世界開発報告(WDR)2019:仕事の本質の変化
昨日は世界銀行主催のこちらのイベントへ行ってきました。日本人側の登壇者の英語レベルが少し拙く感じましたが、世銀側のフェデリカさんは丁寧な英語でとても示唆に富んだお話で面白かったです。
■挨拶・モデレーター 大野泉(国際協力機構 JICA研究所 研究所長)
まずはモデレーターの大野さんのご挨拶から。
1.テクノロジーによって代わりゆく仕事→政府の役割や税収の定義など
2.労働条件の変容→どのような労働スキルを持つべきか
3.人的資源の現状を知るためのHuman Capital Indexについて
エチオピア含め新興国の人件費が上がってきている(アパレル外資なども進出)。
裁断などのハード面の技術は身につけられるが、チームワークや時間厳守で出社、などの社会行動的なソフト面の教育はどうすべきかが課題。
■講演 フェデリカ・サリオラ(世界銀行 世界開発報告(WDR)2019執筆担当共同局長)
続いてメインのフェデリカさんの講演。
Future Workについて、○の国でXXの雇用数がなくなるなどの否定来てなシナリオが多いと感じるが、Old sectors(製造業など)では自動化(Automation)によって雇用が減る一方で、技術革新(Innovation)によって雇用が新たに創出されると考えている。
ヨーロッパのここ18年では、2000万人の新たな雇用が産まれている。
雇用を失った労働者が新しく創出された雇用に穴埋めできるかというと、一概にそうとは言えないので政府の介入などが必要。
直近はクラウドのみで存在している巨大企業も産まれて来ている。
IKEAは500億ドルへ成長するのに70年掛かったがAlibabaは15年で7000億ドルへ到達。
4〜10%の法人税がTaxHeavenに消えていると言われている。
政府はすべての人を雇用するのが理想だが実際は難しいので以下に注力。
①Human Capital and Lifelong Learning
子供の4人に1人が発育が遅れており、大人の6人に1人が識字率が足りていない。
人的資本への投資に対しインセンティブが見えづらいため政治家は投資したがらない。
成果が見えるのは大抵の場合30年後。
Human Capital Indexで55の指標の場合、18歳の段階での生産性が55%ということ、45%は機会損失となる。
幼児教育は非常に重要、3〜6歳で学ぶ期間で機会損失すると後で取り戻せない。
早く変化する労働市場に対してより柔軟に対応できる人材の教育が必要だ。
②Social Protection and Labor Policies
UBER driverのような雇用が問題となっている、Taxiと違いアプリのために仕事をしている
彼らは仕事でも自営でもなくプラットフォームのために働いている、正しく分類できない
平均65%がずっと変わらずInformal経済で変わらないのが意外だった、インド90%、US70%
社会保障などが無い、間違った方向への収斂が発生していると考える
新興国での企業にとっては労働規制が例えば24ヶ月の失業保険を義務付けられることで、それを嫌がってInformal経済から雇用抜き出す事が多い
③Revenue Mobilization
多くの国がUniversal Basic Incomeを配ろうとしている
ネパールはコストが結構発生しそうで全体の25%ほどまで言ってしまいそう
実際そうなるとかなり厳しい(投資は現実的にムリ)
■討論 山形辰史(立命館アジア太平洋大学教授 国際開発学会会長)
続いてディスカッション形式で山形先生のお話。
技術の進歩が必ずしも雇用をへらすのか→答えはNoだと考える。
1.低技術の労働者が必ずしも被害者になるとは限らない
繊維産業では過去にラッダイト運動が発生、技術と労働者の戦いがあった
Tailorのような高技能者とミシンが置き換わった
ディスラプトされたのは高技術保持者側の方だった
低技術者は低賃金のために雇われ続けるだろうという想定が出来る(低技術者がいつも仕事を奪われるとは限らない典型例)
繊維産業のバリューチェーンの中では川上の部分がマシンに置き換わり、低技術の労働者はStayし続ける
■相賀裕嗣(国際協力機構(JICA)国際協力専門員)
最後の相賀さんの講演。Human Capital Indexの算出ロジックについて。
HCI=
Probability of survival up to 5 yr(5歳まで生き残る確率)
×
Relative ratio of learning-adjusted years of school(学校で正規に学んだ相対比)
×
Proportion of children under 5 not stunted(発育阻害になっていない5歳以下の子供の割合)
以下は最後のQ&Aセッションでの内容について。
データの可視化が間に合っていない課題があり、むしろその現状を開示することで危機意識を世界レベルで目線合わせる狙い。
仕事の本質がテクノロジーで変質してくる中で、社会行動的スキルをどう身につける教育が求められるか。
などのコミュニケーションが印象的でした。
■Q&A
Q:今年のWDRは高等教育の水準を言われているが本当にそうなのか、教科書型の教育は初頭・中等に注力すべきかと思う
A:フェデリカ・サリオラ
初頭・中等が重要でないという印象は与えたくないとは思っている、住宅の基礎が重要なように教育では初頭・中等だ
我々が提示したいメッセージは、労働市場の移り変わりを見ると基礎のみでは十分ではない、技術が市場に浸透し始め対応が求められている
Q:レガシー企業を残して新しい産業を殺す方向に日本の政府は動いている気がする、政府の正しい役割とは
A:フェデリカ・サリオラ
政府はインフラに責任を負うべき、役割を求められる面と障害にもなり得る、規制のバランスのとり方は大事
柔軟に調整した多様な規制や専門家が必要、再訓練も求められるだろう、教育もそうだがファイナンスへのアクセスは政府がサポートが必要
Q:社会人の経験で学ぶような高等な学習について、社会的行動スキルについて、どのような教育が必要とされると思うか
A:フェデリカ・サリオラ
社会行動的スキルについては、一緒に行動して取り組んでいるシーンで手に入れやすいものもある
大学がPrivate sectorとやったり企業インターンに参加したりという事も良い取り組みである
中国のレノザ大学ではHubとして学生が社会行動を覚えられるような授業を受けられるよう工夫している
Q:HCIと将来について
A:フェデリカ・サリオラ
まだ測定の課題が残っており、データが圧倒的に不足している、信頼できるデータがない
Indexをパワフルにするため比較のスケールが大事、政府のインセンティブは比較された時にトレードオフのインセンティブが産まれる
現時点で計測できないHCIに盛り込めていない、Kimさんがデータ不足している点自体もアピールすべきとして発表した
WDRの1.0Verで人々の関心を集める、40年間の議論がこの後ろにある、これからの3年間でHCIのIndexを出していく、国が増えていく
Q:Africaについて
開発発展のモデルの筋道(農業→工業→サービス?)は今までと同じでは無いかもしれない、だからこそ教育への投資は大事
インフラへの投資はもっと大事だ、世銀はDigital Workshopをアフリカでやっている
製造という話しで言うと消費する若年層の人工が多くいる点が競争優位を築くのではないかと思っている
ナイジェリアでは電力へのアクセスさえ課題として残っている状態である