相続と配当金の関係|配当がいつ確定したかで法務・税務の整理が変わる
配当金の扱いは、亡くなった日が配当の基準日・効力発生日・支払開始日のどこに入るかで4つに分かれ、相続税で何を財産とするか、所得税で誰の配当所得になるか、遺産分割で誰が取得するかが変わります。とくに配当期待権(基準日の翌日から効力発生日までに亡くなった場合)は、遺産分割協議書で取得する人を決めておくのが確かです。
株式相続では、配当金がいつ確定していたかによって、法務・税務の整理のしかたが変わります。同じ「配当金」でも、亡くなった日が基準日の前か後か、配当の効力発生日の前か後か、支払開始日の前か後かで、扱いが違うのです。
この記事では、配当期待権・未収配当金・未受領配当金の違いを、日付の流れに沿って、相続税・所得税・遺産分割の3つの面から整理します。たとえば、次のような疑問に答えます。
- 亡くなったとき、株式の配当金はどうなるのか
- 配当金は誰が受け取ってよいのか、相続人で決めてよいのか
- 相続税の申告で、配当金はどう扱うのか
配当金の受取りの手続きは入口の記事で、遺産分割協議書の条項の書き方は名義変更の記事で、それぞれ整理しています。
この記事の内容
・なぜ日付で整理するのか
・言葉の整理 3つの配当金
・Case A 基準日前~基準日当日(例:3月31日まで)
・Case B 基準日の翌日~効力発生日(例:4月1日~6月26日)
・Case C 効力発生日の翌日~支払開始日の前日(例:6月27日~6月30日)
・Case D 支払開始日以降(例:7月1日以降)
・遺産分割協議や目録では何を書いておくと安心か
・日付で区分は決まります。止まるのは、配当の取り手を決めていないとき
・株式相続の記事は、進む順に並んでいます
・司法書士からのアドバイス
なぜ日付で整理するのか
配当金は、いつ亡くなったかによって、株式に含まれるものとして考えるのか、配当期待権なのか、未収配当金なのか、未受領配当金や預金として考えるのかが変わります。
ここでは、基準日を3月31日、株主総会を6月25日、配当の効力発生日を6月26日、支払開始日を7月1日(配当金領収証で受け取る場合)として、日付の流れを整理します。
区切りになるのは、株主総会の日ではなく、配当の効力発生日です。
効力発生日は、配当を決める株主総会などの決議の中で定める日です(会社法454条1項3号)。決議日とずれることがあるので、株主総会の招集通知や決議通知で確かめます。下の図は、亡くなった時期ごとに、相続税・所得税・遺産分割での扱いを並べたものです。
- Case A(3月31日まで):配当期待権はまだなく、別に評価しない。そのあとの配当は相続人の配当所得。相続開始後の配当を誰が取得するかは、裁判例が分かれる
- Case B(4月1日~6月26日):配当期待権。相続税は予想配当額(源泉徴収後)。配当所得は相続人(効力発生日の当日に亡くなった場合は個別に確かめる)。配当期待権の帰属を協議書に明記しておく
- Case C(6月27日~6月30日):未収配当金。相続税は確定した配当額(源泉徴収後)。配当所得は亡くなった方。原則として相続分に応じて当然に分かれ、まとめるなら全員の合意
- Case D(7月1日以降):未受領配当金か、入金済みの預金。相続税は受け取れる額か預金残高。配当所得は亡くなった方。未受領配当金はCと同じ、亡くなる前に入金済みの預金は遺産分割の対象
ここでの整理は、配当金についてのものです。上場株式そのものの遺産分割は、別に考えます。いつの株価で考えるかは、次の記事で整理しています。
上場株式の相続は「いつの株価で考えるか」が大切です|相続税評価と遺産分割の違い
言葉の整理 3つの配当金
- 配当期待権:基準日の翌日から配当の効力発生日までの、配当を受けられる権利。配当の金額は、まだ決まっていません
- 未収配当金:配当の効力が発生して金額が決まり、まだ支払いが始まっていないもの
- 未受領配当金:支払いが始まって受け取れる状態なのに、配当金領収証を換金していないなどで、まだ受け取っていないもの
財産評価基本通達が評価のしかたを定めているのは、配当期待権です(168(7)・193)。未収配当金は、実務では源泉徴収される税額を引いた金額で評価します。未受領配当金は通達の用語ではなく、支払開始日のあとに換金されずに残っている配当を指す実務上の呼び方で、未収配当金の一つと考えられます。
Case A 基準日前~基準日当日(例:3月31日まで)
