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言葉のリズムと筆運び

2025.10.30 09:00

「坂本龍馬が、言いました。」

 9月の自民党総裁選での高市早苗首相の演説で引用されたのは、龍馬が姉・乙女に宛てた手紙の一節、「日本を今一度、洗濯いたし申候」でした。


演説の内容も印象的でしたが、心に残ったのは、その“言葉のリズム”でした。力を込めて言葉を放つ部分と、ふっと呼吸を置く部分。ゆっくりと語りながらも、わずかな間のあとにすっと言葉が流れ出す。そして時折やわらかな関西弁を交えながら。その自然な緩急が、とても心地よく感じられたのです。


教室では、生徒さんからよく「墨の量をどう調整すればいいのかわからない」と質問を受けます。「ゆっくり書くと墨がにじむし、速く書くとかすれてしまう」と。もちろん墨量の調整も大事ですが、それ以上に大切なのは筆の運び方です。


筆は、ただ一定の速さで動かせばよいわけではありません。ゆっくり運ぶところ、すっと抜けるところ、そして静かに筆を収めるところ。その“遅速のバランス”を身につけることで、線にいのちが宿ります。にじんでも、かすれても、そこに生きたリズムがあれば、線は豊かに見えるのです。


高市首相の演説を聞きながら、その間合いの取り方に、筆を運ぶリズムと重なるものを感じました。焦らず、緩みすぎず。言葉が持つ重さと流れの両方を大切にしているように思いました。


言葉も書も、ただ正確であるだけではなかなか相手に伝わりません。そこに「呼吸」が通ってこそ、見る人・聞く人の心に届くのだと思います。一見、滑らかな言葉や線に目や耳が行きがちですが、本当に大切なのは“その人の呼吸が感じられる”こと。


次の展覧会作品は、私の呼吸を感じてもらえる線をめざそう。そんなことを思った、静かな秋の夜でした。