのこと(+助詞)」でも言えます。前者は「名詞節+くらい」で、つまりは「Nくらい」と同じことになります。

     市の大会で入賞するぐらい、大したことじゃない。

「入賞することは大したことではない」という意味ですが、

     市の大会で入賞するほど、大したことじゃない。

とすると、「このこと(何かはわかりませんが)は、市の大会で入賞することほど素晴らしいことではない」という、まったく違った意味になります。

 また、「ちょうどその分くらい」という意味の場合も、「ほど」では言いにくいか、「ほど」で言うと意味が多少変わってきます。

     この小さな店がちょうどいっぱいになるぐらい、客が来た。

     車ならちょうど10分かかるくらいの距離だ。

     「会費はどのくらいになりそうですか」「そうですねえ。1万円でお釣りがくる

     くらいです」

 「ほど」の「君が言うほど難しくなかった」に対応する「くらい」の例。

     ちょうど君が言っていたくらい難しかったよ。

     ちょうど君が言っていたくらいの難しさだったよ。

 「君が『このぐらい難しい』と言っていた」のと同じくらい難しかった、という意味です。なぜか名詞文にしたほうが安定した感じがしますが。

 

[~ば~ほど]      

 「ほど」は「AばBほど」の形で、Aの程度が上がるに従って、Bの程度も上がることを表す文型に使われます。「Aば」が省略された形でもよく使われます。

     飲めば飲むほど、体が軽くなる。

     安くなればなるほどたくさん売れる。

     南へ行くほど暖かくなる。

大きいほどいいんですが。 (大きければ~)


53.2  比較:ヨリ・ホド

単文の「17.比較構文」のところでも述べたように、そしてすぐ上でみた、「ほど」「くらい」の用法の広がりを見てもわかるように、程度と比較は関係の深いものですので、程度の連用節に続けて比較構文をとりあげることにします。

 比較構文で名詞が入るところに節を入れることができます。これは名詞節の一つの用法と考えることもできますが、「の」も「こと」も使わず、述語に直接「より」が接続できるところに特徴があるので、名詞節とは別にしておきます。まず、動詞が入る例から。「AよりBほうが」または「BほうがAより」の形。

     渋滞すると、車より自転車のほうが速い。(名詞の例)

     渋滞すると、車に乗っているより降りて歩く/歩いた ほうが速い。

     店で買うより自分で作る/作った ほうが安く上がる。

     でかけるより家で寝ている/いた ほうが楽だ。

     手紙を書くより電話する/した ほうが時間の節約になる。  

     ワープロを使うほうが手で書くよりかえって時間がかかるよ。

     手で書くよりワープロを使ったほうがきれいに書けるよ。  

     宗教の教えは、人を生かすより殺すほうが多い。(×殺した)

     車を買うほうが免許をとるよりやさしい。(×買った)

     離婚するほうが結婚するよりはるかに難しい。(×離婚した)

 単文では、「NよりNのほうが」という形でした。節が入ると、

     A(現在形)より B(現在形/過去形)ほうが~

となり、Bの現在形と過去形は多くの場合入れ替え可能です。ただ、過去形のほうが仮想的で、「望ましいこと」という意味合いがあり、「忠告」の「V-たほうがいい」に近くなります。

 「望ましい」という意味合いがない、「生かすより殺すほうが」以下の例では「殺したほうが」は言えません。もちろん、それぞれの動詞が過去形にならないということではありません。

     むだに苦しませるより、早く殺したほうが動物にとってもいいんだ。

     離婚したほうが、憎み合って暮らすよりずっと精神的にいいさ。

 「AはBより」の形。Aは「~の/こと」の名詞節になります。

     失敗から学ぶことは、たまたま成功してしまうより価値がある。

     車を買うのは、免許をとるよりやさしい。 

     離婚するのは結婚するよりはるかに難しい。

「どちら/どっち」による疑問文は「~の/こと」名詞節を使います。

     車に乗るのと、歩くのと、どちらが好きですか。

     でかけるのと、家で寝ているのと、どっちがいい?