この時期に亡くなった場合、その期の配当は、まだ配当期待権でも未収配当金でもありません。相続税では、配当期待権を株式とは別に評価することはありません(評価するのは株式だけです)。
基準日の時点で、株式はすでに相続人に承継されています。そのあとに支払われる配当は、所得税では相続人の配当所得になります。
難しいのは、遺産分割がまとまるまでの間に、共同で相続した株式から生まれた配当を、誰が取得するかです。ここは裁判例が分かれています。
- 名古屋高裁平成23年5月27日判決:配当金請求権は金銭債権で、各相続人が相続分に応じて取得するとした
- 大阪地裁令和7年3月14日判決:相続開始から遺産分割審判の確定までに発生した配当について、配当金支払請求権は株式に含まれる「剰余金の配当を受ける権利」が具体化したもので、相続分に応じて当然には分かれないとした
大阪地裁の判決は、配当は株式の使用の対価として生じるものではないので、賃料のような法定果実とはいい難いとしています。賃料について各相続人が相続分に応じて取得するとした最高裁平成17年9月8日判決を、配当にそのまま当てはめることはできません。この点について判断した最高裁の判例は、まだありません。
どちらの考え方に立っても、遺産分割協議書で、株式とあわせて配当を誰が取得するかを書いておけば、はっきりします。
Case B 基準日の翌日~効力発生日(例:4月1日~6月26日)
この時期に亡くなった場合は、配当期待権として整理します。基準日は過ぎていますが、まだ配当の効力が発生していないので、金額の決まった未収配当金ではありません。
相続税では、配当期待権を、株式とは別の相続財産として評価します。評価額は、前期の実績や会社が発表している予想をもとにした予想配当の金額から、源泉徴収される税額を引いた額です(財産評価基本通達193)。大阪地裁令和3年11月26日判決も、配当期待権は経済的価値のある財産として相続税の対象になり、この評価のしかたは合理的としています。
所得税では、配当の効力が発生するのは亡くなったあとなので、その配当は相続人の配当所得になります。
ただし、効力発生日の当日に亡くなった場合は、相続税の配当期待権(効力発生日までの権利)と、所得税の収入の時期(効力発生日)が同じ日に重なるので、個別に確かめます。
同じ配当に、相続税(配当期待権)と所得税(配当所得)の両方がかかることになります。相続税は、亡くなった時点にあった配当期待権という財産にかかり、所得税は、そのあと具体化して相続人のもとで実現した配当所得にかかる、という整理です。大阪地裁令和3年11月26日判決は、これを所得税法67条の4が予定している課税の繰延べとして、違法な二重課税ではないとしています。
遺産分割では、配当期待権はまだ金額の決まった金銭債権ではないので、未収配当金のように相続分に応じて当然に分かれるとは考えにくい一方、株式を取得した人に当然についていくとも言い切れません。この点を判断した最高裁の判例はないので、協議書で配当期待権を誰が取得するかを書いておくのが確かです。
Case C 効力発生日の翌日~支払開始日の前日(例:6月27日~6月30日)
この時期に亡くなった場合は、配当の効力はすでに発生していて、金額も決まっています。まだ支払いが始まっていないので、未収配当金として整理します。Case B の配当期待権とは、ここで分かれます。
相続税では、確定した配当の金額から源泉徴収される税額を引いた額を、相続財産とします。所得税では、配当の効力が発生したのは亡くなる前なので、亡くなった方の配当所得になります(所得税基本通達36-4)。準確定申告の対象ですが、上場株式の配当は、申告しないことも選べます。
遺産分割では、未収配当金は、亡くなった時点ですでにある金銭債権です。金銭債権は相続分に応じて当然に分かれるという考え方が一般的(可分債権について最高裁昭和29年4月8日判決)なので、株式を取得する人にまとめるなら、相続人全員の合意として協議書に書いておきます。
なお、効力発生日と支払開始日を同じ日にしている会社もあり、その場合は、この時期はありません。
Case D 支払開始日以降(例:7月1日以降)
この時期に亡くなった場合、配当金はすでに受け取れる状態です。受け取り方で、整理が分かれます。
- 銀行口座・証券口座に入金済み:通常の預貯金・預り金として整理します
- 配当金領収証を換金していないなど、まだ受け取っていない:未受領配当金として整理します。未収配当金の一つで、相続での扱いは同じです
