《星の巡りⅠ – エリオンとの出逢い》 ――星々の記憶を渡る者――
《星の巡りⅠ – エリオンとの出逢い》
――星々の記憶を渡る者――
森を抜けた旅人の前に、夜の果てがひらけていた。
空と地の境は消え、ただ星の海が広がっている。 音も風もなく、宇宙が呼吸をしていた。
その中を歩くたびに、足もとに小さな光が生まれ、 波紋のように広がっては消えていく。
ひとつひとつが、誰かの祈りのかけらのようだった。
ふと、遠くの光がゆらぎ、人の形を結んだ。
淡い青に身を包んだその存在は、 両手で『光』を運んでいるようだった。
けれど、ふいにその指先からひとつの欠片がこぼれ落ちた。
旅人は思わず駆け寄り、手を伸ばした。 掌に触れたそれは、光の結晶。
青と金がゆらめき、 まるで心臓の奥に眠る“何か”が形になったようだった。
「……それは、星のかけら。」 光の人が静かに言った。
「遠い夜に生まれた祈りの断片さ。」
旅人はその言葉を聞きながら、光を見つめた。
中に、どこか見覚えのある色があった。
あの日、誰かの手から放たれたような――。
けれど、思い出そうとすると、柔らかな霧に包まれる。
「大切なもののようですね。」
「そう。だけど、手放されたものほど、よく光る。」
エリオンは微笑み、旅人の手の上に手を重ねた。
二人のあいだで、かけらがひとつの灯となる。
波紋のような光が広がり、夜が優しく揺れた。
「君に託そう。光は、渡された瞬間に新しい意味を持つ。」
旅人は頷き、胸に抱くようにしてそのかけらを見つめた。
不思議と心が静かで、どこか懐かしい温度に包まれている。
エリオンの声が、星々の中で響いた。
「君が次に出逢う場所で、その光はまた目を覚ます。 それが“めぐり”というものさ。」
旅人が顔を上げたとき、エリオンの姿はもう、星の流れに溶けていた。
残されたのは、掌の中のあたたかい光。
遠くで、誰かが筆を走らせるような音がした。
空のどこかで、微かな煌めきが生まれる。
旅人は歩き出した。 胸に抱いた光が、道を照らしていた。
――それは、かつて手放された祈りが、 形を変えてめぐる“輝きの循環”だった。
“祈り”が“夢”を生み“夢”が“光”となって世界をめぐる、人の心の奥に流れる永遠のリズム
そして、エリオンが示した「星の記憶」の物語だった。