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《月の祈りⅠ – 月光の雫》 ― 旅人、最初の夜に祈る ―

2025.10.30 03:30

静寂の夜、旅人は初めての祈りを胸に歩き出す。

心の奥に沈む光を見つけるまでの、最初の物語。



――旅人、最初の夜に祈る――

世界が眠るように静まり返った夜。

旅人はひとり、冷たい風の中を歩いていた。

どこまでも続く暗闇の中、

心の奥に重たく沈むものがあった。

それは悲しみか、後悔か、

あるいはまだ名を知らぬ感情だった。

波の音が近づく。

月明かりが海面を撫で、

揺らめく光が足元に広がっていく。

旅人は立ち止まり、その光に手を伸ばした。

月が映る水面に触れると、指先に冷たい震えが伝わる。

けれどそれは、どこか懐かしく、優しい温度でもあった。


胸の奥で、何かがほどける。

長く押し殺してきた涙が、静かに頬を伝った。

波が寄せては返し、足跡をさらっていく。

それでも、誰かと歩いていたような温もりが残っていた。


そのとき、手のひらに小さな雫が光を宿した。

白く、淡く、夜の静けさを抱くような光。

それが、旅人の“月光の雫”だった。


「涙は、弱さじゃない。祈りのはじまりだ。」

月の光が、海を照らす。

旅人はその道をたどるように歩き出した。


もう、迷いはなかった。

夜はまだ深く、けれど心の奥には、

小さな月が確かに輝いていた。  


――旅人の祈りとは、涙が光に変わる瞬間。


旅人は夜明けの空の下、ひとすじの光を追いかけて歩き始める。