相続税では、受け取れる金額(源泉徴収後)か、入金済みなら預金の残高を相続財産とします。所得税では、亡くなった方の配当所得です。
遺産分割では、未受領配当金は未収配当金と同じく、相続分に応じて当然に分かれるのが原則です。亡くなる前に銀行口座へ入金済みの預金は、預貯金債権として遺産分割の対象になります(最高裁平成28年12月19日大法廷決定)。
なお、亡くなったあとに配当が亡くなった方名義の銀行口座へ振り込まれた場合、同じ決定の鬼丸かおる裁判官の補足意見は、その入金も合わせた預金全体が遺産分割の対象になるとしています(多数意見がはっきり述べた点ではありません)。証券会社の口座に入った預り金は、銀行の預金とは別に考えます。
配当金領収証で受け取る方式では、支払開始日から一定の期間(3年程度とされることが多い)を過ぎると、受け取れなくなることがあります。
古い配当金領収証が出てきたときは、早めに株主名簿管理人(信託銀行などの証券代行部門)に確かめます。証券会社の残高証明書だけでは分からないことがあります。
遺産分割協議や目録では何を書いておくと安心か
配当金で後から止まりやすいのは、株式を取得する人だけが決まっていて、配当金の整理が見えていない場合です。協議書や財産目録には、次のことを書いておくと安心です。
- 株式を誰が取得するのか
- Case A なら、遺産分割までに生じた配当を誰が取得するのか
- Case B なら、配当期待権を誰が取得するのか
- Case C・D なら、未収配当金・未受領配当金を誰が取得するのか(入金済みなら預貯金として)
これらをまとめて拾う条項は、たとえば次のように書きます。株式を取得する条の第2項として添える形です。
2 前項の有価証券に係る預り金、配当金、分配金、利金、償還金その他当該有価証券に付随して生ずる金銭及びこれらを受領する権利(配当期待権、未収配当金その他相続開始時に未受領又は未確定のもの並びに相続開始後に発生又は具体化したものを含む。)は、相続人甲が取得する。
範囲を「その他一切の金銭」と広げすぎると、預貯金の条項と重なります。有価証券に「係る」もの、「当該有価証券に付随して生ずる」ものに限っておきます。条項全体の組み立ては、次の記事で整理しています。
日付で区分は決まります。止まるのは、配当の取り手を決めていないとき
どの段階の配当かは、亡くなった日と、基準日・効力発生日・支払開始日を並べれば決まります。相続税で何を財産とするか、所得税で誰の配当所得になるかも、そこから決まります。
本当に詰まるのは、遺産分割で誰が取得するかです。配当期待権や、遺産分割までの間に生じた配当は、法律上の扱いがはっきり決まっていません。協議書に書かないまま株式だけを分けると、配当を受け取る段階で、相続人全員の書類がもう一度必要になります。
分かれ目は、亡くなった日が基準日の前か後かです。前なら、遺産分割までに生じた配当を誰が取得するかを、後なら、配当期待権や未収配当金を誰が取得するかを、協議書で決めます。
全体の流れの中でいまどこを考えているかは相続の道筋地図で、似た状況でほかのご家族がどう決めたかは相続の判断例で確かめられます。
株式相続の記事は、進む順に並んでいます
この記事は、配当金を日付で厳密に整理する詳説の記事です。全体像から確かめたいときは入口の記事へ、条項の書き方は名義変更の記事へ進んでください。
- この前に読む:株式相続で配当金はどう扱う?(配当金の入口と受取りの実務)
- このあとに読む:株式相続の名義変更(必要書類と遺産分割協議書の書き方)
- 株式そのものの整理:いつの株価で考えるか/本当に何株あるのか
- 全体像に戻る:株式相続の手続き
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司法書士からのアドバイス
株式相続では、株数や口座の確認までは意識されやすいのですが、配当金はどうしても後ろに回されやすいものです。
けれども実務では、最後に整理が必要になるのは、むしろこうした周辺のお金のほうです。株式の帰属だけでなく、どの段階の配当金なのかまで見ておくと、全体の整理がかなり安定します。
上場株式そのものの遺産分割は別に検討しつつ、配当金については、配当期待権・未収配当金・未受領配当金・預金のどこに当たるのかを分けて見ていくことが大切です。相続税の申告が必要な場面では、税理士と連携して確かめます。
「亡くなった日と配当の日付の関係が分からない」「配当金領収証が出てきたが、どう扱えばよいか分からない」という段階でも、ご相談いただけます。初回のご相談は無料です。