アーユルヴェーダ薬草オイルができるまで
──ひと滴に宿る、植物と人の叡智──
アーユルヴェーダの薬草オイル(Taila / Ghrita)は
ただ「ハーブ入りのオイル」ではありません。
植物の水の性質・油の性質 その間で起こる変化が緻密に計算された
まさに“生命科学のエッセンス”ともいえる存在。
ここでは
「どう作られ、なぜ特別なのか」を わかりやすくお伝えします。
1. 原料は「植物+水+油」という究極のシンプルさ
選び抜いた薬草を粉砕し、少量の水を加えて練っていきます。
この工程は、植物に「目を覚ましてもらう」プロセス。
水が細胞を膨らませ 油溶性成分がにじみ出しやすい状態に変わります。
→ この時点からすでに植物の香りが立ち精油の元となる分子が動き始めています
2. 薬草、水、油を一緒に煮ていく ──“三位一体の抽出”
アーユルヴェーダ独特の抽出法は “油+水+薬草を同時に煮る” こと。
水は植物の細胞から成分を引き出す
油は脂溶性成分を取り込みながら熟成していく
熱によって成分が活性化し、油へと移行する
ここでは、アロマテラピーの精油抽出 キャリアオイル調合とは
全く異なる化学が起きています。
水と油が交互に作用しながら 植物のあらゆる成分が “丸ごと” 移るのです。
3. 水が完全に飛んだ瞬間、オイルが完成する
煮詰めていくと、最後に水がすべて蒸発し、薬草の脂溶性成分だけが油の中に残ります。
これがアーユルヴェーダ薬草オイルの大きな特徴。
精油のような“揮発性成分”
いわゆるハーブティ(煎じ液)に溶ける“水溶性成分”
フローラルウォーターに溶ける“水溶性&脂溶性成分”
キャリアオイルに溶ける“脂溶性成分”
これらが バランスよく1つに溶け込んだ植物のエキス になります。
アーユルヴェーダ薬草オイルはなぜ特別なのか?
① 精油+水溶性成分+油溶性成分まで含む“フルスペックオイル”
アロマのキャリアオイルは、 精油(揮発性)+植物油(脂質)を「あとから混ぜたもの」。 一方、アーユルヴェーダ薬草オイルは 植物の成分を丸ごと抽出して、油そのものを“薬”に変えたもの。
だから香りも作用も深いのです。
② 乳化現象・多糖・サポニンによる“微細な分散”で皮膚浸透が高い
薬草に含まれる サポニン(天然の界面活性成分) 多糖類、粘質物質 微細な粒子 これらが抽出の過程で自然に乳化・分散し、 粒子が非常に細かい ため 肌にのせるとスッと浸透していきます。
→ ベタつかず、皮膚の奥の層まで 届きやすいと言われる理由がここにあります。
③ 酸化しにくい(賞味期限が長い)
不思議に感じるかもしれませんが、 伝統製法で作られた薬草オイルは酸化しにくいのが特徴。
その理由は:
加熱により油中の水分が完全に抜ける(酸化の大きな原因が水)
抗酸化成分(ポリフェノール、フラボノイド)が油に溶け込む
精油成分の中にも抗酸化を助ける分子が多い
→ 化学的にも、伝統的にも“長持ちする油”とされています
④ オイルなのに「軽い」「スッと入る」「深く温まる」
これは、加熱と抽出による分子の変化が関係しています。 アロマのキャリアオイル+精油は“混ぜただけ”なので 油の重さがそのまま残ります。
一方、薬草オイルは…
加熱により油の粘度が低下(軽さが生まれる)
植物成分がナノレベルで分散
油の性質が“薬としての性質”に変わる
そのため、塗るとすぐ体温と共鳴し 浸透しながら内部を温め、ゆるめ、巡らせるという 独特の作用が生まれます。
アーユルヴェーダ薬草オイルは “植物の命を写したオイル”
アロマのブレンドオイルが 「香りと気分を整えるもの」だとしたら アーユルヴェーダ薬草オイルは 植物の生命力をそのまま身体に届ける本質的なオイル といえるのかもしれません。
古来より
心
身体
感覚器官(神経)
生命エネルギー(プラーナ)
すべてに働きかける“薬”として重宝されてきた理由が、
現代の科学で説明できるようになってきています。
ここ半年間、スリランカのアーユルヴェーダドクターから 本格的な薬草オイルの性質や使い方そして薬草オイルそのものの製造法を改めて学んできました。 ようやくひと区切りつき、少しだけ気持ちがホッとしています。
アーユルヴェーダの伝統的な薬草オイルの製法は、
とにかく時間も手間もかかって、正直ものすごく大変。
一つひとつの工程に「こんなに丁寧に?」と思うほど、
気の遠くなるような作業が続きます。
一方で、それを発展させた現代的製法には、
伝統の中にある曖昧さを補ってくれたり科学的に理解しやすい形に整えてくれたりします。
でも、その“曖昧さ”こそ、私にはとても魅力的に感じられました。きっちり数値化できない、言葉にできない部分の中に植物のロマンや、古来からの知恵が息づいているように思うのです。
しかし、目覚ましい科学の進歩により時代が進むとともに、これらが解明される日もそう遠くはないとも思っています。
そもそも
この伝統的製法が数千年も受け継がれてきたのは、
「本当に効果があったから」
経験という“症例”が静かに証明してきたのだと感じます。
今回学びを深めれば深めるほど、 薬草オイルは単なる“植物オイル”ではなく、植物の命そのものを宿した特別な存在だと実感いたしました。
水と油、そして火の力の中で、 薬草の細胞がゆっくりほどけていき、 大切な成分がオイルへ溶け込んでいく。 そのプロセスを見ていると、
「植物って、こんなにも深い世界を持っているんだ…」と
胸がじんわり温かくなる瞬間があります。
これらが理解できた瞬間が私の最高の喜び。
これまでの探究心はここに集約されるためだったとも思えるくらいです。
アーユルヴェーダ薬草オイルは、 肌に塗る前から香りや温度で心をほどいてくれるようなそんな“やさしい力”を持っています。
今回は長年植物に関わってきた
私の視点で最大の疑問と大好きな分野であったトピック
・薬草オイルがどう生まれるのか
・なぜ特別で、アロマの精油とは全く違うのか
・酸化しにくく、浸透がよい理由
を、できるだけわかりやすくまとめてみました。
私自身がずっと疑問に思っていたこと、
仮の見立ての確かめ算がようやくでき 長年の疑問が解消されました。
アロマテラピーや メディカルハーブを学んできたからこそわかる
プラントオイルや精油、
インフュージョンオイル(浸出油)やチンキ剤との違い
セラピストとして使用するオイルだから
ホームケアとして使用を勧めるオイルだからこそ
きちんと知らなくてはならないこと
現役のアーユルヴェーダドクターからの
生きた知識が学べるという環境に感謝。
まだまだ探求心は止まらない。
学び続けることも大切ですが アーユルヴェーダを
アーユルヴェーダ薬草オイルの有効性を
一般社会に活かせなければ意味がありません。
得た知識を自分の血や肉として落とし込み熟成させ
今後はこれまでの知識を総動員し
自分の言葉に変換させてゆくことに 努めたいと思います。
植物療法やアーユルヴェーダが好きな方、
自然の力に興味がある方に、 ぜひ読んでいただけたら嬉しいです。
もっと詳細を知りたい方向けの講座も企画中
自然の叡智が、どなたかの暮らしを
そっと支えてくれるきっかけになりますように。