     人を疑うことと、信じることとでは、どちらがより難しいことだろうか。

節内の述語が動詞以外の例。ナ形容詞では「である」または「なの」を使います。名詞述語は「である」を使います。「こと」を入れれば名詞節となり、

単文の比較構文と同じになります。

     女性は美しいよりやさしいほうが私には望ましい。

     男性にとって、妻がきれいであるより性格がおだやかなほうが重要なことだ。

     病気で暇(なの)より、元気で忙しいほうがいい。

     安い(こと)よりおいしい(ことの)ほうが大事(なこと)だ。

     この車は、音がうるさいことより排気ガスが多いことのほうが大きな欠点だ。

      cf. この車は、その大きさより燃費の悪さが大きな欠点だ。

     忙しい金持ちであるより、暇な貧乏人であるほうがいい。

     私は指導者であるより、一市民として参加したい。

 これまでの例とはちょっと違った形の例文を少しあげておきます。主節の述語や節の助詞が違うものです。

     給料を上げることより、休暇を増やすこと(のほう)を要求した。

     初任給を上げるより、休暇を増やすことで大学生を引きつけた。

     自分で努力することより、幸運に恵まれることに頼っている。

     夫の死を嘆き悲しむより、子どもを育てるのに忙しかった。

     私は、腹を立てるよりもあきれかえってしまった。

     うちへ帰るよりもまず一杯だ。

     手で書くより、ワープロで書くといいよ。

     人に頼るより、自分でやってみることを考えたらどうだ。

     話を聞くより、ただ相手の顔を見てばかりいた。

 最後のほうは、「~より」があるだけで、比較の文型とは呼びがたいものです。

 否定は「名詞節+ほど」を使います。      

     禁煙を始めるのは、続けることほど難しくない。何度もやった。

     冒険をして失敗することは、恐れて何もせぬことほど悪くない。

     子どもを育てるのは、子供を作ることほど簡単ではありません。

次の例は、前にとりあげた「程度」の例です。比較ではありません。

     車を運転するのは、思っていたほど難しくなかった。

     何事も実行するのは口で言うほどやさしくない。   ?

 「より」を使うこともできます。「こと」はなくてもかまいません。

     三日後の天気を正確に当てることは、ロケットを月に当てるより難しいのです。

 比較で「同程度」を表すには、名詞節にしてしまって、

     山道を降りるのは、登るのと同じくらい注意が必要だ。

のように、

     ~の/こと は ~の/こと と同じくらい~

という形にします。

 これは単文の比較表現の、

     AはちょうどB(と同じ)くらい難しい。

     AはちょうどB(と同じ)くらいの難しさだ。

に対応する文型です。


53.3 限定

 単文の「18.副助詞」で取り上げた「だけ・ばかり・しか」が述語を受ける用法を見てみましょう。基本的な意味は「限定」です。連用節としての用法だけでなく、「~だ」の形で文末に来る用法、つまり助動詞的な用法もここでみていきます。


53.3.1 だけ 

①「~だけだ」

 「Nだけ」の一つの意味は、述語の表す意味に該当する名詞はこのN以外にない、というような意味でした。「~だけだ」の形で述語を受ける場合も、基本的には同じです。事柄の描写として正しいのはこの述語以外にない、という意味を表します。「~だけで、~」の主節は、否定的とは限りません。   

     新幹線なんて速いだけだ。

     眠いので寝ていただけです。病気ではありません。   

     この辞書は厚いだけで、内容はさっぱりだ。

     時々会議に出るだけで、外には何もしなくていいんですよ。

     参考書を買ってきただけで、ぜんぜん読んでいない。

     漢字がいくつかわからないだけで、内容は全部わかりました。

 な形容詞は連体形の「-な」を使います。

     デザインがちょっと変なだけで、性能は最高だ。

 名詞節の「~こと」ももちろん受けられます。

     私の今日の仕事は会議に出席することだけです。

主節は、推量や命令や意志を表すこともできます。

     あいさつがちょっとあるだけで、あとは気楽な会になるだろう。

     おもちゃは見るだけで帰ってきなさい。買っちゃだめよ。

     彼女と週に一度会うだけで我慢しよう。毎日会ったら勉強できない。

 「Aだけでなく、B」の形で、もう一つの述語も成り立つことを表します。

     この部屋は明るいだけでなく、風通しもいいね。

     このリンゴは形が悪いだけじゃなくて、味も悪い。買って損した。

     見舞いに来ただけでなく、仕事の話を持ってきてくれた。

     ただ量を走るだけでなく、フォームを考えて走りなさい。

 最初の二つの例は、類似のことを単純に並べただけなので「~し、~」に置き換えられます。主節のほうに「Nも」が現れています。最後の例は述語は同じ「走る」ですが、修飾語の内容が違います。「だけでなく」で否定されているのは「量を(走る)」です。これは「~し、~」では言えません。また、主節に命令や意志の表現を使うことができます。

 「だけだ」の「だ」が他の形になり、他の文型との組み合わせもいろいろできます。

     見るだけの客

     行って帰ってくるだけの仕事 

     安いだけなら、ほかにもある。

     安いだけでは、売れない。

     試合に出られただけで十分です。(~で十分だ)

     一度失敗しただけだろう?まだまだこれからだよ。

     口で言うだけならかんたんだ。

     ちょっと顔を出してくれるだけでもいいんだけどなあ。

     叱るだけじゃダメだ。たまにはほめてやらないと。

 「V-だけにする」という表現もあります。

     今日は仕事の手順を決めるだけにして、作業は明日からにしよう。

     今回は会って話すだけにしよう。取引は別の機会にしたい。。

慣用的な表現で、「~だけがNだ」という言い方があります。

     足が速いだけがあいつの取り柄だ。

     おまけが付いているだけが魅力のお菓子だが、子供は欲しがる。

     大きいだけが売りものの冷蔵庫だね。工夫がないね。


②「~だけ、~」

 「Nだけ」のNが分量の時、「ちょうどその分」という意味がありました。「それ以上ではない」ということですが、否定的な評価はありません。述語を受ける場合にも、同じような使い方があります。「ちょうどその分」です。

     テレビも見られるだけ、こっちのパソコンのほうが得だ。

     そう言われるだけ、評価されているということだ。

     相手にしてくれるだけいいよ。僕は相手にもされなかった。

     角が丸くなっただけ、持ち運びに便利な形になった。

     ここにあるだけ、全部使ってしまおう。

     まだ余力を残しているだけ、こちらに勝ち目がある。

 同じ動詞が「だけ」の前後に使われる形があります。最大限という意味合いになります。前の動詞が可能形や「V-たい」の形をとることが多いです。 

 「のこと+助詞」が「だけ」の後ろに入ることもあります。

     手に持てるだけ持った。

     やれるだけ/できるだけ(のことを)やってみろよ。

     言いたいだけ言えばいいさ。

 次は「最大限」ではなく、「ちょうどその分」です。

     こんな本でも、出せば出しただけの価値はある。

     やるだけ(のこと)はやった。

 違う動詞の例。

     カバンに入るだけ詰め込んだ。

     欲しいだけあげるよ。

     要るだけ持っていっていいよ。

 後の動詞が「V-てみる」になる場合も多くあります。こちらは最低限です。ただし、否定的な意味合いはありません。

     会うだけ会ってみてください。

     どんなものか、見るだけ見てみよう。

     話を聞くだけ聞いてみよう。

     一応、見るだけは見たけどね。あまり大したことはないね。

 「V-ばVほど」の文型の「ほど」のところに「だけ」を使ってほぼ同じ意味を表すことができます。

     やればやるだけ上手になる。

     使えば使うだけ少なくなる。


[~だけに/だけあって]

 「18.副助詞」でも「Nだけに/だけあって」の形を出しましたが、それが節を受ける例です。

 「AだけにB」は、特徴のあるAという事実から、当然の結論としてBという判断が出てくる、という意味を表します。「~からこそ」にほぼ置き換えられます。

     話が急に決まっただけに、準備が大変だ。

     なかなかおいしかっただけに、閉店とは残念だ。

     あと少しで同点、というところだっただけに、惜しかった。

     内情を知っているだけに、批判はしにくい立場だ。

     最重要の課題であるだけに、慎重な対応が必要だ。

同じ名詞を繰り返して、「NがNだけに」という形で、「そのNが特別なNだから、当然~」という意味を表します。

     昨日の事件は起きた場所が場所だけに、日本中の注目を集めている。

     この映画は、主役が主役だけに大当たり間違いなしだ。

 「~だけあって」は、あるNに関して、その程度が高いことを予想させる評判や様子があることを示し、主節のほうは実際にその通りであることを表します。「~だけのことはある/あって」の形も使われます。「さすが(に)」がよく一緒に使われます。

     この画家はさすがに有名なだけあって、高い値段が付いているね。

     偉そうなことを言っているだけあって、確かに実力はあるねえ。

     さすが才能のある作家が長い年月をかけただけあって、いい作品だ。

     なるほど、自慢するだけのことはある。最高にうまいラーメンだ。


53.3.2 ばかり  

 基本的には「だけ」の①と同じような用法です。「~ばかりだ」はそれ以外のことが起こらない、という否定的な意味を表します。「~ばかりで、~」の形も多いです。その場合、主節にも否定的な内容が来ます。過去形・否定形は使いません。

     単身赴任の日曜日、ただ家族のことを思うばかりだ。

     彼は文句を言うばかりで、ちっとも仕事をしない。

     シルクロード。ただ砂漠が広がるばかりだったが、感動した。

     こうなったら、後はひたすら祈るばかりだ。

     ただ見ているばかりで、何もできなかった。

     これは安いばかりで、性能は良くない。

     楽な仕事だけれども、退屈なばかりでいやになってきた。

 主節に命令や意志などは来ません。推量は使えます。

     どうせ人が多いばかりで、面白いことはないだろう。

    ×ちょっと見るばかりで、すぐ帰ってきなさい/来よう。(○だけで)

 「~ばかりでなく」の形があり、「~だけでなく」とほとんど同じ意味で使われます。「~ばかりか」の形でも同じ意味で、少し書きことばです。いいことにも悪いことにも使えます。主節に「Nも」がよく使われます。

     この果物はおいしいばかりでなく、香りもいい。

     いつも顔を出すばかりでなく、必ずおみやげを持ってくる。

     彼女は、テニスが得意なばかりか、スキーも一級の腕前だ。

     顔を出さないばかりか、電話もしてこない。

 「~ばかりが(~ない)」の形もよく使われます。あとに否定的な内容が来ます。「~だけが」に置き換えられます。

     早いばかりがいいとは言えない。 

     目立つばかりが個性じゃない。

     このトランクは大きいばかりが取り柄で、かさばって困る。

 「V-ばかりだ」はいくつかの意味があります。前に「24.10 V-たばかりだ」という文型をとりあげました。それと形の上で対応する「V-るばかりだ」には、3つの用法があります。

 まず、最初に出した「~だけだ」に近い意味のもの、次に、ある方向への変化ばかりが起こる、という用法があります。悪いことが多いようです。

     毎年、トシと体重が増えるばかりだ。

     考えれば考えるほど、わからなくなるばかりだ。

     この地区の人口は減って行くばかりで、高齢化が進んでいる。

 もう一つの用法は、「外の準備は終わって、残っているのはこのことだけだ」というような意味を表します。あまり多くは使われません。

     準備は全部終わって、後は始めるばかりだ。

     留学の手続きをみなすませ、後は出発の日を待つばかりだ。

     豪華な料理が並べられ、乾杯の合図を待つばかりになっている。

 「~ばかりに」の形で「理由」を表す用法は「50.8.1 ~ばかりに」で説明しました。「そのほかのことのためでなく」というような意味合いが、限定と関係するのでしょう。

 「V-てばかりだ/ている」という形もありました。これも「外のことはせずに」という限定の意味合いがあります。「44.2(複合述語と)他の要素との関係」というところでかんたんに触れました。

 最後に、ちょっと特別な形で「V-んばかりに」というのがあります。大げさな、古い言い方という感じがします。この「ん」は否定の「ぬ」で、「V-ぬばかりに」でも使われます。動詞の形は「V-ずに」の場合と同じです。

「ほとんどそれに近い状態だ」という意味です。

     まるで「お前のせいだ」と言わんばかりの言い方だった。

     その時、核弾頭ミサイルはまさに発射せんばかりになっていた。


53.3.3 しか

 「動詞+しか」の形は用法の狭いものです。他に取り得る選択肢がない、という場合に使われます。文末の否定は「~しかない」または「~しか~Nがない」という形になります。       

     もう会社をやめるしかなかった。

     ただ謝るしか(しかた/方法 が)なかった。

     その山道を行くしか逃げる道はなかった。

 次の例は、「人に頼ることを考える」という「~こと」の名詞節を使った文に「しか」を使っただけで、ここで取り上げた「動詞+しか」の例とは違う文型です。

     彼はいつも人に頼ることしか考えない。



[参考文献]

野田時寛2001「複文研究メモ(5) 程度・比較構文」『中央大学論集』22

井本亮1999「「ほど」構文の解釈と主文の有界性について-述語動詞句の動詞分類を中心に-」『筑波日本語研究』4

井本亮2000「連用修飾成分「ほど」句の用法について」『日本語科学』8

安達太郎2001「比較構文の全体像」『広島女子大学国際文化学部紀要』9